26話 冒険者襲来
「アルフィン様! 冒険者が……!」
見張りの人狼がホールに飛び込んできた。
ついに来たか。予想より随分遅かった。
新ダンジョンの探索はいったん中止だ。まず冒険者をなんとかしないと。
「何人だ?」
「そ、それが……ラウジェス側の入り口前にキャンプを始め……さ、30人以上おります!」
「30人……!?」
なんてこった。
30人はオーパスの見習い初級冒険者を除いたほぼ全員。
大規模攻略作戦である。
レイドの準備をしていて来るのが遅かったのか。
だが、この規模のダンジョンに対して大袈裟過ぎる。普通は町に被害が出るような場合に発令されるものだ。いくらダンジョンコアが希少といっても……
いや、言っててもしょうがない。
レイドを仕掛けられるのはこのダンジョン、それは間違いないのだ。
レイドならばダンジョン前で一晩明かし、朝からの一斉攻略となるはずだ。まだ時間はある。
想定より人数が遥かに多い。ケチケチしてる場合じゃない。DMPを使い切るつもりで準備しなければ。
アルファを含んだマンイーター畑のおかげでDMPは潤沢……というほどではないが、ある。
「ダール、エンテ。頼んだものはできてるか?」
「おうよ、誰に言っておる。急ぎで作ったが、自信作じゃ」
ダールは誇らしげにそれを掲げた。
バネを使って荷重によりトラップを起動するための感圧板である。
「コイン1枚単位の重さで調節できる。まあワシらにかかればこの程度……」
「よし。そこに穴掘ってそいつを埋めてくれ」
「殺すぞ」
口悪いな。
「まあ待て。話を聞け、別に捨てるわけじゃない。そいつを一回ダンジョンで吸収することで、コピー&ペースト──複製することができるようになる」
「……ほう?」
ダンジョン機能の一つ、物質生成。
標準だと属性魔力が付与されたブロックを作成するものだが、その機能を解析して物質吸収機能を組み合わせ、素材とDMPから取り込んだものの複製ができるようにした。
DMPは必要だが、今回のようなものであれば大してかからない。素材はダンジョン内にある鉄鉱石から抽出できるしな。
「お前たちの優れた技術により作られた逸品を大量に作れる。何度も同じものを作らなくていいわけだ」
「なるほど、それは便利じゃな。そういうわけならまあ……よかろう」
褒められたダールは満更でもなさそうな表情で穴を掘り始めた。エンテは単純な相方を見てため息をついている。
「さて、冒険者への対応だが……」
「……戦うつもりなんですか?」
コレットが聞いてくる。
戦争はやはりイヤだよな……
「ああ。最初から事情を説明することも考えたが、上手くいってもおそらくこのダンジョンはギルドの保護下になってしまう」
独立を維持するためには、戦うしかないだろう。
コレットは落ち込むだろうか……
「……じゃあ『火蜂』、使いますか!?」
……ちがった。
コレットの目が爛々と輝いている。すっかり中毒である。こええよ。
「冒険者をまとめてハンバーグにする気か。基本的には不殺でいく」
「あちらはそう考えないでしょう。難しそうですな……」
ザオウが腕組みをして唸る。
人狼の能力的には敵の数を減らすなら奇襲で確実に仕留めるのが一番効率的だ。むろん、生け捕りは難しい。
正面から戦えば数が多く多彩な魔法を使える冒険者の方が有利だ。
「トラップで分断、各個撃破する。これなら生け捕りも可能だろう」
「相手が元仲間だから殺したくないの?」
ブランが疑問を口にした。咎めているというより素朴な疑問のようだ。
「それもあるかもしれないが、それだけじゃない。殺してしまえば平和的解決は難しくなり、レイドを全滅でもさせれば危険ダンジョン認定され、次はラウジェス中の冒険者が集まりかねない。落とし所を考える必要がある」
「どうするの?」
「半数を生け捕りにして、リーダーと話をつける。交渉だ」
いきなりの交渉は難しい。
一度力を示した上でメリットを提示して交渉する。
「言い方は悪いが、人質を取ることになる」
と、そこでザオウの方に視線をやる。
仲間を盗賊団に人質にされたザオウはどう思うだろうか。
「……お気遣い、痛み入る。約束を違えたりしなければ人質は戦略の一つ、と心得ております。我らは戦力的に劣っている。使える手はなんでも使うべきでしょう」
「……そうか、悪いな」
もちろん生け捕りにしなきゃ始まらないんだが、その後の交渉についても考えなければ。
問題は相手のリーダーだ。話が通じる奴ならいいんだが……
レイドでは通常、一番冒険者ランクが上の者がリーダーを務める。
辺境の町オーパスを拠点とする上級冒険者パーティーは2組。クザンの兄貴分であるエドガーの4人パーティーと女魔術師ステラの3人パーティーだ。
エドガーの方は俗物だ。イイやつじゃないが、こちらからメリットを提示できれば買収できるかもしれない。
ステラの方は……よく分からない。
交渉役も必要か。
ハニワな俺では話にならないかもしれない。ザオウでは余計に態度を硬化させるだろう。ダールとエンテは口が悪い。見た目的にほぼ人族なコレット……
「……なんでしょう?」
小首を傾げているコレットを見るが、ちょっと純粋過ぎて交渉は難しいか。見た目的にもナメられそうだ。ブランは意外と頭が回るが若過ぎて厳しい。ジナは言わずもがなである。
むう、姿を隠して俺がやるしかないか。
「よし、準備開始。探索中の人狼を呼び戻して、端末の配備を優先。何人か、そっちの新しい部屋を指令室にするからテーブルを運んでくれ。コレットたちは薬を用意。それと漬物石にしてるタスカリアスと……」
正念場だ。
これを切り抜ければスローライフに──一歩近づく。




