終末を君とともに。
『世界は滅んだ。
人々はそれぞれの地位や権力を求めて争った。
ある人は恐ろしいガスを使い、またある人は大きな爆弾を使った。
地球は汚れていき、沢山の動物や植物もその命を奪われてしまった。
この世界にいるのは君と僕、このままゆっくり終わっていくのもいいかもしれない。でも…まだ僕には…………』
「今日は何を書いてるんだ??」
「戦争で世界が終わった後のお話」
「これまた変な話を書いてるんだな」
「変?? 終末系は人間の終わりに対する恐怖の現れ。それ故に、古くから世界の様々なところで終末については書かれている。つまり、これは歴史のあるものであり、決して変なものじゃない!!」
「でも、夏目の考えでの話だろ??」
「そうかもしれない……」
放課後、南館3階の空き教室は文芸部の活動場所だった。
先輩が卒業し、僕が2年に上がった頃。残念なことに、誰も文芸部に入部することなく廃部が決定してしまったが、顧問の先生がが気を使ってくれてこの教室を使ってもいいと言ってくれ、この教室は僕の創作部屋となったが……
それから数ヶ月経った頃。
部活をサボっていた冬馬がたまたまこの場所を見つけてしまい、それ以降この教室は彼のサボり場所となってしまった。
「それにしても、なにもない寂しい教室でずっといられるよな」
「そんな寂しい場所によく来る冬馬も人のこと言えた立場じゃないけどね」
「ここには何もないけどお前がいるからな」
「それ、この前僕が書いたセリフ」
「あの話も面白かったよ」
冬馬がこの教室に来てからというもの勝手に僕の作品を読むようになった。
別に誰も読まずに積まれていた作品ばかりだったので読んでくれたのは嬉しかったが、その後に事細かく丁寧に感想を伝えてくるは少し恥ずかしかった。
いつからか、自分の為でなく彼の為に物語を書くようになっていった。
当の本人はそんなことを知りもしないでいつもここに来ては僕の書いた物語を読む。
「面白い話ばっかり書いて、これは将来は有名な作家さんになるな」
「そんな……僕は読みたいって思ってくれる人が一人でもいてくれたらそれでいいよ」
「そんなこと言わずに、夢は大きく持ったほうがいいぞ、夏目大先生」
「からかわないでよ…」
少し照れくさそうに言うとその様子を見て面白かったのか更にからかってきた。
「よっ、大天才!!」
どこにでもあるような日常が今の僕にとっては心地よかった。物語をかける環境があってそれを読んでくれる友人がいる。そんな些細なものだけで僕の人生は満たされている。
「ボー、としてどうしたんだよ。もしかして言い過ぎた??」
「ううん、大丈夫だよ」
でも、もしも……もしも…
「この世界に冬馬と僕しかいなくなったらどうする??」
「え…?」
思いもせず口から出た言葉を頭の中で繰り返す。
なんでこんなことを言ってしまったのだろう。
冬馬はいきなり変な質問をされたからかキョトンとした顔をしている。
「ご…ごめん。今の忘れ…」
「夏目の書いた小説が読めるなら俺は別にいいよ。でも、そうなると俺が食担当で…夏目は衣住担当だな」
「そ…そうだね」
「でも、俺と夏目しか人間がいなくなるってよっぽどのことが起きないと無理だよな」
「きっと、どの生き物も生きられない環境になってるね」
「そんなの無理ゲーじゃん!」
危ないと思った話題は無事に終わりに向かい、僕は執筆を再開し冬馬は僕が書いた小説を読み始めた。
「キーン、コーン、カーン、コーン」
帰りの時間を告げるチャイムが鳴った。ペンと原稿用紙を片付けた後、教室の中を見渡すと冬馬の姿はなかった。きっと先に帰ったんだろうと思い教室を出ようとすると後ろから冬馬の声がした。
「いつまで夢の中にいるつもりだ」
「夢…の中……どういうこと??」
先程までの笑顔とは違い冷たい表情で見つめてくる。
「いきなりどうしたの??」
「気づいていないはずないだろ」
「急にそんなことを言われても……」
冬馬の影が薄くなっていく、二人の間の距離関わらないのになぜか遠くにいくように感じる。
「じゃあな」
「まって!!」
勢いよく飛び出し右手を伸ばした。そして、後数センチのところで………
崩れかけの校舎で目が覚めた。周りの建物は元の形をなしておらず、ツタで覆われている。
僕の右手には何も握られていない。
「あぁ……世界は滅んだんだった」