盗んだ魔輪で走り……a
ヒュヒュヒュヒュヒュヒューーー
さらに音が連続した子気味良い物に変わった。
「かかったわ! 良かった私程度の魔力でも魔ァンプがかかって。あ、これって魔力を込めれば動く乗り物なの。魔力が無い人は蓄念池が空になると動かないの」
砂緒は現世の内燃機関とは全く違うこの異世界の魔法駆動力の乗り物を不思議そうに眺めた。
「これは名前の通り、海も走れるのですか?」
「え、何で海?」
唐突な質問にフルエレはちょっと首を傾げたが、相手はゴーレムさんなのだと思い丁寧に解説する。
「魔輪は陸上の道しか走れないのよ水上は無理ね。それに四輪の物が魔車、似た物に馬で引く馬車があるわ。魔輪や魔車はとても高額だから一般人は馬か馬車よ。このサイドカー付きの魔輪はニナ軍用の特別製ね。無骨だけどとても素晴らしい逸品だわ」
急にペラペラと饒舌にしゃべり出したフルエレに、少しあっけにとられる砂緒。
「失敬な馬車は知ってますぞ! しかしご婦人の方というのはこういう機械だとか乗り物だとかって嫌いで苦手だと思ってましたが」
砂緒の発言に急に我に返った様に赤面して、たどたどしさが少し戻るフルエレ。
「あ、うん……私魔力はあるのにもうどんなに努力しても魔法や魔術が使えなくて、どうせなら魔力で動く魔道具や魔法機械に詳しくなろうって勉強してる内に……こういうの好きになっちゃった。変……かな」
機械好きなんて変な趣味だと思われそうとでも思ったのか赤面するフルエレ。
「そんな事ないです。私物を大事にしたり拘ったりするニンゲンが好きです」
「まあ」
フルエレは例え自分を助けてくれる為とは言え、さっきまで恐ろしい形相で人を攻撃していたモンスターから、早速『人間、好き』みたいな言葉を引き出せて素直に嬉しかった。
「魔輪は水上を進めないけど、【魔ローダー】なんていう空を飛ぶ伝説の古代魔法機械もあるのよ。乗ってみたいな~魔ローダー!」
フルエレは両手を組んでうっとりした顔で言ったが、砂緒は怪訝な顔で彼女を見た。
「まろーだー……」
(空を飛ぶ?)
「う、ううう」
もたもたしていると遂に気絶していた二番目の子分格の男が少しうめき声を発してフルエレはビクッとする。
「うわああ、急がないとだめね」
雪乃フルエレは片手でハンドルを握っていた魔輪にスカートをたたんで跨った。
「じゃあサイドカーに乗ってね、私が運転するから」
彼女は横の箱に指を差した。
「はい、あ、その前にその気絶男を軽く殴ってさらに気絶させてから服を頂きます。でないと先程から貴方の眼球が私のこの辺りを時折チラっと見ては、すぐに視線を逸らすを繰り返ししきりに気にしてますよね」
下半身の辺りを指でくるくる回して指す砂緒。ジェントルマンな彼は卑猥な気持ちなど毛頭無く、本当に心からただ単にエチケットとして申し訳ないと考えて言っただけであった。
「ふゎ~~もう変な事言わないでください! 私の眼球は全く見てないです。貴方裸だというのは今気付いたくらいです!」