森で川の字……
だが当の薄汚れた顔の依世はキョトンとしている。
「イ、イヨ? イッイッイヨーーッイッイ、イヨーーッ!? アババ」
「どうした、依世がぼ〇ちお〇む師匠みたいになっとるやないかっ」
途端にスナコは怪訝な顔をした。
「ニクニク、クエックエーッ」
「? 依世、もう野人のフリはしなくて良いですぞ?」
依世はいつのまにか持ち帰っていた肉に指をさしてスナコに食べろと示している。
「それ以上言ってもムダさ」
「なんと?」
スナコは何となく依世の現状を推察した。
「どうやら依世はお前を同じ爆発の被害者とみなし、仲間と思っている様だな。良いだろう、依世はとても精神的にショッキングな物を見てな、泣きながら帰っている途中に俺の背中から崖に落ちて頭を打ち、記憶を失ってしまっているんだ」
シィーン
スナコは一瞬言葉を失った。そのスナコを不思議な顔で見つめる野人、依世。
「アウーーッ?」
「記憶どころか、人間の大切な部分まで欠落してしまってるやないかっ! 一体何を見たと言うのだ!?」
「それは依世の名誉の為に言えねーな」
再びしばしの沈黙が続く。
「そして貴様はこうやって好きな衣世を独占していると?」
「チッ貴様、俺とヤルって言うのかい?」
フェンリルはキッと牙をむいた。
「依世を解き放てっ…………彼女は人間ぞ?」
「黙れスナコッ! 貴様に依世のショックが癒せるのか? 俺がいなかったら今頃依世は死んでいるんだぜ」
しかしフェレットの剣幕に比べ、スナコの顔は緩んだ。
「ふっやはり冗談も通じぬ犬っコロよ。拙者依世になぞ何の思い入れも無いわ! 其方が望むならば依世と末なごう暮らすが良いぞ」
「本当に、誰にも言わないのかよ?」
「フルエレ自身も特に依世と仲が良いとは思えぬ。拙者今日の事はもう忘れて帰るでござるピョンよ」
スナコは立ち上がると、クルリと背中を向けた。
「アーーーッ!」
「どうした依世?」
「む?」
スナコが振り返ると、依世は必死にスナコのスカートを掴んでいた。
「何のつもりだ?」
「クエックエッ!」
依世は必死に肉を喰えと勧めた。
「どうやらお前が肉を食わん限り帰さない様だぜ?」
「まあ良い、元々拙者が食べる予定の肉、此処で食べても問題あるまい」
スナコは武将さまの様にどっかと座ると、ムシャムシャと肉をかじり始めた。
「キャッキャッアバババ」
フェンリルはいつにない依世の笑顔が気になった。
(こんなに喜んでる依世は壊れて以来久しぶりだぜ……)
「ふふっ記憶を失ってまで変わった子よの?」
「な、ナカマーナカマッ!」
とにかく依世はとことん上機嫌であった。
「ふぅ馳走になったな! ではセレネやミラ達が心配しておろう拙者はこれで」
「アウーーーッ!」
直後、依世は犬の様にスナコのスカートを噛んだ。
「こ、これっう嬉しく無い」
「まあそう言うな、依世がこれ程こだわるのも珍しい」
「貴様、拙者が居ればお邪魔虫ではあるまいか?」
「いや、たとえ貴様でも依世が喜ぶなら居れば良いのサ」
「貴様、犬だてらに男よのぅ」
「ふっうるせえやっ」
とか何とか言っている間に夜になった。
「アーッ」
「どうやら依世は川の字になって寝ると言っている様だ」
「そんな複雑な言葉が、アーッの中に?」
しかし依世は言葉通り、草の布団を敷き笑顔でポンポンと叩いた。それを見て仕方なくフェレットとスナコは依世を挟んで川の字に寝ころんだ。
「まさか貴様と寝る事になるとはな!」
「うるせえ」
「アーッ」
依世の眠りは早かったが、スナコはなかなか眠れなかったという。
ー部室館前
パチパチ!
松明が煌々と輝く中、ハチマキを巻いたセレネが剣を掲げていた。
「よし、我々スナコ救出隊はこれより目撃情報により西の森に向かう、皆心せよ!」
「オーーッ!」
ミラとジーノとルンブレッタだけが片手を上げた。
「もうセレネ、明日にしない!?」
「ふざけ倒さないで下さい! 全部雪布留さんのせいでしょう?」
「そうかしら?」
「そうにゃんやで」
ゴゴゴゴゴ……
その時であった、地震とは全く異なる微妙な振動が辺りを襲った。
「何だぽ?」
スタタッ
「た、大変で御座います! 昼間の魔法瓶の爆発のせいで、元魔法小学校の校庭に封印されていた、猪型モンスターが復活してしまいましたっ!」
「マイヤー!?」




