や、やっぱり乗ります……
「失礼しました……、てっきり敵の怪しい間者か何かかと……すいません今呼ばれてるんです。いつかちゃんと自己紹介したいです。私今『速き稲妻』と呼ばれてる、魔導士のメランと言います! 光栄です見てて下さいねっ!」
メランと名乗った黒いトンガリ帽子の魔導士の少女はぺこりと頭を下げると、たたたと天蓋の中に走って行った。
彼女は城を守り切った功績から、既に速き稲妻という二つ名を持つ有名人になっていた。最も稲妻は砂緒の電気攻撃と多少混同されていたが当人はお気に入りだった。
「おお、メラン君丁度今君の噂をしていた所だ、もう乗っても大丈夫かね?」
「はい! 一日疲れを取って今は又乗りたくて仕方ないです!!」
そう言うと彼女は、さっき魔導士が吐血しながら落ちて来たハッチから梯子で飛び乗ると、バシャッとハッチを閉じすぐに魔ローダーを立つ姿勢に戻した。
「では剣の素振りのポーズ出来るかね?」
「はいっ!」
王宮技術者の指令がかかると、すぐに魔ローダーが棒を握った様なポーズになり、振り被ったり振り下ろしたり斜めに構えたりした。
「大丈夫かね? 無理しなくとも良いのだよ」
「大丈夫です!! 気合です!!」
十分ほどが経った。
「す、すいません……もう正直しんどいです……はぁはぁ」
魔法力によるスピーカーの様な物から息も絶え絶えなメランの声が聞こえ出した。
「構わない、すぐに降りなさい!」
「素晴らしい……どんな高位な魔導士でも二~三分が限界なのに……」
降りて来たメランは冷や汗をかき、片目をつぶりよろよろの状態だった。周囲の大人たちが走り寄り、フルマラソンを走り切ったメダリストを迎える様にケアを開始した。
「もっと……もっと長く乗ってみせます! フルエレ様だけに負担はかけませんよ」
「あの子は無限の魔力があるのか凄いのだが……多少精神的に浮き沈みが激しいのかもしれない。その事も考慮しなくてはならないね……」
「フルエレ行こ……」
年下の猫呼に気を遣われ、天蓋を後にする二人。これではどっちが接待役か分からない。心なしかフルエレはとぼとぼ歩きだした。
「ちょ、ちょっとやっぱり猫呼ちゃん待ってて」
だが突然フルエレは切羽詰まった様な顔になると天蓋の中に走り入った。
「おわっ!?」
「フルエレ……さん?」
軽く悪口を言っていた技術者達がバツが悪そうな顔をする。
「魔ローダーには私が乗ります! この魔ローダーは砂緒と私が二人で見つけたんです! 私の物です!! 勝手に……乗らないで下さい……」
半泣きで叫びさっき言われた通り、精神的に浮き沈みが激しい事を証明してしまうフルエレ。
「あちゃ~」
猫呼は猫耳の頭を抱えた。
「私が、今度の侵攻にも一人で乗ります!」
「フルエレさん……彼女の言う通り……これは彼女の、大切な物なのよね……」
メランが苦しい中で笑顔を作り、フルエレに賛同した為に話は決まった。




