表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

画家の義理の弟:

ん、インタビューは終わったのかな。


義兄さん、変わってるでしょう?

君の課題にうまく沿わなかったんじゃ……えっ、そんなことない?


そう……なら、いいんだけどね。


ああ……そう、聞いたんだね、姉さんが死んだこと。

そうだよ。義兄さんは、その現場に居合わせたんだ。


……え? ああ……そうだよね。

ううん、大丈夫。そう思うのも当然だし。


義兄さんが……あの人が、殺したんじゃないか、ってことでしょう。

勿論疑ったし、警察に疑われてもいたよ。


記憶を失ったっていうのは方便で、

自作自演の犯人なんじゃないかって。


今でも、完全に容疑は晴れたわけじゃないけれど、

現場のいろんな状況から考えて、

他に犯人がいる、っていうのが警察の見解らしいんだ。


そうして……捜査が暗礁に乗り始めた頃から、かな。

あの人が……絵を、描き始めたのは。


真っ暗闇にポツリと浮かぶ、まんまるな黄色の円。

そんな月の絵を、何度も、何度も。


……僕はね、義兄さんは犯人じゃないと思ってる。


あの人が描いているのは、消えてしまった記憶の一部、

殺人事件の当日の、なにかしらの記憶の欠片なんだろう。


義兄さんに聞いても、

「わからない」としか返ってこないんだけれど、

僕は……ぜったいにそうだ、と信じてるんだ。


あっ……ごめんね、君にこんな話をしてしまって。


えっ? 義兄さんの友だち?

あの人、ずいぶんと義兄さんと仲がいいみたいでね、

よく見舞いに来てくれるんだよ。それも、毎日のように。


ちょっとぶっきらぼうだけど、いい人だよね。

僕もちょっと、挨拶をしてこようかな。


さて……ん? 君、その胸ポケット……。

妙に膨らんでいるけど、なにか入ってる?


へぇ……茶色い金貨?

珍しいね、どうしたの、それ。


ああ、あの義兄の友だちに?

でもそれ……とても使えないよね。こんな汚れてたら。


いや……汚れじゃないな、これ。

ちょっと焦げてる……? まさか、これ、って……。


あっ……ううん、ごめんごめん。

大丈夫だよ、なんでもないから。ほんとに。


そういえば……君、画家を目指しているんだっけ?

そっか……君ならきっと、いい絵描きになれるよ。




学生:

えっ……あ、えぇと……ボクは、その。

ちょっと前に……あの、画家さんを取材させて頂いた、大学生です。


はい、確かにあの日……画家さんとそのご友人、

それに……義弟さんとも、お話しました。


でも……それ以上のことは、何も。


本当です! だから、あの……。

画家さんの弟さんが……ご友人の方を殺してしまったなんて、

ほんと、今日まで知らなかったんです……!


動機……? そんな、ボクには何も……。

だって、義弟さんは「ぶっきらぼうだけどいい人」って、

あの人のことを話していましたし。


なんでも、義兄さんが事件に巻き込まれてから、

ご友人の方は頻繁に見舞いに来ていた、って言っていましたから。


はい……事件のことは、少しだけ。

えっ……そ、そんな凄惨な、現場だったんですか……?


殴られた上で、火を……?

黒焦げで、いつ亡くなったかもわからない状態って……。

よく……画家さんは生きていましたね。


ああ……運よく救助が間に合ったんですか。

でも……ショックで、記憶が。


それは……ずいぶん、辛い事件だったんですね……。


でも、それと義弟さんがご友人を殺したことに、

なにか関連があるんですか?


えっ……じ、自殺!?

遺書を捜している最中だと……そ、そんな。


…………。


あ……す、すみません、ちょっとその、ショックで。


あ……そうだ。

あの……画家さんは今、どうしているんですか?


ご友人が亡くなって、義理の弟さんまでいなくなって、

今もずっと独りで、月を描き続けているんでしょうか。


えっ……描かない?

めっきり筆をとらなくなってしまった?


そんな……オオカミ男の……オオカミ男の、

魔法でも解けてしまったんでしょうか……。


あっ……いいえ。

なんでも……なんでも、ありません。




画家:

ああ……君かい。

よく来てくれましたね……うん、そうなんです。


すっかり、絵を描く気力がなくなってしまってね。

記憶? ううん、まだ戻っていないんです。


でも……ああ、君も聞いたんですね。

そう、義理の弟が……彼を、友人を殺したって。


遺書によるとね……友人が、

私の妻と子どもを殺した犯人だっていうんです。


頻繁に見舞いに来ていたのは、

私を殺す機会をうかがっていたらしい、と。


君のお陰で、それがわかったと書かれていましたよ。

それで……お礼を伝えてほしい、と。


ああ、絵……か。

どうしてかな。……もう、私の中に月の残骸は見当たらないんです。


あれだけ心の内に潜んでいた憎悪も、苦悩も、

まるで初めから存在しなかったかのように、消えうせてしまいました。


……オオカミ男は死んでしまった。

もう……二度と戻っては来ないんでしょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ