48話 黒い毛玉と帰ってきた守護者
「ハロー、ダンジョンコア」
『お帰りなさい、管理者アルフィン』
久々にダンジョンコアルームにやってきた。
大一番を控え、戦力の確認と増強のためだ。
ここは俺の心臓みたいなものだ。コレットやザオウですらここには入れないようにしている。入る意味もないしな。
今のDMPは40,000を超えた。
一進一退ではあるものの冒険者たちが滞在して落としていってくれるので総合的にはちゃんと増えている。
今回もいくらか使わなければならないが魔物が攻めてくるなら収入も期待できるだろう。
ケチケチして敗北しては元も子もないのだ。
さて、まずはアレだな。
シャドウビースト・アルファ。内容を見れば圧勝だったが、今まで戦った中で間違いなく最強の魔物である。
「シャドウビースト種の候補を見せてくれ」
『承知しました』
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シャドウビースト 6,000
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あれ、これだけか。
まあこの方が迷わなくていいか。
ダンジョンコアの魔物作成機能──そう、作成だ。研究の結果、ただ召喚するだけではなく設定を変更できることが判明したのだ。
具体的にはスキルの着脱や魔法の組み込みができる。ベースの魔物種によってある程度制限はあるが、より用途に合った性能にすることが可能だ。
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名称未定
シャドウビースト
レベル 18 DMP 600
HP 165 / 165
MP 78 / 78
STR 15 AGL 18 MAG 10
適性:影3 獣2
半霊体
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シャドウビーストのテンプレートだ。
これでも中級冒険者では対処に困る程度の性能があるが、アルファとしての権能である『不滅』などのスキルやボーナスステータスは作成時につくはずだ。
これをベースにして抽出済みのスキルや俺の構築した魔術式を組み込んでカスタマイズを行う。
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(省略)
半霊体 潜影 変形 増殖
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半霊体なのでこのあたりのスキルが付与できるようだ。
『潜影』は影に溶け込む魔法だったが、永続スキルとして組み込めるようにしてみた。これで常時影に隠して連れていけるだろう。
作成コストは10,000に増えてしまったが、マンイーターが持っていた『増殖』スキルによってノーコストで増やすことができ──たらいいなと期待してつけてみる。
これで決定、作成指示を出す。
コアが強く輝き、目の前の床に黒い渦が発生する。
渦が止まると──そこには、俺より少し小さいくらいの黒い毛並みの子犬がこちらをつぶらな瞳で見つめていた。
「わん」
…………あっれえー?
おかしいな、愛玩動物を作った覚えはないんだが……
ペロペロペロ。
こら、ハニワなんか舐めるんじゃありません。めっ。
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名称未定
シャドウビースト・アルファ
レベル 35 DMP 5,246
HP 342 / 342
MP 128 / 128
STR 20 AGL 26 MAG 15
適性:影6 獣3
不滅 眷属支配 高速再生 半霊体 潜影 変形 増殖
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……うん、スペック上はちゃんと強いな。
これ戦わせたりしたら動物愛護団体とかからクレーム来そうだが……まあいい。
「お前、増殖できるのか?」
「わん、わん!」
犬は二つ吠えるとウニョンと形が崩れ、半分の大きさの2匹の子犬になった。
……増殖というより分裂だな。ステータス上はHPやMPが半分になるようだ。解除すると合体して元の大きさ・ステータスに戻った。
これはちょっと期待と違った。タダでシャドウビースト軍を編成できるかと思ったが、そんなチート能力はないか。ちっ。
他の『潜影』や『変形』は期待通りの効果を発揮できるようだ。まあ、十分か。
「よし、お前の名前は……シドだ」
「わん!」
シドは嬉しそうに吠えると俺の影の中にドプンと飛び込んだ。
接近戦ができない俺にとっていつでも近接戦力を出せるのは心強い。頼りにさせてもらおう。
頼りにすると言えば……彼を蘇らせねばなるまい。
レイドの際に犠牲となったストーンゴーレム、タスカリアスだ。
……いや、忘れていたわけではないのだ、決して。
ただ、レイドの直後はちょっとDMPを温存したかったというのと──タスカリアスの追加装備をダールとエンテに頼んでいたのである。
再召喚の必要コストは改造を含めて5,000。痛いが仕方あるまい。
さあ蘇るのだ、この電撃で! バリバリー。
『ストーンゴーレム・タスカリアスは進化条件を満たしたので再召喚時に5,000DMP追加で進化が可能です。進化しますか?』
「ほう」
なにそれ。隠し機能か?
合計で10,000になってしまうが……しばらく放置してた負い目もあるしパワーアップできるならしておいてやるか。
進化は任せろー。バリバリー。
『さらに今なら10,000DMP追加でもう一体のストーンゴーレムが召喚可能です。召喚しますか?』
「ちょっと待て」
なんか突然テレビ通販みたいなこと言いだしたぞコイツ。
「だいたいお前さっきからなんだ、しばらく見ないうちに一段と人間臭くなってないか? 喋り方が流暢になってるし提案なんてしてこなかっただろ」
『エラー。聞こえませんでした。もう一度お願いします』
スマホのAIアシスタントか。
「とぼける気か?」
『……領域の拡大、及び魔力の大量吸収によって当領域は進化を続けています。レベルアップに伴い、管理者アルフィンの記憶と技術より人工知能を再現しました』
「……うさんくさいな」
コアはそれきり沈黙してしまった。
……結局のところ、俺はコアに命を握られている状態だ。いくら怪しかろうがシラを切られては追及もできないか。
「まあいい。タスカリアスを復活させてくれ。2体目はいらん」
『承知しました。ジャイアント・ストーンゴーレムを召喚します』
えっ。
コアが光った次の瞬間、ズーン……と床が揺れた。
「……どこに出した?」
『ここに出すとまずいので外に出しました』
慌ててエレベーターに乗りコアルームから出る。
短い通路を通りホールに出ると……
ホールの中央に10メートル級のゴーレムが体育座りしていた。
「……アルフィン、なにこれ?」
ゴーレムの膝が喋った。
と思ったらたまたまいたのだろうルーリアが挟まっていた。
「我がダンジョンの最古参、ストーンゴーレムのタスカリアスさんだ。先輩だぞ」
「……最初にあたしをぶっ飛ばしてくれたやつね。全治一週間の」
ルーリアが呻く。
そういえばそんなこともあったな。
「過去のことは水に流して仲良くやってほしい」
「……どうも、相性がよくないようだわ。とりあえず、どくように言ってくれない?」
その後、巨大ゴーレムをダンジョン外に出すのに丸一日かかった。




