勝利! 有未レナード脱出…b
イケメンだがかなり痛い有未が戸惑う部下の眼鏡を、スッと取ろうとした時にドアがガチャッと開いた。さっと眼鏡部下を抱き抱え警戒する有未。
「……やはりここだったか。何をやっているのだ?」
ドアを開けて入って来たのはイェラだった。
「お前……あの時の女か。いいね~美女にブスっと刺されるのも悪くないな。代わりに眼鏡を逃がしてくれんか?」
「有未さん!!」
「お前なぞ斬ったら剣が汚れる。お前たちが突入してきたトンネルの入り口の一つまで案内しよう。東面の森に出たら北の海を泳いで帰るなり、南の他国の領域に入るなり好きにしろ。これで貸し借り無しだ。西面の戦いはほぼ終わった、もう死体しか無いだろう諦めろ」
有未はイェラの言葉にやったー助かったぜとは言えない心境だったが、眼鏡を生かすという事から脱出を決心した。
「よし、俺は合理主義者だからな、誰にどう言われようと有難く逃がさせてもらおう。行くぞ眼鏡、さっきの事は忘れろ」
「……は、はい」
「さっさとするのだ」
二人は顔を隠すと、堂々と進むイェラの後ろを付いて行った。
戦いが終結し、苦戦の後思いがけない大勝利となったリュフミュラン王城の一番外側の城壁内の広場は、歓喜と興奮の坩堝と化しつつあった。
運悪くイェラでは無く七華王女に捕まった砂緒が腕に抱き着かれ虚ろな目をしてその場に連れて来られる。
腕には胸がむぎゅむぎゅ当たっていた。砂緒は遠巻きに立つ魔ローダー内のフルエレに見つからないかドキドキしていた。
遠くの方ではたった一両の魔戦車で残存の敵魔戦車隊を壊滅に追い込んだ、黒い魔導士服の少女がトンガリ帽子を返してもらい、こぼれる笑顔で筋肉男達に神輿の様に担がれている。
周りで回復職と魔法剣士の少年がやきもきしながら見ている。
「砂緒さま見て下さいまし、砂緒様の大活躍でこの様に多くの人が救われたのですよ!」
「おお、姫っ! ご無事で御座いましたか! 正規軍と同行し戦闘に巻き込まれ駆けつける事遅参し誠に面目次第も御座いません」
突然、顔だけはピカピカだが手足に包帯をぐるぐる巻きにした、美形の護衛剣士スピナが走り出でて、七華王女の前で跪き深々と頭を下げた。
「まあ!? 今頃お前が出て来てどうなるのですか? いつもいつも肝心な時に居ないでどうするのですか? 後日扇で百叩きとします。今すぐ消えなさい!」
それまで言葉は丁寧だが無表情で謝罪していたスピナが、百叩きと言われた瞬間一瞬だけふわっと顔が綻んだのを砂緒は見逃さなかった。しかし目を極限まで細めて無言で見過ごす。
「…………」(嫌な物を見てしまった……)




