8話 ハニワ、出発する
『Code-X』は新機能をプラグインとして追加できる。
ダンジョン領域外に出るなら残魔力量が見えないと話にならない。
バッテリー残量が表示されないノートPCのようなものだ。ひとまずこれが表示されるようにしたい。
幻視コンピューターは自分の記憶や無意識の感覚を明確にすることができる。
これを応用すればなんとなくでしか感じ取れない魔力を数値化して正確に測ることが可能だ。
『Code-X』のトップ画面に魔力量や各種データのグラフやサマリー、使用可能な魔法を一覧表示するように改修する。
データを表示するだけ、というのはさほど難しいプログラムではない。『見やすいインターフェース』にこだわりたいところだ。
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アルフィン・ダグハイム
種族 レッサーリトルクレイゴーレム
レベル 23
DMP 1029
HP 28 / 28
MP 150 / 150
スキル:
幻視
魔法:
呪球 探査 呪標 解析
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……悪ノリしてステータス画面にしてしまった。
この世界では(俺の知る限り)ステータスが数値化されるようなことはなかったのだが……自分で作ってしまったわけだ。
ファンタジーで当たり前のようにあるゲーム的なステータス──なんでそんなのあるんだよ、と突っ込まずにはいられないタチの俺だったが、それは撤回しよう。
だって便利だもん。数値化できるならするよね。
レベルというのは魂の強さ……らしい。
魔物を倒すと強くなる、というのは冒険者の間では散々言われていることだが、解析によると確かにそのような数値があったので反映してみた。
まあファンタジー世界でそこに疑問を持ってもしょうがあるまい。次次。
DMPはダンジョンが吸収した際に得られる魔力の参考値という感じだ。
レベルもDMPも、どちらも所詮は参考値であり、強さと直結しているわけではない。とはいえ高い方が強い可能性が高いというのは言うまでもない。
HPは体力=生命エネルギー。戦闘スキル持ちの熟練の戦士はこの闘気的なやつを使って技とか出すらしい。俺はもちろん使えない。
定量化が難しかったので表示される数値は結構適当なのだが、俺は脆いハニワなのでエラく低い。敵の攻撃を食らえば即死しかねない。
MPは言うまでもなく魔力量だ。魔法を使えば減る。俺の場合は動くだけでも緩やかに減っていく。
当初は人間だった頃より少なかったのだが、レベルアップによって最大値が上昇して今はむしろ増えている。
ちなみに人間だった頃の自分のHP・MPを100、レベルを10として基準値とした。
レベルは短期間で元の倍以上まで上がっている。これは理由があるのだが、後述しよう。
HP・MPは数値に加えて赤と青のゲージで直観的に分かるように可視化している。
現在値はリアルタイムでモニタリングされており、30%を切るとアラートが表示されて画面が赤くなる。……逆に焦ってミスりそうだが、気づかないよりはいいはずだ。
解析魔法によって他の生物を解析した際にも同様の表示がされるように改良してある。
これで帰還タイミングは問題ない。
だが、いざ帰還しようとした時に洞窟内で迷ったら目も当てられない。マップが必要だ。
ダンジョン内であればコアの機能でマップが見られる。
この機能を俺自身にも実装しておこう。
『探査』と組み合わせて探査した範囲をオートマッピングする機能を『Code-X』に統合する。
コアに実装されている機能は逆コンパイルしてコード化、自分用にカスタマイズできるようだ。
魔物の作成機能なんかは厳しそうだが……時間がある時に全部チェックしてみよう。
そしてもう一つ。
ダンジョン外に出て狩りをするとして……わざわざダンジョンまでおびき寄せてから倒すのではあまりに効率が悪いので、敵から得たDMPをコアに持ち帰ることができるようにする必要がある。
ダンジョンの分解吸収機能を解析し、倒した敵からの魔力抽出を自分でできるようにした。
あまりたくさん持ち運べるわけではないが今回は偵察なのでとりあえずいいだろう。
俺自身でやると抽出し切れない余剰分が出てもったいないと思ったのだが、俺のレベルとして還元されるようだ。
レベルが急上昇したのはそのためだ。嬉しい誤算だった。
よし、じゃあ……
正直気乗りしないが、行ってみるか。
冒険者なんぞしてた癖に、基本的に出不精なのだ。
前世の記憶が戻ってから余計にそれが顕著になってる気がする。
俺が不在の間、ダンジョンコアはタスカリアスに守らせておこう。コア前で待機状態にしておき、侵入者を検知したら起動して排除するように設定しておく。
……そういえば、タスカリアスの体には新しい傷がある。
剣で斬られたような……表面を削った程度だが。
俺がこの部屋で罠にかかりきりだった間、他のメンバーと交戦していたのはタスカリアスだったようだ。
死体はなかったので彼らは皆無事なんだろう。
あの時なにがあったかの顛末は──コアのログに残されていない。
その直後に俺が転移したせいでシステムに障害が起こり、ダウンしたのか。
脆いサーバーだな。ちょっと調整した方がよさそうだ。
──────
なんだかんだと考えながら支配領域を出る。
俺のダンジョンと地上を繋ぐ連絡通路のような洞窟──クザンたちと探索した時は、俺のダンジョンよりも強い魔物と遭遇した。気を引き締めなければ。
「『領域』起動」
探知用のデーモンを起動する。
デーモン……Daemonとは悪魔のことではなく、バックグラウンドで常時実行されて仕事をし続けるプログラムのことである。
確か守護神という意味だったか。ギリシャ神話において神が雑事をやらせるために生み出した使い魔のような存在らしい。
今回のデーモン『領域』は『探査』を30秒ごとにソナーのように断続的に発動、範囲内の地形を把握してマッピングしつつ、生物の気配を探ってレーダーのように表示する。
カスタマイズ済みの『探査』は、半径1メートルから500メートルまで可変だ。魔力消費を抑えるために自動発動する『領域』では50メートル範囲に絞った。
半径が4分の1になれば体積は64分の1となるので消費もそれに見合うものになる。
ついでに幻視スクリーンと連携してARのように視界に反映させるようにした。
探知した敵をハイライト表示したりできるわけだ。
継続的に魔力を消費してしまうが、ここは安全優先とする。
なにせこの脆いハニワの体では奇襲でも受けたらひとたまりもなく即死だからな。
そんな探知魔法を使いつつ洞窟を探索するが……俺が通ってきたルートのあたりに敵はいない。
あの時は虫の群れを探知して避けて通った覚えがあるが、そいつらもすでにいないようだ。
洞窟はそれなりに広い。まだ通ってない方に行ってみるか。
えっちらおっちらと移動する。
ハニワの体は手足が短くて移動が大変だ。
これもなんとかならんものか……
と、レーダーに反応だ。
前方200メートル、曲がりくねった通路の先。
1、2、3……なんてもんじゃない。
20を超える小型の生物反応。そして一つの大型。
これはなにかの群体か?
範囲攻撃のない俺には相性が悪そうだ。出直すか……
……だが、もう一つの反応に気づいてしまった。
戦闘している──これはおそらく人間だ。
魔物の群れに囲まれて応戦しているというところか。
かわいそうだが、助ける義理はない。
見知らぬ他人を助けるために我が身を差し出すつもりはない。
──と、言いたいところだが、これはチャンスでもある。
あれだけの群れを仕留めればかなりのDMPを得られるだろう。
囲まれれば即死の俺一人で対応するには厳しいが、今なら戦闘中の人間と共闘できるかもしれない。
最悪、囮にしてそいつが喰われてる間に……グフフ。
とりあえず、様子を見てみるか。