七華と和解? 歓声の中、勝利と憂鬱
魔ローダー内の雪乃フルエレは殺戮の現場が、一転して祭りの様な賑わいに変わった事を戸惑いつつ、ハッチをバシャッと開けた。
「外の空気を吸おう……」
開いた下側のハッチのギリギリ先に立ち、うーんと背筋を伸ばして立つと、自ら切ってしまったショートカットの金色の髪が朝焼けに照らされた。
「フルエレ様っ! 雪乃フルエレ様!! 貴方様の御髪を奉じ舞い戻って参りました!!」
突然魔ローダーにフルエレの姿を見た正規軍の騎士団長が叫んだ。
「乙女の命とも言える御髪を……かたじけない! これで我々は救われ申した! 勝利の女神万歳!!」
おおーーっという歓声と共に巻き起こるフルエレコール。もはや何でも良いから人々は熱狂を持続させたい気分なのだろうか。
「や、やめて、私何もしてない! 本当に何もしていないのよ……」
トンネル工作を見逃した事も含めて、本当に隠れてしまいたい気分で戸惑うしか無かった。
人々の興奮がなかなか収まらない事を王は見逃さず、人々を王城の前まで招き入れた。
「砂緒さま、こちらですわ」
ずっと七華に腕を掴まれ拘束された砂緒は一般庶民や兵達と同様外側に待機では無く、王族や貴族待遇で王城の内部に居て、今度は王と共に傷付いた大バルコニーにまで連れて来られていた。
内心は酷くフルエレの事が気がかりだったが、直前の言い争いもあり七華を振りはらって飛んで行く気にもならず、言いなりになって振り回されていた。
その当の魔ローダー内のフルエレは騎士団のたっての希望で大バルコニーの真横に立っている。異様な形で砂緒とフルエレは近くに並んで立っていた。
そして大バルコニー、魔法で拡張された大音声で王の長々とした自慢話が延々と続く。そろそろ聴衆が帰り支度をしたくなる程興奮は醒めて来ていた。
「……そして今回の戦で大きな役割をした英雄が二人おる、一人がこの砂緒じゃ」
等とリュフミュラン王が砂緒を紹介した途端、真横で砂緒に抱き付いてむぎゅむぎゅ胸を押し付けていた七華王女がいきなり熱い口づけをした。
まさに王の賞賛と王女の感謝のキスという絵に描いた様な勝利の図だった。
(こ、こら止めろ……)
砂緒の心とは裏腹に手が勝手に七華の腰に回っていた。
前回と明らかに違う動きだったが、直ぐに正気に戻ってちらっと上を見ると、ハッチを開けたフルエレと完全に目が合った。彼女は無表情で何も言わずに見ていた。
(あ……)
そんな三人のやり取りとは別に冷めかけた熱気が、王女の熱いキスで再び盛り上がりを取り戻した。巻き起こる大歓声。




