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39話 はぐれ冒険者、ダンジョンを目指す

 


 オーパスの町、冒険者酒場。


 もともと流行っているわけではなかったその酒場は、レイドのために周辺から集められた冒険者により一時的な賑わいを見せた。


 辺境の小さな町である。冒険者過多によりギルドに出されていた依頼もあらかた片付けられてしまい、暇を持て余した冒険者が昼間から酒場に入り浸るようになったのだ。


 新ダンジョンに拠点が構築されたために冒険者の半数はそちらに移動したが、懐疑的な者たちは未だこの町に滞在して様子見をしている。

 そこへ新ダンジョンの噂を聞きつけた者が続々と集まり、町はダンジョンバブルの様相を呈していた。


「ドレイクが出たんだけど、なんとか倒してさ。その先で古代魔法道具を発見したよ」


「ああ、オレたちも魔石鉱床を見つけてな。採掘利益を分けてもらえることになったぜ」


「マジかよ、レイドは失敗したって噂もあったから危ねえのかと……」


「いや、結局死人は出なかったらしい。なんでも元から住んでたアバンドンドの人狼が助けてくれたとか……」


「人狼以外にもエルフとかドワーフとかも一緒にいるらしいぜ。そいつらを『魔王』ってあだ名の魔術師が仕切ってるんだってよ」


「ぶはは、魔王が宿屋なんて作るかよ」


「そうそう、宿屋の獣人の猫ちゃん、かわいいよな。癒されるぜ……」


「オレ、引っ掻かれたんだけど……」


「お前、手を出そうとしたんじゃねえだろうな」


「いや、頭を撫でようとしただけで……そんな目で見るなよ……」


 新ダンジョンでは珍しい上に需要のあるミスリルや魔石、さらには古代魔導具などが発見され、景気のいい話が聞こえ始めた。


 しかし、昼間から飲んだくれながらそれを苦々しい目で見る者たちがいた。

 薄暗い酒場の中にあってもその一角だけ周囲より一際暗く見える。


「……チッ! あのダンジョンはオレらが独占するはずだったのによ……」


 クザンのパーティーメンバーの2人。

 中級冒険者になりたてのトイとマルゴである。


「クザンの奴、偉そうにしてたくせに……アイツについてたのは間違いだったな」


「魔物にやられたとか言ってたが、結局はルーリアに手を出そうとして返り討ちにあったってことだろ? くそっ、アイツのせいでオレたちまで目をつけられちまって……」


「その当人はさっさと治療院から姿をくらまして行方不明ときたもんだ。オレらも身の振り方を考えねえと」


 この2人は支部長と癒着していた上級冒険者エドガーのお気に入りの後輩であるクザンに取り入って甘い汁を吸い続けていたのだ。

 直接不正を働いていたわけではないため処分こそ免れていたが、その評判は周囲に知られており肩身の狭い思いをしていた。


 その2人の向かいの椅子に、1人の男が座った。くすんだねずみ色のローブを着た魔術師である。


「クザンのパーティーの2人だな。邪魔をさせてもらおう」


「アンタは──エドガーさんのパーティーの、リンツか」


「エドガーのパーティーは解散だ。ヤツが下手を打って逮捕されてしまってな……」


 レイドの際にステラを手篭めにしようとしたエドガーはその場で当人によって捕縛され、ギルド長直々の尋問により余罪をすべて吐かされて王都に連行されていった。この国の冒険者としては再起不能と言っていいだろう。


「パーティーの他の連中も同じだ。私はエドガーに脅されてやった、と主張してなんとか資格剥奪は免れたが、このあたりで仕事をすることはもうできまい。パーティーを組む相手がいない」


 リンツは溜息をついた。

 自業自得だ──とトイは思ったが、自分も同じなので口には出さなかった。


「そこでお前たちだ。どうやら似たような状況のようだな。どうだ、私と組んでみないか?」


 トイとマルゴは顔を見合わせた。

 リンツ自身はまだ中級だが、その中でも上位となる魔術師だ。組めるならば心強い。

 だが──


「オレたちはまだ状況がマシだ。アンタと組んだらそれこそ仕事なんて──」


「ギルドの仕事をするつもりはない。私が独自に入手した情報によると──新ダンジョンに構築された拠点。あれを仕切る魔術師はダンジョンコアを掌握しているらしい。そいつを奪って売り払い──いや、我々があのダンジョンを裏から支配し、利益を独占するのだ」


「独占だと? それができりゃあ、町の一つくらい買えるくらい稼げるぜ!」


「……そんなに上手くいくか? アンタが腕のいい魔術師なのは知っているが、ダンジョンコアの制御ができるのか?」


 ダンジョンコアの制御方法は魔術師ギルドでも解明されていない、というのは周知の事実だ。


「フッ。その魔術師の研究資料さえ手に入れば、魔法学院で上級クラスにいた私ならワケはない。おそらく特殊なダンジョンコアであり、制御が容易なのだろう」


 なにか分からんがすごい自信だ──


 トイとマルゴは目を見合わせ、頷いた。

 この男の自信に賭けてみよう。今の状況より悪くなることはあるまい。




 ──────




 そうして3人はオーパスには戻らぬつもりで荷物をまとめ、ダンジョンへとやってきた。

 本来ならば徒歩で2日の行程だが、利に聡い業者がすでに乗合馬車を開業していたため、その日のうちに到着することができた。


 一緒に乗ってきた者たちは他の町からきたようでトイたちの顔を知らないようだったが、オーパスで好き放題していた彼らを嫌う冒険者は多い。フードを目深にかぶりコソコソと洞窟に入る。


「……なんか、雰囲気変わったよな」


 しばらくは一本道なのだが、最初に入った時と比べると自然な洞窟といった印象は薄れ、整備されているように感じる。多数の冒険者が訪れて土が踏み固められたからだろうか──


「ふむ。人の意思を感じる。ダンジョンコアの作用であろうな」


 リンツは噂について確信を深めたようだった。

 トイとマルゴは魔術師のその様子を見て安心する。この男がダンジョンに詳しいのは嘘ではないようだ。


 やがて少し広めの空間に出ると、行き交う冒険者の姿が見える。

 入り口には看板が立っていた──


『ダンジョン街・ホワイトキギョー』


「……なんだ、ダンジョン街って」


「ダンジョン内の街は他にもあると聞いたことがある。ラウジェスでは初めてだろうが、なんにしろ安全だと確信していなければ街を作ろうとは思うまい」


「ダンジョンを制御してるから拠点を作れたってことか」


「うむ、そういうことだ」


「それで、コアはどこにある?」


「人の流れはあっちに向かっている。ダンジョンの奥にあるんじゃないか?」


 そちらには簡易的なゲートが置かれており、挑戦する冒険者は記名をしてから入っていくようだ。


「記名か……したくないな」


 一応3人とも冒険者証を剥奪されているわけではないので入ることは可能だろうが、要注意人物となっている。なるべくなら身元を隠して行動したい。


「……コアが制御されているなら浅い階層にあるかもしれない。まず街を見て回るとしよう」


 リンツの提案に2人は頷いた。

 実のところ、単純に街を見てみたかったのだ。


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