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7話 敷金は戻りません

 


「アーハハハハ!」

 ドカーン。


「ヒャーハハハハ!」

 バコーン。



 ダンジョン内にハニワの哄笑と爆発音が響き渡る。


 巨大ネズミや巨大ミミズ、モグラに似た獣に人型キノコなどなど……

 逃げ惑う魔物たち。青い光球を振り回して追い回す俺。



 とにかく俺の所有物件の不法居住者たちをぶちのめしてまわった。まったく、管理者の留守中に居座るとはふてえ野郎どもだ。

 ……うん、ハッキングでダンジョンを乗っ取った俺が言えることじゃないな。知ってる。


 俺の家から害虫どもを駆除しつつ、肉体を取り戻すための魔力も得られる。さらにCode-X(コーデックス)の実地試験も兼ねており、一石三鳥なのだ。


 厄介な魔物もいた。

 洞窟(ケイブ)トロルだ。

 夜目が利く上に再生能力を持ち、多少のダメージはおかまいなしに突進してくる。


 5匹ほどの群れだと中級冒険者パーティーでも危険な相手だが、俺の遭遇したのははぐれの2匹だったので魔力の限りしこたま『呪球(オーブ)』をぶち込んでなんとか対処できた。

 火力不足はなんとかしないとな……


 あとダンジョンの壁には蔓が這っていることがあるのだが、そこに擬態していた食人植物(マンイーター)に一度捕まった。


 本体が離れていたので気づかなかったのだ。

 人間だったら半分くらい消化されていたかもしれない。無機物で助かったぜ!



 そんなこんなでかなりの魔物を狩ったのだが、調子に乗りすぎたか、気づくとダンジョン内から魔物たちの反応がほとんど消えた。駆逐し尽くしてしまったようだ。


 ……奴らからしてみたら俺の方が侵略者だよな。

 まあ、もともと人間を見たらすかさず襲ってくるような凶暴な連中なので仕方ない。そんなのが家にいたらのんびりできないからな。


 魔力の方はあまり芳しくない。現在2400DMP。

 さほど強い魔物がいなかったとはいえ、この調子では目標の10万DMPまでどれだけかかることやら。


 だが、希望は捨てていない。

 戦うための力を得ることができたからだ。

 これまでの人生で今が一番、希望があるのだ。これでも。


 前世で社畜として過労死してこの世界に生まれてから今まで。

 辺境の貧乏農家に生まれ、泥水すすって金を貯めて故郷を飛び出して魔法学院に入り、才能がなくて退学になり、底辺冒険者として「きつい・きたない・くさい」の仕事で糊口をしのいできた。


 もういいだろう。幸せになるのだ。

 ダンジョンと『Code-X(コーデックス)』。その手段が手中にある。


 ダンジョンとはなにができるのか──

 アーカイブの情報を調べてみた。


 そもそもダンジョンコアは古代人が作り上げた住居・兼・要塞を作るためのコントローラーのようなものらしい。


 地面を掘削して部屋を作ったり、気温や湿度の調節、地水火風のような属性魔力ブロックの生成……そして俺のボディを作ったようにゴーレムなどの魔法生物を作れる。


 火を起こしたり、水を湧かせたり、照明を作ったり。温室を作って野菜を育てることも。

 地下水を汲み上げて風呂も沸かせる。扇風機やエアコンは言わずもがなだ。

 応用すれば外敵を排除するためのトラップも作れるだろう。


 そうだ、たまには旅に出よう。異世界観光旅行。

 命がけの仕事ではなく、のんびり観光するのだ。

 そして帰ってきて「やっぱり我が家(ダンジョン)が一番ね」と言うのだ。なら行くなよ、と1人ツッコミするのだ。


 ちょっと指示するだけで操れる、理想のマイホームだ。

 肉体を取り戻し、魔力の安定供給ができるようになれば理想のスローライフを送ることができる。


 それが夢──俺の夢だ。

 そのために今は黙々と魔力を貯める。

 贅沢は敵。欲しがりません勝つまでは。




 ……さて。


 ひとまずタイムアップは遠ざかったものの、領域内の獣や魔物を駆除し尽くしてしまった以上、俺は次の手を打つ必要がある。


 今取れる選択肢は──地下に領域を広げて魔力源を発掘するか、上に伸ばしてから同様に獲物を狩るか、あるいは……獲物を誘き寄せるか、だ。


 ダンジョンの支配領域だが、思ったほど広くなかった。

 そしてコアのあるフロアと、その上のフロアの2階層しかない。


 最初にクザンたちと来た時に通ってきた──ラウジェス王国と無国籍地帯『見捨てられし地(アバンドンド)』を分かつ山脈で発見された洞窟。


 あれはこのダンジョンの領域ではない。おそらく自然の洞窟だ。このダンジョンの上層とは3か所ほどで繋がっている。


 地下で休眠状態だったこのダンジョンと自然の洞窟が繋がったのだろう、むしろその洞窟部分の方が広かった。

 来る途中にも幾度か交戦したが、あちらの方にはまだ獲物がいるはずだ。


 洞窟は隣接しているため、ダンジョンを拡張して支配下に組み込める。その上で魔物を狩ればいい。

 そのためにはまず洞窟のボス、その場で最も支配的な力を振るっている存在を倒す必要がある。


 支配者を屈服させるか同意を得るか、あるいは倒すことが支配領域化の条件らしい。

 強引に行うことも可能だが、大量に魔力を消費するようだ。他に収入源を確保できない状況でするギャンブルとしては分が悪い。

 というかそもそも魔力が足りなくてわずかにしか拡張できないだろう。赤字になる可能性が高い。


 とりあえずその場所を下見したい。偵察だ。

 しかし、支配領域外ではダンジョンコアのサポートを受けられない、というのも考慮する必要がある。


 詠唱魔術に関して才能がない俺だが、魔力量と魔力操作技術に関しては鍛えに鍛えたこともあって人並み以上にある。

 そして基本的に古代魔術は効果が低い分燃費が良い。

 今まで魔力が枯渇するようなことはなかった。


 だが、ハニワの体になって魔力総量が減り、魔法を連発できるようにもなったことですぐ枯渇するようになったのだ。加えてゴーレムなので空腹にはならないものの、動くだけでも魔力を消費する。


 ゴーレムである俺はコアからの魔力供給を定期的に受けているのだが、支配領域を出ればそれが途絶えてしまう。

 残魔力量はハッキリと把握できないのでいきなり活動停止になってしまう恐れがあり、危険だ。


 一度調子に乗りすぎて魔力残量が危険域に突入した時は一気に意識が遠のいていった。ギリギリでコアへの供給指示が間に合って事なきを得たのだが。


 支配領域から出るのであればその対策が必要だ。

 気は逸るが安全には代えられない。先にCode-X(コーデックス)のバージョンアップを行うことにする。


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