い、生きろ……
ー同じ頃、セレネ率いるスナコ救助隊一行
彼女の魔輪は急停車した。それに合わせて後から徒歩や魔法アシスト付き自転車で付いて来ていた生徒達も急停車する。
ズザザーーッ
「ちょっ急にどうしたんですかい?」
セレネの腰に両手を回すミラが肩越しに聞く。
「皆一旦降りるんだ」
「あいあい」
セレネの言葉に皆従った。
「皆も見た通り、イノシシ型モンスター共はやはりトドロの森の中に入って行った。恐らくスナコをさらった野人と合流してるんだろう。こんトドロの森の入口ば~一歩跨いだら、そこから先はケモノとケモノ同士の出会い角。まっとうな堅気の生徒さん出番なーここまでタイ」
セレネは風呂敷包みに隠していた魔法瓶の残りを広げた。
しゅるり……
「するっててぇとそれはつまり」
「どういう意味なんですかい?」
とりあえずミラとジーノが聞いてみた。
「あ、あのー私達は足手まといって意味ではないかと……特にラパンさんとヴィヴィアさんとか」
「居たの?」
「貴方もですよ、ユリィーナさん!」
何故か察しが良いリュデュアであった。
「そそそそ、こっから先はケダモノ同士の出会い喫茶にゃ」
「意味が違うでしょ」
「僕は一歩も引かない! たとえスナコちゃんがどんなあられもない姿で謎行為をされていようと、絶対に目を逸らさず肉眼で目撃するよ! ハァハァ」
「ルンブレッタさんはもうただの変態だろ?」
「よ~し、俺も太鼓の練習しながら皆を応援するぜ~クークックッ」
ドンドコドンドコ……
「太鼓お前か? 蘭観さん」
シュチャッ!
一通り無駄話が終わった所でリュデュア達堅気の生徒さん達なーは、涙を流しながら敬礼をした。セレネはそれを見守ると、包みから出した魔法瓶を掲げた。
「火の国育ちの不知火おセレが、焦熱地獄ばお見舞いするタイ……」
「お、どした?」
ミラとジーノが言った直後。
「ーしなっせ!」
ドォーーーン!
「良く聞こえなかった!?」
ドドーーーン!!
氷魔法が得意なセレネだが、もちろん炎魔法だって使える。だがそのセレネがスナコをさらわれた憎しみのあまり、余った魔法瓶をぽいぽい投げ始めた。
「や、やり過ぎっスよーーーっ!」
「うるさいわーーー」
ーその頃、手刀を切ったスナコはそそくさとその場を立ち去ろうとしていた。
「んじゃそういう訳でー」
「まて~や、依世を放置する気か?」
「るー?」
起きがけの依世は後ろ脚で頭を掻いた。
ガシガシッ
と、まさにその時であった。
ドドォーーーン
「何だっ!?」
「アバババッ!?」
スガーーン! ズドーーーン!!
激しい轟音が響く度に、暗い夜の森の中がパッと花火の様にまばゆく赤く輝き、その火柱の中に沢山の猪型モンスターが吹っ飛ばされていく。
「もしやこれはユティトレッドの正規軍か? しかし荒っぽい事を……とまあそれはさて置き、拙者そろそろドロン致すよ」
スナコは両手を組んで人差し指を立てた。
「いやこの状況で普通にドロンするなよ!? 依世や皆の事が心配じゃねーのかよ?」
フェンリルは牙を出し唾を飛ばして叫ぶが。
「あっしには係わりの無い事で」
ハードボイルドなスナコはクルリと背中を向けた。
ドドーーーン! ズガーーン!
「アーーッ」
「何々、一回でも私の事を頼って来た以上、このイノシシ型達は既に可愛い子分も同然だ? 私は命を懸けてでもこの森とイノシシ型の為に戦う、だと!?」
「嘘です絶対にアーッの中にその長文は無いでしょ」
カシャッ
しかし依世は野人の仮面を付けると、フェンリルの背中に跨り長い槍を構えた。
「アーッ」
「えー今度は何と?」
「スナコ、俺、お前の事好き。短い間だったが、家族出来て嬉しい。お前は生きろ。生きて可愛い子を産め」
シィーン
「いや絶対嘘でしょ? 急にカタコト感とかフェレット脚色してるでしょ?」
「してねーよ! 依世が言ったんだよって。もういいやっ! 俺達は戦いに行くぜっアオーーーン」
シュタタッシュタタッ
二人は言うや否や爆発が多発する地帯に走って行ってしまった。
(イキロ……)
スナコの脳裏に依世の言葉が繰り返される。
「チッ! くっ致し方ない」