42話 パーティー結成
会議室にダンジョンの面々が集まっている。
俺はお立ち台の上に寝転がって宣言した。
「えー……第3回、ダンジョン定例報告会を始めます」
「……なんか元気ないですね? 師匠」
仰向けに会議室の天井をまっすぐに見つめたままのハニワにコレットが心配そうな声をかけてくれる。
元気ないどころの格好じゃないが。
「……うん、まあ……疲れたな。なんで俺はこんなに働いてるんだろう」
スローライフを送るつもりだったのに戦ったり街を作ったり開拓したりで全然スローじゃない。
そういえば農業したり牧畜したりするスローライフを謳ったゲームも大抵効率を求めてせわしなくプレイするよな。
「うむ、殿は働き過ぎですな。些事は我々に任せ、世界征服の算段を練ることに集中して頂ければ……」
しないっつーの。
俺は体を取り戻したら風呂に入りながらゲームをして寝ながらコーヒー飲んで暮らしたいんだっつーの。
「あたしは呼ばれたけど、ステラさんはいいの?」
人族からの出席者は宿屋の経営を任せているルーリアのみだ。
「ステラは冒険者ギルド、魔術師ギルドの所属だ。この会議には出ない」
NDA(秘密保持契約)を結んでいない者に内情をバラすわけにはいかない。ウチは情報管理にうるさいホワイト企業なのだ。
「?? ……ふーん。あたしはこっちの所属ってことね、ふふ」
ルーリアはなんとなく嬉しそうだ。こいつは冒険者だが、要職じゃないからな。
「……じゃあとにかく報告してくれ。手短にな」
「おう、じゃあワシからじゃ。ザオウ、頼まれてたものが出来たぞ」
ダールが立ち上がり、布に包まれた長いものをザオウに手渡す。
布をほどくと、中から出てきたのは──鞘に収められた刀であった。
「かたじけない、ダールどの。これで拙者も殿に仕える侍として恥ずかしくない」
あぁ……やっぱりサムライなのね。
別に仕えてくれなくていいんだけど。
「いつの間に刀なんて頼んでたんだ……というかダールもよく作れたな」
「わしに作れない武器などないわ。……まあ、エイガとやらでニホンの技を参考にさせてもらったがな」
付与魔術が得意なノームであるエンテが映像魔道具をいくつか複製したおかげで全員映画やアニメにハマっているらしい。俺の記憶から抽出したものなので当然俺が見たやつだけだが。
……そういやダールは戦争映画を見ていたようだったな。
「銃火器もいけるのか?」
「あれはあの世界の魔道具じゃろう。魔道具は作れん。エンテはどうじゃ?」
「……形を似せることはできるが、せいぜいが初級属性魔法を飛ばす程度じゃろうな」
そうなるか……
うーん……俺も銃器の構造はあまり知らない。
火薬が硝石と硫黄と炭から作れることくらいは知ってるが……断片的な情報だけじゃ時間がかかるだろうな。
それに、あまり世界の文化レベルを上げて引っかき回したくはない。世界大戦の原因になるのはごめんこうむる。俺はスローライフを送りたいのだ。
そんなことをぼけっと考えていると、ザオウは刀をまた布に包み、しまおうとしていた。
「……刀、抜いてみないのか?」
「殿の前で刀を抜くなどできませぬ」
「いいからいいから。せっかくダールが打ってくれたんだし、俺も見たい」
「はっ。では、失礼致す」
ザオウはすらり、と刀を抜いた。
なかなか様になっている。さては木刀で練習してたな。
刃は銀色の輝きを放ち、見事な刃文が浮かんでいる。ガサツなダールが作ったとは思えない美しさに、誰ともなく感嘆のため息が漏れた。
「魅入られるような美しさの刀ですな……」
「ミスリル鋼じゃ。ちょっとやそっとじゃ刃こぼれすらせんぞ。鉄だけであれば参考の映像があったからなんとかなったが、ミスリルを混ぜる割合が難しくてのう……まあワシにかかればこんなもんじゃ」
「ダールどの……感謝する」
「なに、おぬしは守りの要じゃからな。これくらい安い御用よ。他の人狼たちの分もこさえてある。後で渡そう」
なんかこいつら妙に仲良いよな。出来てんじゃないのか?
「俺の分はないのか?」
「……持てないじゃろ。腕が取れた時に中から出てくるようにしておくか?」
……サイボーグみたいでちょっと惹かれるものもあるが、やめておこう。そもそも接近戦ができる体じゃない。
「では次はわしじゃな。ダンジョンから発掘された古代魔道具の鑑定・買い取りをしておる」
エンテが懐から道具を取り出してテーブルに並べ出した。……いっぱいあるな。
「随分出るもんだな、こっちのダンジョンには全然なかったのに。解析するから、俺の部屋に持ってっといてくれ」
その数に少しゲンナリするが、使える魔法が増えるかもしれない。後で調べておこう。
「じゃ、あたしね。宿屋は盛況よ。コレットの薬屋もね。たまにジナが客に爪痕をつけるけど、ブランが謝ってるから問題にはならない程度ね」
……ブラン。すまん。
「それと、冒険者たちから情報収集してるわ。ダンジョンの探索状況ね。今は5層くらいまで探索してるパーティーがいるみたいだけど、まだまだ先があるみたい」
「かなり深そうだな……俺は2層までしか行ったことないが、奥の方はどんな感じなんだ?」
「4層以降は人工的な遺跡みたいな感じで、罠はなし。魔物も知恵のない魔獣系が多いみたいね。魔法道具は宝箱に入ってるみたい。それと気になるのが……5層で発見されたっていう魔術装置」
魔術装置……嫌な思い出が蘇るな。
「ディアドラニクス様。なにか心当たりはあるか?」
「な、な、なんじゃ! 急にフルネームで呼ぶな!」
コレットの体から飛び出した妖精がプリプリ怒っている。さては寝てたなコイツ。
「お前に話すことなどないわ」
腕組みをしてそっぽを向くディア。
いままでこんな感じで質問をかわされているのだが……今日こそなにか聞き出してやろう。
「今日話さなかったらコレットの呪線を切るぞ」
ディアはコレットの精神世界に繋いである呪線を伝って表に出てきている。それを切れば当然、もう出てくることはできなくなる。
「……貴様、わしを脅す気か?」
「さあな。だが必要な情報を話さないなら仕方がない。最低限の協力はしてくれてもいいんじゃないか?」
「……ディアさん。わたしからもお願いします」
コレットのお願いに声を詰まらせるディア。
どうやらコレットには過保護なようだ。
「……ふん。少しだけなら答えてやる。わしとてなんでも知っておるわけではないが、何が聞きたいのじゃ」
「俺はこのダンジョンのコアルームにあった魔術装置の暴走で体が飛ばされたんだが……あれは何のためのものだったか分かるか?」
「……暴走で転移が起こったのなら、魔神石の力を亜空間に逃がして抑えていたんじゃろうな」
「魔神石?」
どこかで聞いた単語だ──あ、コレットだな。
コレットを見ると、首を左右にブンブン振った。
「魔神石という名前と、エルフが探していたということは知ってますけど、わたしはそれしか知りません」
「……魔神石は世界の種。お前らがダンジョンと呼ぶ場所は、概念的には異世界なのじゃ」
おっと、なんか重要そうな情報が出たぞ。
「じゃあ、これを育てていくと別の世界ができあがるのか?」
「……さてな。魔王ですらこれの真価は発揮できなかった。今の使い方でも十分役立っているじゃろうし、それで危険もない。それ以上は知らん方が身のためじゃ」
「……そうか。危険がないならとりあえずはいいか」
なんかヤバげな雰囲気もあるが、コレットや自分が危険に陥るような嘘はつくまい。信用していいだろう。
「あ、それでだ。下のダンジョンの魔術装置もそれだと思うか?」
「たわけ。それだけの情報で分かるわけなかろうが。お前が直接見てこい」
……まあ、そりゃそうか。
えー、ダンジョン怖いわー。行きたくないわー。
「じゃあ、行ってみる? あたしも最近宿屋の仕事ばっかりでナマっちゃいそうだし、付き合うわよ」
ルーリアが嬉しそうに手を挙げた。
「アルフィンとパーティー組む約束がやっと果たせるわね!」
あ、それまだイキなんだ……
なんとも義理堅い奴だ。
「わ、わたしも行きます!」
コレットが慌てて立ち上がった。
「精霊魔術! 師匠とディアさんのおかげで少し覚えましたし……! それに、ディアさんが直接見た方が分かりますよね? ね?」
「ま、まあのう……」
なにをこんなに慌ててるんだろうか。
これでパーティーは魔術剣士、精霊魔術師、やる気のないハニワ。
……あともう一人、前衛がいた方がいいな。
「むろん、拙者でしょう。お供いたします」
最近すっかりコメディリリーフなザオウが名乗りを上げた。
ザオウから見えない角度でコレットが露骨に嫌そうな顔をしている。まだ仲悪かったのか……
「今宵の虎徹は血に飢えておりますゆえ」
……まだ夜じゃないし、それは虎徹じゃない。
まあ、これだけ戦力があれば……俺は働かなくていいだろう。
よね?




