43話 突撃!隣のダンジョン
俺のダンジョンと繋がってるダンジョン……分かりづらいな。ダンジョンBとしよう。
ダンジョンBに潜るにあたって、冒険者ギルド出張所として割り当てた部屋に向かう。
このダンジョンの冒険者たちの管理をしているステラから許可をもらうためだ。
今Bと繋がってるのは入り口1箇所だけで、そこではギルドが出入りを管理している。
別の入り口を開けて黙って行ってもいいのだが、ギルドとの関係を無闇に悪くすることもないだろう。
「なるほど、いいわよ」
許可はあっさりと降りた。
第5層にある魔術装置に関してはギルドとしても正体を把握したいらしく、こちらの調査結果を共有してほしいそうだ。
「そうね……ザオウさんとコレットちゃんの2人は臨時冒険者として登録して、ギルドからの依頼という形にしましょう。これなら報酬も出せるわ」
「わたしが冒険者……頑張ります!」
「拙者はどちらでも構わん」
嬉しそうなコレットと、興味なさそうなザオウ。
「ステータスは計測済みよね? 一応こちらに書いてくれる? それと職業もね」
「職業……ですか?」
「アルフィンの提案でね。このダンジョンでは前衛や後衛、得意な技術なんかを一言で言い表せる職業を申告することになってるの。ちなみにあたしは中衛の魔法剣士ね」
ルーリアが補足する。
「ああ、それ本当にやってるのか……」
ダンジョンコアに実装したステータスチェックシステムによる冒険者たちの管理を提案した際に、ゲーム的な観点でいくつか出した案の一つだ。
自分で言っといてなんだが、この世界がどんどんゲーム化していくな。いいんだろうか。いいか。
ステータスチェックシステムは大好評だ。
やはり人間、数値で成長を実感できるとモチベーションが変わる。
なんでも、不眠不休で取り憑かれたようにダンジョンに潜り続けてレベル上げに勤しむ者までいるらしい。
……ガチャだけは実装しないようにしよう。
「この紙に書いてある中から選んで」
ステラの差し出した紙には『戦士』『魔術師』『盗賊』などが並んでいた。
ザオウが唸り声を上げる。『侍』がないことにご立腹らしい。
コレットは『弓使い』と迷ったようだが、『魔術師』として登録した。ギルドで魔術師といえば当たり前のように詠唱魔術師なので、精霊魔術師であるコレットも特に区別はされない。
ザオウはリストになかった『侍』と書いたのが無言で消されて『戦士』にされていた。
「師匠は……?」
「アルフィンはゴーレムなので『特殊装備』扱いになるわね」
ひでえ。別にいいけど。
「ステラ、地図はあるか?」
「4層の途中までなら。1,200ゴル」
「高いな……」
「手書きだから供給が追いつかないのよ。……あ、あなたがハニワダンスを見せてくれるなら私のポケットマネーから払うけど? ハアハア」
「金だ。ありがとう。じゃあな」
1,200ゴルを支払ってステラから地図を買った。
俺は一度見れば記録できるので地図自体はルーリアに渡す。
映像解析により『Code-X』のマップ機能に登録、視界にルートガイドを表示できるようにしておいた。
これで準備はOKだ。さっそくダンジョンBに向かおう。
──────
ゲート前は冒険者たちがダベっていた。入る踏ん切りがつかないのか、待ち合わせか。
ここを歩いて通るのは嫌だ。
俺の存在は一般の冒険者には知られていないが、ハニワがひとりでに動いたり喋ったりしたら目立ってしまうだろう。
「そんなこともあろうかとエンテさんに作ってもらいました! じゃーん、名付けてハニワホルダー!」
……それ赤ちゃん入れる抱っこ紐ですよね。
そんな感じでベルトに括り付けられてコレットに背負われる俺。
情けないが、これなら一風変わったバックパックと思われるだけだろう。
俺たちが通りかかると冒険者たちの視線が集まった。
ハーフエルフと人狼──めったに見ない種族だ。好奇の視線に晒されるのも仕方ない……
「あ……ザオウさん! お疲れ様です!」
「今日はダンジョンに入られるんですか? いきなり踏破しないでくださいよ!」
「コレットちゃん、戦えるの!? ルーリアさんもいるから大丈夫だと思うけど、気をつけてね!」
「我らが殿のために!」
……と思ったら、妙に人気あるなこいつら。
人前に出られない俺の見てないところでよろしくやってるのか。ケッ。
そうしてダンジョンBに入った俺たちは、人の多い第1層をさっさと抜ける。
ダールたちと会った第1層の入り口周辺は初級冒険者が多く、魔物相手に訓練がてら素材集めなどしているようだ。
このダンジョンは魔物を狩っても狩っても尽きることがない。第2層から流れてくるようだが、どこかに魔物を生み出すポータルでもあるのかもしれない。
第1層を20分程度歩いてなだらかな坂を降りる。
ここからが第2層と呼ばれている。ここまで来ると冒険者の姿は見なくなる。腕の自信のある少数の者はもっと深くまで攻めているらしい。
「はあ、やっと喋れるな」
「真っ暗ね。魔法で明かりを出すわ」
人が多く出入りするために篝火が焚かれていた1層と違い、ここからは真っ暗闇となる。
ルーリアの光明の魔法により照らし出されたのは、暗い色の岩の洞窟だ。
俺もここからは足を踏み入れたことがない。
ギルドの情報によると3層まではさほど強い魔物はいないとのことだが……
「念には念をだ。新システムを試してみたいが、いいか?」
「新システム?」
「もちろんです!」
「なんなりと」
コレットとザオウは二つ返事だ。
ルーリアは……まあいいか。百聞は一見にしかず。
「『呪線:接続』。モード『アンザイレン』」
「きゃっ!?」
俺から光る糸が伸び、ザオウ・コレット・ルーリアと経由して俺に戻り、見えなくなる。
見えると鬱陶しいので接続後は不可視になるようになっているのだ。
「『Code-X』・パーティーシステム起動」
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アルフィン 48 92/92 642/655
ザオウ 44 727/727 134/134
コレット 24 134/134 2588/2588
ルーリア 26 276/276 254/264
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「これは……なんか、目の前に変な数字が……」
「魔力の線を繋いで俺の魔術システムからの出力を共有した。パーティーメンバーの現在の状況が一目でわかるようにしてある。念じればその表示は消せるし、周辺マップの表示やルートガイド、念話によるグループチャットも可能だ」
システム的に言うとP2Pネットワークに近いだろうか。俺がホストとしてデータを流してシステムを管理していることになるからちょっと違うか?
ちなみに『アンザイレン』とは登山用語だ。雪山登山などの際にお互いをロープで繋ぎ、不意の滑落を防ぐ。
……まあ、巻き込まれてまとめて落ちることもあるらしいが。
「師匠はいつもこんな感じで見てるんですね」
「なるほど、急造パーティーでも連携が取りやすくなるわけね。たとえ奇襲を受けても即座に全員に伝達できると」
「そういうことだ。さて、マップも全員共有できてるな。とりあえず4層までは最短ルートで行くぞ」
全員頷く。
割とバランスの取れているパーティーではあるが……どうなることやら。




