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45話 ハニワ影分身

 


 シャドウビースト・アルファは突然に光り輝いたハニワに即座に反応した。


 音もなく、瞬きの間に一跳びで俺に肉薄する。

 反射神経の及ばぬ速度で振り下ろされる致死の爪。


 しかしそれは空を切った。

 知覚するよりも速く俺はブレるように高速移動したのだ。ハニワ影分身の術。


Code-X(コーデックス)』Ver.2.2。

 魔術コンテナ・ネットワーク。


 両手足に取り込んだ魔神石片にコンテナ化した魔法をデプロイ……要するに、複数の魔法を同時に利用可能というわけだ。


領域(テリトリー)』を展開しつつもう一つの魔法『呪線(ライン)魔操(マリオネット)』を発動、敵の接近を感知すると周辺に張り巡らせた糸で自分を操って回避する。

 ──自動回避システム・『点滅(ブリンク)』。


 回避をブリンク・システムに任せ、俺は敵を一方的にイジめてやる。これが新戦法だ。


「『呪球(オーブ)釘撃(ネイル)』」


 敵に巻きつけた糸を使って一定の距離を保ったまま遠心力で高速移動する。

 影獣は首を巡らせるが、ハニワの無数の残像しか見えまい。


 敵の周囲を旋回しながら数発の魔力釘を撃ち放つ。

 俺の得た『変形』スキルは魔力体の形を変える。通常は球体の『呪球(オーブ)』も攻撃的な釘状に変形することができたのだ。


 影獣は飛び退いて俺の攻撃を避ける。素早い。

 肩口に突き刺さったのは2発だけだ。


「グオオォ! ウウォォォォオオ!!」


 影獣が怒りに顔を歪めて吠えた。

 ──範囲攻撃!


 俺はとっさに盗賊団アジトの盾から回収した『魔盾(シールド)』を発動して身を守る。

 咆哮によって生じた衝撃波は『呪線(ライン)』の結界の半分を吹き飛ばした。


「ああくそ、せっかく張ったのに」


 思わず毒づく。結界がすべて吹き飛ばされればスピードについていけなくなる。


 2発の『釘撃(ネイル)』程度では、この巨体相手では致命傷には程遠い。怒らせただけだ。

 急所に当てる必要がある──それには動きを止めなければ。


「『呪球(オーブ)機雷(マイン)』」


 生み出された魔力球はその場に浮遊する。

 残った結界を伝って的を絞らせないように移動しつつ空中機雷をバラ撒いていく。


 影獣は怒りに任せてまとわりつく糸を切り払い、機雷に触れた。


 バジィ!


 破裂した機雷は中から小型の釘を無数に吐き出し、魔獣の皮膚を削る。


「グゥ、グルルル!」


 これもさほどダメージはないだろうが──苦痛を与える目的は達成されている。

 触れれば痛い。それを分からせられれば十分だ。これで動きが制限されるはず。


 一定の距離を取り嫌がらせを続ける俺に対して、奴の次の手は──遠距離攻撃だろう。


 影獣の足下から影が伸びる。警戒していなければ気づけないほど速く、静かに──そして、俺の足元まで来ると刃となって飛び出した。


「おっと!」


 俺はギリギリを装って避け、すぐに奴の方に視線を戻す。そこには既に奴の姿はない。

 レーダーマップ上からも消失している。影に潜って移動したのだ。

 そして──次に現れるのは俺の死角。


 俺の背後の影から飛び出した影獣は煩わしいハニワを破壊すべく大口を開ける。


「ワンパターンだな。ワンコだけに」


「グァ……!?」


 ──だが、それは果たせなかった。

 影獣が現れた地面にはあらかじめ蜘蛛の巣状に『呪線(ライン)』を張り巡らせてあった。

 俺の背後がその中央になるように誘導したのである。


「『呪標(マーク)標的(ターゲット)』」


 至近距離から獣の頭部に魔術印を刻み込む。

 動きは止まった。チェックメイトだ。


 俺の命令に応え、周辺にバラまかれて浮遊していただけの『呪球(オーブ)』が回転を始め、細く、鋭利に変形する。


「『呪球(オーブ)機雷(マイン)』。モード変更──『ヘッジホッグ』」


機雷(マイン)』が変形した『釘撃(ネイル)』は一斉に影獣の額の『標的(ターゲット)』に向けて射出された。


「ギャアアアアァァァァ!!」


 影の巨獣は頭部に無数の釘を受けて断末魔の悲鳴を上げる。

 容赦なく降り注ぐ釘の雨は首から上を粉微塵に吹き飛ばし──後に残された巨体はズシン、と地響きを立てて倒れた。




 なんとかなった……内心でため息をつく。

 一発食らえば即死の戦いは神経を使うな。


 さて、仲間たちは──パーティーシステムで苦戦は伝わっていたが、誰もやられてはいない。

 ボスを倒した以上、問題はないだろう。仲間の方に目をやると、そこも決着がつくところだった。


 アルファが倒れたことで眷属たちに動揺が広がる。

 腰が引けた魔獣の1匹をすかさずザオウの一刀が斬り裂き、残りの3匹は後退して円陣を組んだ。


「今じゃ、コレット!」


「はいっ! 『火蜂(ファイアビー)』!」


 おおっと、パクられたぞ。


 コレットが放った炎の蜂は弧を描きながら獣たちに突き刺さり、爆炎を上げた。

 燃え上がる影獣たちはのたうちまわり、やがて動きを止める。これで最後のようだ。


「……俺よりコントロールが上手いな」


 俺の古代魔術と違い、精霊魔術で再現した『火蜂(ファイアビー)』は完全に制御されていた。


「当たり前じゃ。人の魔力を勝手に使おうなど、まともにコントロールできるわけなかろう。本人が使う分には問題ないわい」


 ディアが当たり前のように言う。まあそりゃそうか。


「師匠、やりました!」

「ご無事ですか、殿」

「ああ、おつかれ」


 やっと魔術で戦力になれたコレットは嬉しそうだ。この娘は元々魔力とんでもないから、俺なんかすぐ抜かれそうだな。


「殿……お一人でシャドウビーストのアルファをあっさりと倒すとは……」


「新戦法がうまくハマったな」


 本当はこんなにチャカチャカ忙しい戦法はやめて横綱相撲したいんだが。

 残機0の当方としては小細工を弄するしかない。


 もちろん『抽出(エクストラクト)』しておこう。

 シャドウビースト、ゲットだぜ!


「……本当、強いわねアルフィン。なんか置いていかれた気分だわ」


 全身にかすり傷を負ったルーリアは自分に治癒魔法をかけながら呟いた。


「お前もハニワになりたくなったか?」


「……それはちょっと……でも、あなたハニワだから強いわけじゃないんでしょ」


 逃げていた冒険者、ゲイルはクロスボウを構えたままこちらを見て呆然としている。

 そういやこいつオーパスの町で見たことあったな。


「……アンタ、何者なんだ。アルフィンだって? マジで、あのアルフィンなのか?」


「俺を知ってるのか?」


「あ……ああ。あり得ないくらいかったるい魔術師だって言われてたな……」


 ……悪い意味で有名だったらしい。


「今はこうなってるんだが……俺のことは内密に頼む。あまり目立ちたくないんだ」


「ああ、アンタは恩人だ。もちろん言う通りにする」


「そっちの奴は大丈夫なのか?」


「一応さっき治癒魔法もかけといたわ。もうあたしより健康体なくらいよ。かなりの回復力ね」


「ジャックは自己治癒能力があるからほっとけば回復する」


 ……扱いひどいな。


「すまない、はぐれた仲間が1人と……他に2人殺られてる。できれば捜索と遺体回収を手伝ってほしい。礼はする」


 中級冒険者にコネができるのは悪くない。草の根的な情報をもらいやすくなるだろう。

 俺はオーパスではほとんどソロ活動だったからあまり知り合いはいないのだ。

 だが、目的を目前にして帰りたくはないな……


「俺たちの目的は5層の魔術装置なんだが、場所は知っているか?」


「ああ、そっちからの帰りで今のやつと出くわしたんだ。他はドレイクレベルだったんだがな」


 道が分かるならすぐ行って戻ってこれるか。


「じゃあ道を説明してくれ。ザオウ、ルーリア。ゲイルと一緒に行方不明者の捜索と遺体の回収をしたらここで待機。コレットとディアは悪いが付き合ってくれ」


「殿、このまま行かれるおつもりか?」


「なんかイヤな予感がするから早めに見ておきたい」


 実際の所、また来るのが面倒臭いんだが。


「……承知した。無理はなさらぬよう」


「ああ、ヤバそうなのがいたらすぐに戻る」


「わしらがいるのじゃ。心配あるまい」


 意味もなく踏んぞり返るディア。

 ……お前なにもできないじゃん。


メリークリスマス。

本当は週末更新なんですが、バトル中なのがアレなので早めに更新しました。多忙につき今回が年内最後かもしれません。

よいお年を。

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