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30話 忠臣狼捕物帖

 


「レイドってもこんなもんか、手応えねえなあ」


 ロックリザードを仕留めた冒険者は呟く。

 レイドとはどんなものか緊張半分、期待半分だったのだが、肩透かしを食った気分だった。


 前のパーティーが見える程度の適当な間隔を取り、順に進んでいく。いつ、どのパーティーが襲われても前後がすぐに支援できる態勢だ。

 遭遇する魔物も弱いため、自然と緊張感も薄れていく。


「ステラさんが言ってただろ、半分練習みたいなもんなんだよ。それより足元気をつけろ、穴が空いてるぞ」


「それにしたって……うわっ!?」


 地響きとともに正面の暗がりから現れた巨大な影。

 3メートルにも及ぶ重量感溢れる巨体は長い両腕を引きずりながらゆっくり、まっすぐこちらに向かってくる。


「ス……ストーンゴーレムだ!」


「落ち着け、報告は聞いてただろ! 重戦士のいるパーティー、頼む!」




 ──────




 先頭を行くビッケは大きな部屋に盗賊たちを招き入れた。


「この先に奴らがいる。さあ、一気にやっちまおうぜ」


「よし、やるぞおめぇら! 敵を殺った奴は取り分倍だ!」


「おう!」


 頭目の号令とともに部屋になだれ込む。

 が──その先にいた者を見て思わず立ち止まる。


 レイドのために全身鎧と斧槍でフル武装した冒険者。

 その集団と出くわし、お互いに見つめ合った。


 恋が芽生えるんじゃないかというほどの時間見つめ合った後、我に返った冒険者が口を開く。


「なんだお前ら──このダンジョンを根城にしてる盗賊かなにかか?」


 ボロい服装、構えた短剣や斧、凶悪な人相の集団。

 盗賊以外の何者でもあるまい。


「ぼ、冒険者だと!? おい、ビッケ……」


 酔い潰れた人間と人狼がいるはずだ。フル装備の冒険者がいるなどとは聞いていない。


 ビッケがいたはずの方を振り向くと、地面に穴が空いていた。それは見ている間にパタリと閉じ、跡形もなく消える。


「おい、戻……」


 後ろを振り向くと、入ってきた通路にドーンと音を立てて大きなブロックが落ちてきたところだった。


「……………………」


「……魔物も手応えがないしな。盗賊でもふん縛って突き出せば、いくらかの賞金は貰えるか?」


 各々の武器を構える冒険者たち。


「……な、なめんな、こっちの方が数は上だ! やるぞ、てめえらぁ!」


 わずかな間、頭目だった男は吼えた。

 だが、その叫びを聞きつけて周囲から数パーティーが集まってくることは知る由もなかった。




 ──────




「例のストーンゴーレムが出たようですね、ギルド長。行かれますか?」


 最後尾にいるレダードにステラが報告に来た。

 レダードは首を振る。


「いや、ストーンゴーレムについてはそれぞれ対策してきているはずだ。そのくらい自分たちで対処してくれなきゃ困る」


「……なんか、盗賊と遭遇したという報告も来てますね」


「ダンジョンに住み着くことはよくあるな。まあ問題ないだろう」


「そう。では、私は手伝ってきましょう。ゴーレムがいいわね。ダンジョンによって違いがあって、なかなか興味深い素材なんです」


「君も行かなくていい。それより先頭の様子を見てきてくれないか?」


「あら、何故です? エドガーに任せたんでしょう?」


「奴にはいくつかの嫌疑がかかっている。プレッシャーをかけたから、尻尾を出すんじゃないかと思ってな」


「……ルーリアを囮に? さすがにどうかと思いますよ」


「ありゃ娘の希望だしな。まだるっこしいのは嫌いなんだ。サッサと終わらせたい。現行犯なら一発だ」


「……分かりました。貸し二つめですね、ギルド長」


「ああ、恩に着る」


 ステラはローブの裾を翻し、通路を進んでいった。




 ──────




 タスカリアスはウォーハンマーによる一撃を受けながらも怯むことなく両腕を振り回す。


 かろうじて打撃を受け止める冒険者だが、勢いに押されて奈落の底へ向けて落ちていった。


『ああっ、ボブ! くっ、よくもボブを! うおお、光波月影斬!! ……ぐっ、ウワアアアー!』

『ジャックー! よくもジャックを! 食らえ──』


 うむ、クライマックスだな。

 熱い戦いが繰り広げられているようだ。


「アルフィンさん! タスカルさんが……!」


「変な略し方するな。あれは助からないな」


 冒険者はストーンゴーレム対策を積んできている。クザンたちの報告のせいだろう。

 それにしては善戦しているが、時間の問題だ。


「いいんですか?」


「大丈夫だ、ダンジョンコアで生き返れる。ウチはホワイト企業だから、ちゃんと生き返らせるぞ」


「そうなんですね、よかった……」


 タスカリアスやビートはダンジョン眷属なので再召喚が可能だ。ちょっとかわいそうだしDMPは痛いが、タスカリアスは存在を知られていることもあり、前面に出さないわけにはいかない。


 ちなみにタスカリアスにダウンさせられた冒険者は、他の奴が見ていない隙にコッソリ上から降りてきたビートら蜘蛛部隊がせっせと穴に落としている。


「盗賊団と冒険者も交戦中!」


 ブランとジナが監視しているのは盗賊団の方だ。

 ビッケは上手く離脱できたらしいな。


「うまい具合にあったまってるな。ダール、エンテ。もう始めてるか?」


『おう、今からじゃ!』

『ポチッとな』

『あ、お前勝手に……!』




 ──────




「投降しろ、盗賊!」


「くそ、舐めやがって……てめえらなんぞ……ッ!?」


 冒険者との鍔迫り合いに押された盗賊の足下にポッカリと穴が開いた。勢い余って2人とも転落する。


「うわあぁ!?」


 中はツルツルの滑り台になっており、どこまでも滑り落ちていく。


「ってぇ!?」

「ぐはっ!?」


 地面に放り出される2人。金属鎧が重そうな音を立てる。

 放り出されたのは明かりのない、真っ暗な部屋だった。


(クソ、落とし穴か。だがチャンスだ。ここでこいつの首を掻っ切れば……)


 軽装の盗賊に比べ重装備の冒険者はダメージが大きく、すぐに起き上がれない。

 悶絶している冒険者に、手探りでとどめを──


 その時、盗賊の『気配察知』スキルは周囲の尋常ならざる気配を捉えた。


「……ヒッ!?」


 見回すと、暗闇に赤い光を放つ双眸がいくつも浮かんでいる。

 そして、獣臭が鼻をつく──


「『ホワイトキギョー』へ、ようこそ……」


 暗闇から姿を現したのは、二足で立つ人の形をした獣たち。

 人狼であった。


 その目は赤く輝き、口からは白い煙を吐き、涎を垂らし、舌舐めずりしている──ように、盗賊には見えた。


「ひ、ヒィィ……」


 奴隷として散々痛めつけ、こき使った人狼たち。

 その復讐。


 ──オレは生きたまま貪り食われるのだ──


 盗賊が死を覚悟した瞬間、人狼たちは盗賊と冒険者に一斉に襲いかかる!



「ものども、出会え、出会えぃ!」

「デンチュウでゴザル!」

「ソチもワルよのう!」

「ロウゼキモノじゃ、ひっ捕らえよ!」

「デンチュウ! デンチュウ!」




 ──────




「……あれって、どういう意味ですか? デンチュウ?」


 ……あー、なんだ。

 なんかいろいろ混ざってるが……とりあえず忠臣蔵が一番人気らしいな。使い方は違うが。


 交戦している冒険者と盗賊たちは、感圧板によるトラップとダールたちのルート操作により、数人ずつ階下に送り込まれる。

 タスカリアスによって穴に放り込まれた冒険者も同じだ。


 落とし穴の先に待ち構えていた人狼によって縛り付けられてからさらに落とされ、最下層のマンイーター畑に送られる。


 召喚した魔物はスキルを操作したり、古代魔術の一部の魔法を付与できる。

 マンイーター・アルファは『抽出(エクストラクト)』を付与し、消化液スキルを削除して召喚してある。


 縛られた冒険者と盗賊たちは抵抗できないままマンイーターに限界まで体力とか魔力とかいろいろ搾り取られることになる。DMP工場の完成である。


「これで使った分のDMPを補填しつつ、無力化もできる。一石二鳥だ」


「……エゲツないよ、兄ちゃん」


 ブランが呆れた様子で呟き、ジナはウンウン、と頷いている。

 なんとでも言うがいい。俺は気にしない。



 ……む。

 エドガーたち先頭パーティーに妙な動きがある。


 レイドを混乱させるため中央に攻撃を仕掛け、先頭はスルーしていたのだが、奴らは後続が来ないことを幸いにルートを外れている。

 例のいかがわしいことをする気か。


「……コレット。ちょっとここを頼む。野暮用ができた」


「はい、任せてください!」


 コレットはなんとなく嬉しそうに返事をした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 理系の合理的な判断と、貧乏くじばっかり引くことをハニワになっても実はやめられていない主人公は好きですw [一言] ハニワ魔王って他でも見かけたことあるけど…まあ内容は全く違うし、これだけ…
[良い点] うん。やっぱり主人公に見て見ぬ振りは、して欲しくないなぁとコレットに共感。 私も、なんとなく嬉しそうに頷きます。 うん。うん。
[一言] > 「『ホワイトキギョー』へ、ようこそ……」  侵入者側には限りなくブラックで吹いた。
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