根名ニナルティナ王
ーニナルティナ王城、ハルカ城
「どうした酒が足らんぞ! 美女達はどこに行った!?」
豪華なローブを身に纏い、大仰な玉座に座りながら赤い酒を飲んでいる男が怒鳴り散らす。
「美女達は昨日の内に全員消えました」
お付きの者が恐る恐る伝える。
「何い! 我が大恩を忘れ逃げただと!? どいつもこいつも許せん、斬れ!!」
赤い酒が入ったグラスを床に叩き付けて割る男。この者こそかつてセブンリーフ大陸の盟主と謳われた強国ニナルティナ王国の王、根名ニナルティナ王その人だ。
リュフミュランに限らず周囲の大半の国から侵攻の通告を受けるという風前の灯火の今、この国の王城ハルカ城はかつて無い程の混乱の極みにあった。
勝手に消える家臣、兵隊と共に敵国に降る将軍、差し出す為に王の命を狙う者。
王自身も疑心暗鬼にかかり罪なき者を罰し、今まで蓄えた金銀財宝を周囲に並べ、それを眺めながら酒に溺れる日々を送っていた。
「おやおや、やはり国が亡びる時というのは、どこも似たり寄ったりな物なのですねえ、実にわびさびがあります」
全身の怪我を隠す様に大きなマントを羽織り、口に四葉のクローバーを爪楊枝の様に咥えた三毛猫仮面がフラリと現れては、王の玉座の飾りが沢山付いた背もたれに腰を掛ける。
「今頃何をしに来た! この役立たずの用心棒が!」
王が振り返って無礼にも背もたれに腰掛ける三毛猫を怒鳴り散らす。
「これまで貰った分はそこそこ働いていますよお、感謝してもらいたい物ですねえ。今わざわざ舞い戻って来たのは、センチメンタルと言いましょうか」
「あんな物を持っているなら何故最初から出さなかった!?」
「あれは家宝な物でおいそれと出せないのです。しかし、センチメンタルな気分になったので出してみようかなと思いまして。これはサービス残業の様な物です」
「まあよい……儂が北の小島に逃げる時間を稼ぐくらいの働きはしてみせよ」
急に小声になり三毛猫の耳元で話すニナルティナ王。彼は早々に戦争を諦め、部下達に最後まで戦わせながら、自分は北の小島から船で脱出しようと計画していた。
「ははは、それくらいはお安い御用です。心置き無くお逃げなさい」
「これ、声が大きいわい」
王が家臣から差し出された別のグラスで赤い酒を飲み干す。
「おい、魔導士を呼べ! サーペントドラゴンの召喚の準備をさせておけ!」
「王よ、あれは制御が効かず、防御兵器としては不向きで御座います!」
側近の者が恐る恐る諫言する。
「うるさい! 儂の言う様にやっておれば良いのだ!」
ばしゃっと赤い酒を頭からぶっかける王。
「もうやっておれません、さらばで御座います!」
また一人家臣が逃げた。
「魔導士共には私から伝えておきましょう。連中は実戦で魔法が使えれば何でも良い狂った連中です。喜んで命に従うでしょう。しかし街がグチャグチャになってしまうでしょうが」
「もはや離れる身なれば街など壊れた方がせいせいするわい。儂の事を愛さぬ民等、国と共に壊れてしまえば良いのじゃ」
「これはこれは……」
(これはこれは、センチメンタル等と言ったが、私の故郷と比べると、さしもの故郷にも申し訳ない様な三流国家と三流王でしたな、せいぜい滅びに華を添えましょうか)
三毛猫仮面は最大限見下した顔で根名ニナルティナ王を見た。
※のちの情報が含まれています。




