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5話 ハニワゴーレム

 


 ささやき──祈り──詠唱──念じろ!


 ダンジョンコアが青い光を放ち、俺は思わず身構える……って魂だけなので身構えるもクソもなかった。


 光に照らされた床が盛り上がり、人のような形を成していく。


 ……うん、小さい。

 立ち上がった人形は身長50センチ程度。

 土色で非常に大雑把な造形──顔に当たる部分は穴が3つポッカリと開き、がらんどうの内部が見える。


 ……これって……アレだ。

 古墳から出土するやつ……ハニワだ。


 なにが悲しくて異世界転生してハニワに入らなければならんのか。……仕方ないから入るけど。


 すいっとハニワに重なるようにして念じると中に吸い込まれる。

 ゆっくりと時間をかけて魂が浸透していき……ハニワの目の奥に光がともった。はずだ。


 前代未聞、異世界初のハニワプログラマー魔術師爆誕の瞬間であった。

 セットでお馬さんも欲しいところだが贅沢は言うまい。



 準備運動。いっちに、さんし。

 体は素早くも力強くもないが、四肢はちゃんと動かせる。

 声を出してみるとくぐもった声が聞こえる。

 原理は分からないが視覚も聴覚もある。行動に支障はない。ないったらない。


 念じるとARのように空中にスクリーンを表示できる。

 体を得たら失ってしまうかとも思ったが、幻視コンピュータ(仮)もきちんと動作しているようだ。よかった。




 体を手に入れたところで……DMPを稼がないと早晩機能停止である。


 現在残り200DMP。

 ダンジョンの維持に1時間あたり3DMP消費する。残り3日弱。

 0になればダンジョンコアサーバーはダウンする。この体もダンジョンの眷属ということになるので一緒にダウンしてゲームオーバーだ。


 DMPの稼ぎ方についてデータベースの情報を探ろう。


 ダンジョンコアからダウンロードしてきたデータは『アーカイブ』という名前がついていた。

 コンピュータ用語では圧縮ファイルのことだが、元々の意味は『書庫』、そこにはダンジョンコアの運用方法を始めとする古代魔術知識が詰まっている。

 暗号化されているヤバげなデータもあるが、とりあえずは飯の種だ。

 整理してあるデータを検索する。


 ……なるほど。

 DMPの収集方法は主に3つだ。


 1)地中の魔力源を支配領域に置く。


 地中には魔力を放出するポイントがある。

 ダンジョンの支配領域を広げてそれらを範囲に収めれば自動的に魔力を収集する。


 コアに問い合わせてみると、今もいくつかの魔力源が支配領域にあるらしい。

 だが、基本的に少量だ。そもそもの獲得量が少ないためダンジョンの維持コストすら賄えていない。


 さらに支配領域を広げるにはDMPが必要だ。

 維持コストを抑えるために長期的には有効かもしれないがカツカツの今は考えなくていいだろう。



 2)支配領域内の生物から徴収する


 1と似たようなものだが、支配領域では人間や魔物などダンジョン眷属以外の生物が恒常的に発散している魔力を吸収する。

 戦闘などの活発な活動や魔法の発動により消費された魔力の一部も吸収できる。


 魔物を生息させたり、冒険者に探索させて戦闘させたりすると多く頂けるということだ。ダンジョンらしくなってきたな。



 3)魔力の篭った物品などを捧げる


 支配領域内に物品を置き、コアに指示すれば物品を吸収して魔力に変換できる。

 放置された物品も時間をかけて消化・吸収されるらしい。

 また、物品は生物の死体も含む。なにそれこわい。


 俺の肉体は壁内に転移してしまったことでこの3が自動的に発動してダンジョンに吸収されてしまったようだ。

 それで700DMPしかなかったというのはなんだか納得がいかない。うわっ、わたしの死体、安すぎ……?



 ここまでで分かったのは2と3の組み合わせが効率的ということだ。

 つまり獲物をおびき寄せてコロコロし、死体も美味しく頂く。なるほど、ダンジョンとして理に適っている。


 さて……俺がこの中でどれを使って魔力を稼いでいくか……


 答えは分かりきっている。3である。


 なにせ残りのDMPが枯渇するまで3日もないのだ。

 悠長に綺麗な内装を整え、エアコンを設置して強い魔力を放出する居住者を誘致している暇はないだろう。


 感情を抜きにすれば冒険者をおびき寄せてコロがすのが手っ取り早い。

 が、俺自身冒険者である。ロクな扱いを受けていなかったとはいえ、正直それはやりたくない。

 ……返り討ちにあう可能性の方が高いし。


 そんなわけで、どちらにしろ日常的に相手をしている魔物を狩ることになる。


 俺1人ではなかなか厳しいかもしれないが、こう見えて一応剣の心得はある。戦闘スキルがないため本職には劣るが……


 ……そういえば今の俺はハニワだった。


 じっと手を見る。

 丸い。指がない。剣など握れない。

 そもそも俺の剣は肉体と一緒にダンジョンに吸収されていた。

 体のサイズ的にも子供より小さく、その外見から想像できる程度のパワーしかない。


 やべえ詰んだ。寝るか。




 ……現実逃避してもしょうがない。

 戦うための手段を考えよう。


 ストーンゴーレムのタスカリアスにはコア経由で指示を飛ばせる。

 DMPを余計に消費して制限時間を早めてしまうのでなるべく動かしたくないのだが、最終手段としては使えるだろう。


 だが、やはり俺自身が戦う手段が必要だ。

 それにはやはり──古代魔術か。


 俺の扱える魔法は全部で4つ。


 魔力を圧縮、物質化して放つ呪球(オーブ)

 周囲の地形や生体反応を探知する探査(サーチ)

 対象に魔術的な印をつけて距離を知る呪標(マーク)

 魔力を解析してその量や質を測る解析(アナライズ)


 この中で、『呪球(オーブ)』は一応戦闘手段として利用できる。

 威力は投石に毛が生えた程度だが、この体で殴りかかるよりは強かろう。


 問題は威力よりも実用性だ。

探査(サーチ)』同様、10分かけて魔法陣を描かなければならない。戦闘時に使えるはずもない。


 奇襲ならば使えないこともないかもしれない。

 だが、魔法陣を描くのに使っていた魔石粉のチョーク──底辺冒険者の俺にとってはあれもそれなりに高価なものだったのだが、ダンジョンに吸収されて手元にはない。

 そもそもハニワの手では以下略。

 チョークなしで魔法陣を描けるわけもな──


 いや、待てよ。


 結局のところ古代魔術は魔力を込めて図形を描くことで発動させる。チョークが必須なわけでない。

 今の俺には図形を描く方法は他にもある。


 試してみよう。

 俺の推測が正しければ──古代魔術に革命を起こせるかもしれない。


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