進軍開始!
ーリュフミュラン
「あの魔ローダーには誰が乗っているのですか?」
砂緒が正規軍騎士団の先頭を歩く巨大な魔ローダーを見上げて、近場の適当な騎士に訪ねる。
「知らないのですか? あれには雪乃フルエレ殿が乗っておられますよ!」
遂に各国の軍隊がニナルティナ王国に侵攻する期日となっていた。砂緒が多少驚いて続けて尋ねる。
「つまり、港湾都市を経てニナルティナ国民の精神的支柱となっている大屋台街に、魔ローダーと正規軍騎士団と私が並んで進軍する訳ですか?」
住民に避難などの時間を与える為に、各国から侵攻の通告を受けたニナルティナ王国は大混乱に陥り、多くの家臣や軍団の離反が相次ぎ、もはや戦闘らしい戦闘は起きないだろうと予想されていた。
「つまり中部の城明け渡しに直接向かうライグ村の義勇軍や冒険者隊の皆さんを露払いにして、後々に堂々と城に入城すると?」
まくし立てる様に聞かれ、鎧姿で馬に乗った騎士は多少困った様な顔をして答えた。
「は、はいつまりそうなりますね」
「はははははは、それは愉快な姿ですね。それでは私は義勇軍と共に進む事とします。貴方達はフルエレの事をよろしく頼みますよ。最も彼女が一番強いのでしょうが」
砂緒は一切自分に相談される事無く魔ローダーで出撃したフルエレを気遣って言った。
「あ、お待ちを……」
事前の手筈を無視して走り去ろうとする砂緒に戸惑う騎士。しかしそこに突然七華リュフミュラン王女が、砂緒の白い馬の前に立ちはだかった。
「危ないでしょう!」
慌てて巧に馬を止める砂緒。
「降りて下さいまし」
めんどくさいなあ……と思いながらもこれだけのギャラリーの手前、王女の願いを無下にも出来ず、砂緒はさっと馬から飛び降りた。
「なんでしょう……」
「フルエレとは違うルートを辿るのですか?」
「偶然です、そういう事ではありません。戦力が偏り過ぎていると判断したのです。フルエレは関係ありません」
七華王女はふわっとした甘い香りと共に砂緒より少し高い背丈の身を屈めて、砂緒の胸に頬を寄せた。
「ごめんなさい、また昔の癖でおかしな事を言ってしまいましたわ。でも今でも貴方様がフルエレの事を想い続けている事は分かっています。でも……聞いて下さい、最初はフルエレに意地悪したり、貴方をからかったり……そういう気持ちが無かったと言えば嘘になります。けれど今は違うのです。貴方と短い間でも一緒に過ごせて、本当にお慕い申し上げているのです。例え敵が出ない戦だとしても、本当に本当に心配なのですわ……」
「……そう言いながらも砂緒から見えない王女の口は妖しく不敵な笑みを浮かべていたのだった……」
「もう! 変なナレーションを語らないでくださいまし! 意地悪っ」
怒りながらも笑顔で砂緒の胸をぽかぽか叩きまくる王女は本当に可愛く見えた。
……どうした事だろう、最近七華王女は本当に可愛い王女なのではないか? 本当に自分の事を好きでいてくれてるのではないか?
という思いが浮かんでは、いかんいかんと振り払う事が多くなって来ていた。しかもそもそも何で振り払う必要があるのだろう
……という危険な考えすら浮かんでくる時もあった。




