りんご占い
どうも人というのは未来を知りたがるようでして、未来を知ったところでよくできるかって話なもので。
わたしゃ未来ってわかんないから希望も絶望もできるってものだと思いますけどねぇ。
しかしそれをうまい具合に利用した者共がいまして、これが易者、いわゆる占い師でございます。
それにしても世の中には色んな占いがあるもので、例えば生まれた日付や相撲取りの化粧まわし、こいつらを使ったら星占い、名前や陰陽道を使ったものが「せいめい判断」と申します。
とまぁ下らないことをがぁがぁ言っているうちにも一つ奇妙な占いを見つけました。
物好きはどこにでもいるもんで「さて、占ってもらおうじゃねぇか」とその占い屋の椅子にどんと腰を下ろしたのが花火屋の親父で。
「おう、易者や、ここは何占いなんだい、馬鹿に人が寄りついてねえじゃねぇか」
「はい、こちらは奥州は陸奥の国よりリンゴ占いと申します」
「リンゴで占うたぁまた不思議なもんだ、こいつを握りつぶせたら一生健康なんて言いやがったら承知しねぇぞ」
「いえ、そのようなことは御座いませんで」
「ほう、そうしたら占ってもらおうか、どうしたらいいんだ」
「はい、最初に目をつぶって両手でこのリンゴを包み込むように持ってくだせぇ」
そうして花火屋の親父、言われるがままリンゴを両手で持って目をつぶる。
「親父さん、もう少し腕を上げてくだせぇ、中々占えねぇもんで」
「いったいどんな占いなんだ、腕がしびれちまう」
「はい、終わりやした」
「全くよ、客の腕をしびれさせるたぁどういう了見なんだ、で、俺の運勢ってものはどうなんでい」
「へぇ、リンゴみたいな一日になるって出ました」
「はぁ~……お前、そりゃどういう意味だ、俺を馬鹿にしてるのか」
「そんなこたぁ御座いやせん、確かにあんたはリンゴみたいな一日になるはずだ」
「全く……納得できなかったらそのリンゴみたいにマッカッカの血まみれになるまでぶん殴ってやるからな」
「へぇ、ところで親父さん、御代は」
「俺の納得がいったら払ってやらぁ」
とまぁ、花火屋の親父さんもカンカンで通りをずんずんと歩いていきなさった。
そうしてずんずん歩いた先にうなぎ屋を見つけ入っていった。
そうして数分後、親父さん懐から財布を出して御代を払おうって時に肝心の財布が見当たらない。
親父さん真っ青な顔して懐をもう二度三度探って
「あっ、さっきの易者、腕を上げさせて、さてはあいつめ、抜きやがったな」とうなぎ屋の店主連れてさっきの占い屋をとっちめにいった。
「やい易者!てめぇ俺の財布を抜きやがったな」と花火屋、易者を怒鳴りつける。
しかし易者、さして驚かず澄ました顔で
「へぇ、占いは当たったようで」と一言。
花火屋も呆気にとられて
「……何のことだ」と怒りも鎮んじまった。
「へぇ、リンゴみたいな赤い顔で店を出て、別の店で青くなってまた赤くなっておりますんで」
さてそれを聞いた花火屋、再び真っ赤な顔になって
「堂々としやがってふてぇ奴め、約束通りリンゴみたいにマッカッカの血まみれになるまでぶん殴ってやるからな」
「と言いますが親父さん、うちは『しん』が強くて『うれねぇ』が売りでして、もちろん叩き売り屋でもございません」
お後がよろしいようで。