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黒の戦士②



 やがてお昼になるとピピがアレクを迎えに行った。そして周りに距離を取られながらノアと二人、こんな時のためにローランス家が独自にこっそりと手配していた料理店へ向かう。

 場所は学園の敷地外で少し歩くが、そちらのほうがゆっくりできて邪魔も入らず食事ができるはずだ。


「私の頭、禿げてる?」

「え……?」

「そんなに見つめられると、もしかして禿げてるのかなって思うよ?」

「…………」

「え。冗談なんだけど……うそっほんとに禿げてるの⁉︎」


 無言の返事に慌てて頭を触る私を見て、困ったように笑うノア。

 そ、その顔も大好きだよ〜〜……破壊力抜群だよ〜〜……


「俺、姉さんが髪の毛掴まれた時、全身の血が沸騰するみたいに熱くて……もし手を出すなって言われてなかったら、自制できずに再起不能にしてるところでした」

「ノア……」

「姉さんの意図もわかります。けど姉さんは、やられてもやり返さないから。俺達がいてもなんの役にも立たないことを思い知らされる。それが俺はいつも悔しくてたまらないんですよ……」


 ……役に、立ってるんだけどなあ。私が踏ん張って立ててるのは、みんながいてくれるからなのに。それに……


「私、結構やり返してるよ?孤児院も潰したし、クラスだって手回ししたでしょ〜、ピピにお兄様のそばにいてもらうことでローズは簡単には近づけないだろうし、性格の悪さで言えば私のほうが……」


 指折り数えながら言うと、その手を包み込むように握り締められる。


「どこがです?……そんなだから、俺は目が離せないんですよ」

「あの……、ノア……?」


 その瞳に真っ直ぐ見つめられると、簡単に心臓がノックアウトされてしまうんだけど……

 あまりの眼光の美しさに気を失いそうになった瞬間、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「セリィ!」

「マチルダ、どうしたの?」


 急いで走ってきたマチルダを抱っこする。私はマチルダにローズに何か変な動きがあったら教えて欲しいと頼んでいたのだ。

 精霊にこんなことを頼むなんて図々しくてせこいにも程があるだろうが、マチルダは快く引き受けてくれた。


「彼女、数名の女子生徒に連れて行かれてしまいまして!」

「…っ!」

「どうやらその先輩方、想い人を取られたと訴えているのです。良い雰囲気だった意中の男性を彼女が魅了の力で心変わりさせてしまったために、怒っている様子で……」


 あぁ、確かにそんなことも起こりそうだな……と思いながら、私はマチルダに教えてもらったことをノアにも伝える。

 ローズの対応によってはルナシーに感染する可能性があるし、ひとりじゃないのなら尚更食い止めないといけない。なぜならピピノアが豹変した生徒から悪を倒せたとしても、私が何人もの負の感情を一度に元に戻せる自信がないからだ。


「急ごう。マチルダ、場所を案内して」


 そう言えば、マチルダは私の腕からピョンっと跳び、ついてきてと言わんばかりに走り出した。

 可愛い黒の案内猫を頼りに着いた先は、人通りが少なく、休日前までは植物が静かに生きていた庭園……だったはずが、今は一面薔薇園になっている。

 なぜ……?

 その場所でローズを含む集団の中に、ピピが走っていく姿が見えた。そして次の瞬間、スローモーションのように衝撃的な光景が目に入る。


「ピピっ!」


 慌てて駆け寄ろうとしても距離があって間に合わない。ローズに向けられた園芸用のハサミが、ピピの横髪をシャキッと切っていた。


「……っ」


 ローズを庇った拍子にピピの横髪が切られたのだ。私達はすぐにピピの元に駆け寄った。


「ピピ、ケガは⁉︎」

「セリィ、ノア……平気よ。少し髪が避けきれなかっただけ」


 ピピの頬を触り確認する。幸い先端が短いハサミだったこともあり、顔に傷はつかなかった様子。でも一部の切られた髪の毛は地面に落ちていた。


「あ、あなたたちは……っ、あの時の……!」


 ローズは私と黒髪姿のノアを見て、昔のことを思い出したように声を上げている。

 それよりもこの状況は……


「先輩方がローズさんに怒ってた様子だったから、私はさっきたまたま見つけて間に入ったの」

「お兄様は?」

「まだ会えてないわ。この方達を絶対に豹変させてはいけないと思って……私達が戦えても、セリィは無理してしまうでしょう?」

「ピピ……」


 私のために…………


「リズ、やばいよ。相手は黒髪だよ……?」


 リズと呼ばれた生徒は、ハサミを持ったまま小さく震えていた。丸い大きなメガネをかけ、そばかすが特徴的だ。髪の毛はブラウンの三つ編みでいかにも優等生で、そんな刃物を人に向けるような人には見えない。前世の私に雰囲気が少し似ていた。


「私達は知らないからっ」

「そうよ、関係ないわ。その子に文句言いにきただけだもの」


 その子とはローズのことだろう。黒の恐怖や畏れから手のひら返しを始める先輩達。


「何も関係ない私達は退散致しますわ!」

「ぼ、暴走したリズが悪いんだから」


 そう言って彼女達はそそくさと逃げるように走っていった。


「私、少し驚かせようとしただけで……お願い、します……!呪わないで……っ」

「っ、」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ」


 ピピに向かって必死に謝る彼女には怯えの色が見える。どう考えたって怯えないといけない相手は、あなた一人を置いていったお友達でしょうに……

 それに対してピピは動揺して動けなくなっていた。久しぶりに自分に対する誰かの恐怖を間近で感じ取って、ショックを受けているのだろう。


「リズ様、初めまして。セリンセ・ローランスと申します」

「ローランス……って、もしかしてお兄様がいらっしゃいますか?顔がそっくりな……」


 そっくりと言っても、感情が読めないところ限定だろうけど。


「はい、おります。そしてこの二人も私の大事な家族です。人を呪う力はありません。ただこの世界では希少で珍しい髪色をしているだけで、リズ様と同じく一人の人間です。同じように心を痛めるし、悲しみも苦しみも感じるのです」

「……わ、私は……なんて失礼なことをっ!」


 彼女はポロポロと涙を流しながら何度もピピに謝った。

 こうして言葉で伝えればわかってくれる人もいるということに、希望が見える。ローズに魅了されている相手であれば絶対に叶わないだろう。

 そもそもこの世界の人は、『黒いものは怖い、危険』という印象を生まれた時から植え付けられているだけで、実際に害がないとわかれば好む人も多いはずなんだ。

 ローランス家の人間は常に私の黒好きを認めてくれていたし、可能性はゼロじゃない。


「ねぇ……あなた、彼女に私を狙えって言われてこんなことをしたんでしょ?」


 静かに黙っていたローズがリズ様に話しかける。が、ピピノアの黒髪が気になって近づいては来れない様子だ。むしろ遠ざかっていた。


「私は何もしていないわ」


 そう告げれば、すかさず「嘘よっ」と否定される。


「あの日の暗殺事件も本当は自作自演で、私に恩を売ろうとしてるんでしょ…?何が目的?私に何の恨みがあるのよ?」


 もし今彼女の取り巻きがいたら、私は追放刑宣告をされてただろうな……

 思ったことをそのまま口に出すんじゃなく、言うことを頭で一度考えた上で口に出して欲しい。ローズの場合考えたところで無駄かもしれないけど。

 私はフーッと小さくため息を吐いた。


「この方達は関係ないです…!あなたがここの庭園を全て薔薇にしてしまったから、こうして私は訴えているのにっ」

「だから薔薇にしたのは私じゃないって言ってるじゃない!」

「いいえ、あなたが原因で弟はおかしくなりました!弟だけじゃない、あなたの周りは不自然すぎる…!」


 彼女はリズ・プロンツ。実際初めて見るが、名前は知っていた。植物愛好家としても有名なプロンツ侯爵家だ。そして一つ下に弟がいる。

 魅了されたのはリズ様の弟……。じゃあこの薔薇園も彼女の弟がやったの……?


「セリィ!ピピもノアも、無事かっ?」


 全力で走ってきたのだろう。息を切らしたお兄様の姿が見えた。彼の足元にはマチルダがいる。

 マチルダ、お兄様を連れてきてくれたんだ……


「ピピは遅いしマチルダが鳴き声で何かを伝えようとしてたから、お前達に何かあったんじゃないか、って……」

「アレク、アレクっ!来てくれたのね?私のことを守って!あの人が、ここを薔薇畑にしたのは私のせいだって意味のわからないことばかり言うの…!」


 ローズはアレクのそばに駆け寄ると、その腕を取ろうとする。が、その瞬間スッとローズを交わした。そしてピピの前まで来る。


「その髪どうした?」


 ……あああああアレクサンドル!よく見てらっしゃいますね〜〜っ?好きだ……ほんとそういうとこ好きなんだってば……

 覗き込むようにして心配そうな声を出すお兄様に、私の心の中は悶絶状態。発狂しそうになった口を手で抑えた。

 ピピは切れた横髪を見られないように手で隠し、アレクに見られないよう顔を背けている。アレクには見られたくないのだろう。


「み、見ないで下さい……」


 そうだよね……好きな人には見られたくないのが女の子の気持ち。でもそのくらいの切れ方なら私に良い考えがあるわ。ふふっ、想像するだけで可愛すぎる!

 と、目の前の推しカプに夢中になっていて気づかなかった。


「……姉さん!」


 焦る声で私を呼ぶノアが指を差していた先のリズ様の姿に。

 散りばめられた地面の植物を抱き寄せる彼女に向かって、羽のついた黒い生物が吸い寄せられていく。


「…っ!」


 あれが、ルナシー…っ!

 しまった…!と気づいた時にはもう遅く、ルナシーは彼女の体に入り込んでいった。




♢天の声♢


あーー!てんやわんや!てんやわんやしとる!!


(※何度も申し上げますが、ざまぁではございませんのでご了承下さい)


そして読者の皆様に連絡です!

これから作者は家のお盆の片付け掃除期間に入りますので、それに伴い更新スピードが今までより遅くなります。現在、完結までラストスパート……まではいってないのですが、終わりは見えつつある状態です。更新は遅くなりますが最後までお付き合いいただけると嬉しいです☆〜(ゝ。∂)

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