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14歳④



「教えてっ、教えてよ〜〜…教えて下さいっ」

「その前に、俺も教えてほしいことがいくつかあります」


 私の身体を引き剥がすように、今度はノアに両肩を掴まれる。そしてすぐにその手は離された。


「……なに?」

「この本通りにいけば、俺達は孤児院で戦士の力を授かり買い取られることになってますよね?」

「そう。俺様だけど実はビビリでヘタレの皇太子にね」

「でも今孤児院には俺達はいない。調べればここにいることがいずれわかるんじゃないですか?ローランス家が誘拐したってバレたら……」

「ノンノンノン!舐めてもらっては困りますねぇ?私を誰だと思ってるの?私だってローランス家の娘よ」


 隣で座るノアのキョトンとした顔を見ながら、私はフッと笑った。


「あんな場所、潰したに決まってるじゃない」

「はっ⁉︎」


 ドヤ顔の私を更にドヤ顔にさせるノアの反応。

 ありがとう、その反応を待ってたわ。


「皇太子の野郎は途方に暮れて、今頃アタフタしてるんじゃない?お告げの中に出てきた孤児院はすっかり無くなってるんだもの。調査されたって孤児院にいた大人達の不正事実しか出てこない。辺境地だからって好き放題やっていた罰よ」

「不正を、やっていた…?」

「子ども達にろくにご飯も与えず、国から出たお金はギャンブルや自分達の懐に入れていたの。子ども達は『枯れた土地で見放された場所だから』と教え込まれていたみたいだけど、ちゃんとお金も食料も支給されていたわ」

「……子ども達は、どうなったんですか?」

「別の安全な孤児院に移った。あなた達を虐めていたことは許さないけど、同じように腐った環境にいたことには変わりないからね」


 環境が悪ければ、子ども達にも害をなす。自分を守るために相手を傷つけずにはいられない悪が生まれる。

 元々純粋無垢だった子どもたちは、そうやって悪い環境や人の影響を受け、また新たな悪を生み出してしまうようになる。そんな場所は無くなったほうがいい。

 きっとヒロインのローズだったら大人達を説得して魅了の力で改心させるだろうけど、現実問題そんな甘い話ではないのだ。


「だからあなた達の行方は誰も知らないの。もしお告げの中で孤児院じゃなく、ローランス家にいるピピとノアが映っていたとしても、お父様が捨てられた孤児を拾って養子にしたってことにしてるから、何も問題はない。ただその場合は二人を引き取りに来る可能性もあるけど、今のところ訪問されてないから、神のお告げの中で映ったのは孤児院にいるあなた達だと思うわ」

「もし訪問されたらどうするつもりですか?俺達を引き渡しますか…?」

「そんなことするはずないじゃないっ!誰が渡すもんですか!ピピやノアがあの男のところに行きたいって言うなら考えるけど、私の気持ちとしては行ってほしくない……」

「……それを聞いて、安心しました」


 そう言ってホッとしたように笑うノアを見て、どこか胸の辺りが心なしか痒くなった気がした。

 

「こちらが了承しない限りは、向こうは勝手に引き取れないから平気よ。お金で解決しようったって、うちはお金に困ってないし、黒髪だから引き渡したほうが身のためだと脅されたところで、なんの意味もないから」

「でもまさか、姉さんが不正を暴いてただなんて思わなかったです」

「ふふっ、私だってローランス家の血筋なの。悪事は悪で裁くわ。けどどちらにしろ、あの皇太子はあなた達をどうにかして奪おうとするはず。戦士の力で自分を守ってもらうためにね。だから学園でもなるべく会わないようにしましょう?考えるだけで鳥肌よっ」


 あの俺様な顔を生で拝む日が来ると思うと、ブルブルっと体が震えるのだ。まだ会ってもないのに嫌悪感を抱くのは良くないとわかっていても。彼に関しては本当に無理、だとしかこちらとしても言いようがない。


「あともう一つ、聞いてもいいですか?祭典の時のことです」

「うん」


 私は再び隣に座るノアの顔を見上げた。

 ほんと、カッコいいなあ……横顔もまた美しすぎる。鼻筋が通っていて、スカイブルーの瞳が輝きで溢れそうで。喉仏が更に男らしさを際立たせている。


「姉さんのことだから、あの日アレク兄さんが彼女に恋をするという、この本のシナリオを回避するために、頑なに祭典に行こうとしたことは推測できました」


 すごいわ……この原作を読んだだけで私の行動の意図までわかるなんて、やっぱりノアは天才ね。

 

「でもこの本とは違い、暗殺者が早い段階で現れてしまったことに気づいた姉さんは、咄嗟に彼女を庇った。そもそも暗殺者を見つけたところで、アレク兄さんを連れて帰れば良かったのに、そうしなかったのはどうしてですか?」

「それは……私がこの本の内容を変えてるから。私のせいだと思って」

「それじゃあもしも、また同じことが起きて彼女が狙われたら、姉さんは助けるんですか?」

「それは、わからない……だってローズを助けないと、みんなが自分の意思とは関係なく守って死ぬ可能性だってある……そんなことになったら、私が生まれ変わった意味がないわ」


 それが一番こわい。

 推しを死なせないことこそ、この世界に私が生まれた意味であり、私の願いだ。

 ずっと私達の様子を見ていたマチルダのほうに視線を移す。私が転生した理由を一番理解しているのはマチルダだから。でもマチルダは何も言わないまま。


「……これはアレク兄さんが言ってたことなんですが、あの少女は何か見えない力を持ってるから狙われたんじゃないかって。それって、この本に出てくる魅了の力ですよね?」

「っ!アレクお兄様は、知ってたの……?ローズに魅了の力があること」

「いえ。なんの力かまでは把握してないと思いますけど、それが原因で暗殺者に狙われてるのが事実だとしたら、この本の通りまた彼女は狙われるはずです」


 ……ていうことは、暗殺者にとって、魅了の力が邪魔だということ?──


「だから、あとのことは俺達に任せて、姉さんはただ守られてて下さいよ」

「……え、?」

「姉さんとアレク兄さんが死んだりしなければ、俺達は悪に蝕まれません。もちろん殺されることもない」


 ノアの言いたいことがわからず、思わず首を傾げた。

 

「ノア、それは一体どういうことなの?」

「……この中のピピが好きになったのは、アレク兄さんですよ」

「…………え」

「なぜかわかりづらくされてますけど」

「えぇぇ〜〜〜〜〜〜っ‼︎」


 平然と言ったノアとは裏腹に、私の顔は今までで一番わかりやすく驚いていたんじゃないかと思う。

 その衝撃発言に、私はしばらく放心していた。




♢天の声♢


なぬーーーー!?ピピがアレクを……?

こ、これは大スクープですよっ!

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