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小さな魂の行方



 それは、"推し"と呼ばれるものが人類を支えていた時代──。


 "推し"と一口に言っても界隈は様々である。アイドル・ミュージシャン・芸能人・声優・アニメや漫画のキャラクター等、人々は自分にとっての"推し"を見つけ、ひたすら"推す"ことで自分の存在意義を見い出し、生きる糧にしていた。


 推しは地球を救う、推しの存在は水や空気の心版なのだと言われていたほど、荒み淀んだ日本で必死に生きる人間達の生きがいとして、彼ら(推し)が皆の命を繋いでいたと言っても過言ではないだろう。


「推しの幸せを見届けるまでは死ねない」


 ストレス社会で生きるオタクの社会人、天宮ぼたんにとってもまた、日本の文化は唯一の心の拠り所であり、支えだったのかもしれない。


 しかし、それは突然起こった。

 ずっと愛読していた乙女系漫画『この世界を救って』に登場する、大好きな推し三名が、全員死んだのだ。しかも、ヒロインである不思議な力を持つ主人公のために。


「──……うっ、うぅっ、アレク……なんで……嫌だ……っ」


 推し達の想いが報われないことが悔しくて、死にゆく姿にひたすら涙が止まらなかった。


「──は、ピピノアまで……?嘘でしょ、ねぇ!嘘だってば!嘘って言ってよぉぉ……っ」


 気づけば声が枯れるまでわんわん泣いていた。なぜこんなにも涙が出てくるのか、本人もわからなかった。

 ただ、彼女の大好きな推し達は主人公を守ることに徹し、誰にも体を張って守られることはなかったのだ。

 それは自身の能力と仕事量が見合ってないにも関わらず、任された仕事を全てやり遂げようとする自分の姿と重なった。

 上司の言うことを我慢して聞き、理不尽な社会によって彼女のもともと疲れていた心と体は、推しの死により完全にポッキリ折れ、生きがいを無くしたように生活も荒れていってしまう。


「私、このまま死ぬのかもしれない」


 いつしか何かが取り憑いたように、不思議とそんな気がしていた。人生を終わりにしたい気持ちが良くない"気"を生み出していたのかもしれない。


 その頃世界では疫病も流行り、引きこもりは悪化。仕事や対人ストレスは溜まる一方で発散ができない。他にも好きだったものは山ほどあったはずなのに、何も手につかなくなっていく。

 生きる価値や意味を完全に見失った時、ぼたんは過労で倒れ生を終えた。まだ歳若い、三十歳になる前日のこと。


 誕生日を迎える前に生き絶えた彼女の中に最後まで残っていた後悔は、推しが報われなかったこと。推しが幸せになれなかったことだった。そんな後悔から、ぼたんはある行動をとっていた。



────あぁ、やっとこの時が来た。セリンセ、あとはお願いね。


 夢の中で彼女はそう囁く。自身の意志を託すように……




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