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4話 ダンジョン3分ハッキング

 

 俺はニョロリと外に出た。


 目の前には拳を振り下ろした姿勢の3メートルほどもある石の人形がある。

 これがストーンゴーレム・タスカリアスか。


 ゆっくりとゴリラのように前傾して両腕を下ろして──これが通常姿勢なのだろう──姿勢を戻すと、そのまま動きを止めた。


 肝心の俺は……自分の体が見えない。


 視界だけが宙に浮いているような不思議な感覚だ。霊体、というか魂なのか。

 なんでこのような状態になっているのかはよく分からないが。


「ルーインダルヴ第7管理端末だっけか? あんたはどこにいるんだ?」


 メッセージを送ろうとするが、届かない。接続が切れているようだ。

 おそらくダンジョンの壁の中の魔術的な通信網を利用して通信していたのだろう。


 先ほどダウンロードしたマップにはその端末らしきマークが記されていた。

 そう遠くないようなので、そちらに向かってふよふよと飛んでみる。


 石造りの通路を通り、ほどなくしてその座標に到着する。

 かなり広い部屋だ。

 隅の方にはガラクタが積まれており、中央はポッカリとスペースが空いている。


 ……って、ここは俺が罠にかかった部屋か。

 部屋の中央近くにあったものは俺と同様に転移トラップに巻き込まれて吹き飛んだのだろう。


 中央に一つだけ残されているのは四角錐を上下に合わせたような形状の青い光を放つ石だけだ。これが管理端末──ダンジョンコアか。

 俺を吹っ飛ばしてくれたアレだが、周囲にあったものもすべて吹き飛んで剥き出しの状態だ。


 魂となった俺がそれに近づいて触れると、通信が回復した。


「おかげで出られた。礼を言う」


『ゲストユーザーの再ログインを確認』


 どういたしまして、的な意味だろうか。


「ところで、俺の体がどこいったか知らないか?」


『ゲストユーザーの肉体は想定外のエラーにより分解され領域内に同化』


「分解……マジか。それを返してくれないか?」


『不可。分離再構築には管理者権限が必要』


 ぬぐぐ、なにをするにも管理者権限がいるんじゃないか。

 不在だから異物の排出も自分でできなかったくせに、融通の利かないやつだ。


 ……ここまでで気づいたことだが、この管理端末、なにをするにも一つのプロセスが処理しているようだ。

 マップの取得時やタスカリアスに指示している間、返信が止まっていた。処理が割とカツカツらしい。

 となれば……


 俺は脳内PCで複数の通信ソフトを立ち上げ、コアに接続する。

 その接続それぞれで別々の命令を同時に、投げっぱなしで大量に送りつける。

 マップのダウンロード、監視映像の表示、守護者の操作。


『Z0全域のマップを出力』

『端末付近の監視映像を……』

『守護者タスタスタタタタ』


 バグった。


 これはいわゆるDoS攻撃である。

 どうやらこのシステム、複数回線による同時接続や並列処理を想定していなかったらしい。

 簡単にハングアップする上に権限チェックも同じプロセスでおこなっているとすれば……


「俺はユーザー名アルフィン・ダグハイム。管理者情報の上書きを要請する。優先して処理しろ」


『かかかか管理者情報更新完了』


 俺の権限でできる他の処理に許可が下りた隙に管理者情報の上書きを割り込ませたのだ。

 予想以上にサラっと上書きできてしまった。セキュリティがぬるいな。


「システム再起動。……管理者アルフィン・ダグハイムとしてログインする」


『再起動完了。管理者アルフィン・ダグハイムの接続を確認』


 俺はニヤリと笑う。口はないが。

 ふふふ。これでこのダンジョンは俺のものだ。




「さて、改めて……俺の肉体の再構築を要請する」


『不可。必要な魔力が不足』


 まだダメなのかよ。面倒だな。


「そもそも何ができるんだよ……ああ、いい。いちいちやり取りが面倒だから管理に必要な情報を全部送ってくれ」


 管理端末──コアから膨大な情報が送られてくるのを整理しつつデータベースに入れていく。

 大量のデータに立ち眩みのような感覚を覚える。

 一度に全部を把握するのは無理だな。必要な時に引き出すことにしよう。


 今回知りたいのはダンジョンの壁に飲まれた肉体の再構築方法。


 必要な材料は水35L、炭素20kg、アンモニア4L……とかは俺の肉体そのものが壁に溶けてるのでいいとして……

 大量の魔力が必要なようだ。


 コアは時間をちゃんと計ってなかったようだが、かなりの長期間スリープ状態となっていたこのダンジョンは魔力の蓄えがない。このままでは維持すらおぼつかないほどに。


 魔力量は感覚で分かるのだが数値化されていないので俺の方で勝手に数値化してみよう。

 DMP──ダンジョンマジックポイント。安直だが。

 再構築に必要な魔力を10万DMPとして定義すると、現在の残魔力は……約700DMP。


 せっかくのダンジョンだが、残念ながらこれではなにもできない。スリープ状態を解除したことによって維持コストもかかってしまう。

 とにかく魔力を稼ぐ必要がある。問題はその魔力の入手方法だな。


 うーむ……どうするか。


 まず、なにをするのでもさしあたっての肉体が必要だ。

 魂だけではロクなことができない。


 なによりも、魂剥き出しでさまよっているとどんどん意識が弱く、存在が希薄になっていく気がする。

 このままではヤバそうだ。


 タスカリアスを乗っ取ることは可能だろうか。

 俺の埋まっていた場所にいたストーンゴーレムを呼び出して調べてみる。


 うーん……入ろうとしても押し出されるな。

 シンプルだが人工的な魂のようなものが定着しており、憑依はできなさそうだ。空っぽの器が必要か。


 管理者権限でなにかできないのか……お、魔法生物生成機能ってのがある。現在の魔力で生成できるものを表示してみよう。


 …………


 ……今作れるのは『レッサーリトルクレイゴーレム(500DMP)』だけのようだ。

 低級(レッサー)小型(リトル)粘土(クレイ)ゴーレム。弱そう。


 背に腹は代えられない。こいつでいいか。

 ポチッとな。


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