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15歳、始まりの日①



 ──そして、時は訪れた。

 私とピピノアはついに原作の舞台『ハレルヤ学園』に入学する。相方のマチルダもこっそり連れてきていた。

 同時に主人公であるローズ、男主人公の皇太子、赤髪が特徴のオスカル殿下もここに到着しているはず。


 ピピとノアの黒髪は、原作でヒロインのローズが被せた物と同じように、白髪のカツラを。初めから黒髪で目立つことを避けるためと、オスカルに少しでも気づかれにくくするためだ。オスカルは結局ローランス家に現れることはなかったので、彼の中でピピノアは行方不明といったところだろう。

 二人とも特に黒髪がバレたくないわけではないらしいので、ずっと隠し通すつもりもないが、ただ推しは白髪でも美しかった……(そりゃそうだ)


 そしてなんといってもハレルヤ学園には、キュートな規定の制服がある。

 女子生徒は好きなブラウスにチェックのジャンパースカート。探偵風マント付き。とにかく可愛い。男子も同じく、好きなシャツにチェックのネクタイ、ベストを合わせ下はパンツスタイル。女子より丈が長めの探偵風マント付き。(多少のアレンジ可)

 この制服と共に、これから私達は学園生活を送ることとなる。


「ピピ、ノア。それじゃあ行くよ」

「えぇ」

「はい」


 二人の返事を聞いて決意を固め、早速学園の門を三人で潜り抜けると、大きな噴水が見えた。そこに一人佇む少女。正面から見えずとも目視でわかる。彼女の周りの空気はどこか甘い。早速ヒロインを見つけてしまったのだ。

 既に物陰から何名もの生徒……特に男子が蕩けた視線を彼女に送っていた。

 祭典時は男達に囲われてたのに、ちゃんとこうして守って下さいと言わんばかりに最初の見せ場を作るところは、ヒロインっぽくて腹が立つわ。

 

 私は両側に立つピピとノアを交互に見る。ノアには信じると言ったものの、内心不安で仕方ない。なぜかその不安には推しの死亡フラグとは別の意味も入っている気がした。


「姉さん、行こう」

「っ、」


 周りからは何を考えているのかわからない私の表情を見て、何を考えているのかわかった様子で。ノアは私の手を引き、そのまま彼女を横目に通り過ぎていく。

 

「えっ?ちょっと、セリィのことひとりじめしないでっていつも言ってるじゃない!」


 後ろからピピが文句を言いながらついてきた。

 まるで変わらない二人にホッとしたのも束の間……


「アレク!」

「……⁉︎」

 

 彼女は裏庭のほうで剣の練習をしているアレクお兄様を見つけ、駆け出していったのだ。こちらから見える範囲では、お兄様がローズに恋をしているのかわからない。

 やっぱり祭典の日にローズに恋をしていたのかもだとか、はたまた私達が知らないところで再び出会ってしまったのかもだとか、考えられることはたくさんあるけど、この際もうどうでもいい。だってこの世界はなんでもありで、ヒロイン主義であることなど痛いほど知っている。でも……


 今、アレクって呼んだ……?

 原作ではいくら彼女の神経が図太くたって『アレクさん』と呼んでいた。立場上の問題に加えて年上だということもあったから。それをこんな初日から呼び捨てにするだなんて、よほど仲良くなければ失礼極まりない。サーーーーっと体が青ざめていくのを感じる。


 お兄様は私達が到着したことに気づいておらず、ローズやその後ろをそっとついて行く生徒を引き連れて奥の方へ行ってしまった。ローズが学園内を案内してほしいと言ったところだろうか……


「姉さん、大丈夫ですか?」

「え、あ、うん」

「顔色悪いです。とりあえず医務室行きましょうか」

「ううん、ごめんノア。ビックリしただけだから。平気、ありがとう」


 あまりにも原作というものに固執してしまっている。だめよ、セリンセ。落ち着いて。深呼吸しましょう。

 息を吸って吐いたと同時に、……ピピ!と思い出したように私は彼女のほうを振り向いた。

 その姿は腕を組み仁王立ち。スタイルがいいだけにその場がまるで舞台のステージのように思えてくる。

 ノアいわく、ピピは既にアレクに恋をしてるんじゃないかと。もしその状況でさっきの光景を見てしまったら、ピピはショックを……


「兄様ったら、鼻の下デロンデロンに伸ばしちゃって。何よっ、私だって案内してもらいたかったのに……」


 う、うあーん……こんな時なのに、ピピがあ、ピピが拗ねててかわいいよ〜〜……!

 このヤキモチで不貞腐れた顔が見られないなんて、逆にお兄様が不憫で可哀想だわ。普段だったら彼は絶対、『見られず残念だった』って言うけど……でも今は、ローズの魅了で彼女のことを好きになってしまっている可能性が高い……

 例えアレクが私達への接し方に変化がなくとも、逆に今までのようにピピに構わなくなったとしても、彼がローズのことを好きになったなら、ピピの片想いであることには違いない。胸がキュッと切なくなった。

 ピピに直接お兄様をどう思っているのか聞こうとしても聞けなかったのは、私が彼女の想いを成就させることができるかわからないからだ。

 私は自分よりも身長の高いピピを抱きしめる。


「ひゃっ。セリィ…?」

「…………ピピは、この世界の誰にも負けない美少女よ。可愛くて綺麗で、芯があって、優しい心を持ってる」

「……きゅ、急にどうしたの?」

「ピピはピピのままでいいからね」

「っ!」

「今アレクお兄様にこんなこと言っちゃう自分が嫌だな、って思ったでしょう?」


 ピピの体から離れると、驚いた顔をしたままフリーズしていた。

 図星ね……


「無理に変えようとしなくていいよ。ピピはもう十分可愛くって魅力的なんだもん」

「で、でも、私どうしても兄様の前だと素直になれないのよ?可愛くないことばかり言ってしまうの……」


 あぁ、本当に。どうして気づかなかったんだろう。こんなにもこの子は、アレクに恋をしているというのに──。


「アレクお兄様はピピの素直になれないところも含めてピピだってこと、ちゃんとわかってると思うわ」


 原作でも二人の味方でいてくれたというアレク。原作の中と今とでは関係も違うから、もちろん変わることはあるかもしれない。それでも大事な部分は変わらないって信じてる。


「それでもピピは、お兄様に"可愛い"って思われたいよね」


 そう言えば、なんともいえない顔をするピピ。私がキュンとした。一番この表情を見るべき相手はお兄様なのに……

 

 私やっぱり、ピピがアレクを好きでいる限り、ピピのことを応援する。

 アレクがローズのことを好きならその気持ちを否定するようなことはオタクとして、妹としてもあるまじき行為なのかもしれないけど……大事なことをノアが教えてくれたの。

 ノアは自分がもし魅了の力でローズのことを好きにさせられたのだとしたら、それは間抜けだと言っていた。つまり自分の意思で好きになったわけじゃない。わかっていたことだけど、改めてノアの口からその言葉を聞いて実感できたんだ。


「どうしたらピピがアレクお兄様に可愛いと思ってもらえるか、一緒に考えるわ。私じゃ役立たずだからノアにも協力してもらって。ね?」


 後ろから「え…?」という若干嫌そうな声が聞こえたけど気にしない。私がピピの両手を握ると、彼女はコクンと小さく頷いた。


「……ありがとう」


 そう可愛らしい声で呟きながら。




♢天の声♢


ピピちゃんかわゆ!!

読者の皆様、更新遅くて申し訳ございませんっ!

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