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25話 ホワイトキギョー

作品タイトル変わりました。ご注意ください。

今回は三人称です。

 


 オーパスの町──

 赤毛のポニーテールを揺らし、治療院から冒険者ギルドへ続く道を大股で歩く冒険者がいた。


 彼女はギルドの扉を叩きつけるように開き、受付に詰め寄った。


「どういうことなの!? まだあのダンジョンを放置してるって……!」


「ルーリアさん。いえ、支部長のお達しで……あのダンジョンはしばらく手を出すな、と」


「言ったでしょ、仲間が行方不明なのよ! あなたじゃ埒が明かないわ、支部長を出して!」


「おいおい、ルーリア。受付嬢が困ってるぜ、そんなに興奮するなよ」


 奥にいた軽薄そうな男が騒ぎを聞きつけてフロントに現れた。


「……いたのね、クザン。あなた、どういう報告したの?」


「どうって……事実をそのままだよ。アルフィンの野郎が独断専行で罠に引っ掛かり、敵を呼んでパーティーを危険に晒したってね」


「アルフィンが悪いってこと?」


「リーダーの命令を聞かずに暴走したやつは見捨てられても文句は言えない。冒険者の不文律だろ? 無謀な初級ごときを助けるために救助隊なんて出せない」


「……この……!」


 ルーリアは歯噛みする。


 慎重なアルフィンが独断専行など信じられないが、クザンのパーティーはほとんどがイエスマンで固められている。

 おそらくは口裏を合わせて報告したに違いないが、ルーリアも一部始終を見ていたわけではないので証言はできない。


 この町の中級以下の冒険者の間で独裁者のように振る舞うこの男は、初級でありながら自分に意見するアルフィンが邪魔だったのだろう。


「それより、お前もストーンゴーレムにやられた傷がちゃんと癒えてないんだろ? きちんと休んでた方がいいぞ。あのダンジョンに関しては上級モンスターが出る危険を訴えて調査を止めている。傷が癒えて、マトモな魔術師をパーティーに加えてからでも遅くはないさ」


 最初は急いでいたクザンだが、必要とあらば腰を据えてかかる柔軟性も持ち合わせている。

 ドヤ顔を見るに、それが自分の長所だ──などと考えているに違いない。


 それは実質的にアルフィンを見捨てる選択だ。

 すでに彼が不明になり10日が経とうとしている。全員がそれなりの装備をしている冒険者だが、行方不明から3日が経てば生存率はグンと下がる。10日を越えれば……限りなくゼロに近い。


「いいわ、あたし一人でも助けに行く」


「それこそ独断専行だ、ルーリア。支部長に言ってお前から冒険者証を剥奪することも……」


「話は聞かせてもらった!」


 ドバン!


 ……とルーリアが入ってきた時より大きな音を立ててドアが開いた。質素なギルドの建物が揺れ、ドアは蝶番が外れて吹っ飛んでいった。


「……ありゃ、脆いドアだな。修理しておけ」


「な、なんだ、アンタ!」


 突然ギルドに入ってきた偉丈夫はクザンの目の前で立ち止まる。背中には大剣を背負っており、180センチ近くあるクザンと較べても頭一つ大きい。


「キミがクザンくんか……娘が世話になっているらしいな」


「む、娘?」


「父さん!? なんでここに……」


 ルーリアに父と呼ばれた大男は満面の笑みでクザンの肩を掴み、目を覗き込む。近い。


「なんでも、以前の蒼月の夜(ブルームーン)で魔物の群れに突っ込んで気を失った娘を助けてくれたとか……」


「あ、ああ……それが……」


「ウソだな」


 男はあっさりとそう言うと、クザンを担ぎ上げた。


「な!? なぁぁ!?」


「ふんっ!」


 ドガァッ!

 投げ飛ばされたクザンはギルドの木製の壁を突き破って崩れた壁の中に埋もれたが、そこからすぐに顔を出した。


「む、なかなか頑丈だな。結構結構」


「……な、突然何をしやがる! いくらルーリアの親父っつっても……!」


 と、その時、事務室のドアが開いて1人の男が出てきた。ラウジェス冒険者ギルド、オーパス支部長である。


「何事だ、騒々しい! ギルド内でのケンカは…ギ、ギルド長! 何事ですか!?」


「おう、邪魔してるぞ、支部長。ギース……だったな」


「ギルド長? ルーリアの親父が……?」


 クザンが震える声を出し、ルーリアは額を押さえてため息をついた。この滅茶苦茶な父親が出てくると頭痛がするのだ。

 ラウジェス冒険者ギルド長にして現役特級冒険者、『竜殺し』のレダード。


「クザン!? いくらギルド長といえど、突然このような……」


「俺ぁウソつきは嫌いなんだ。てめぇもだ、ギース」


「な、なんのことで……」


「オーパス支部長ギース・ボーマン。お前は一部の冒険者から個人的に金銭を受け取り、特別な便宜を図らっているという証拠があがっている。これから取り調べだが……俺の前でウソをつけると思うなよ」


 レダードの目が赤く輝くと、支部長の顔面は蒼白になる。レダードのスキル『真眼(トゥルーサイト)』はいかなる欺瞞をも見通すのだ。


「さて、娘よ」


「……娘って呼ばないで、ギルド長。隠してたんだから」


「つれないねぇ。さっきは『父さん』って呼んでくれたのに……まあそれはともかくだ。お前はクザンに命を救われた恩を感じてパーティーに入っていたようだが、それはウソだ」


「な、なにを根拠に……!?」


「娘がヘンな奴に騙されてたらイヤなんでな。お前に脅されてた目撃者に『真実』を聞いたんだよ。ルーリア、お前を魔物の群れから救ったのは黒いケープを羽織った貧乏そうな魔術師だったそうだ。俺の経験上、危険な状況で人助けをするような奴はいつまでも恩を着せたりしない」


「…………アルフィン?」


「……心当たりがありそうだな」


「その人が、ダンジョンで行方不明に……」


「よし、この町の冒険者を総動員しろ。大規模攻略(レイド)を発令する」


 過保護で面倒なだけだった父親がこんなに頼もしく見えたことは初めてだった。




 ──────




 一方、ダンジョン。


「ぬ、お主らは……何者だ」


 偵察から戻ってきたザオウは見知らぬ2人を見咎める。その2人はなにやら重そうな器具を肩に担いで運んでいるようだった。

 道案内をしていたコレットがザオウに返答する。


「あ、ザオウさん。こちらはドワーフのダールさんとノームのエンテさんです」


「おう、人狼の戦士長殿だな。話は聞いておる。これからワシらもここに厄介になるんでな」


「ワシらも国を追放され、帰る場所がない身じゃ。お主らと同じよ」


「そうか、殿が迎え入れたのか。拙者はザオウと申す。以後よろしく頼む。小娘、殿……アルフィン様はどちらに?」


「小娘じゃなくてコレットです。なんでわたしにだけアタリがキツイんですか」


 むくれるコレットにザオウはしばらく考え込んだ後、頭を下げる。


「……いや、失礼した。エルフには嫌な思い出があってな。ハーフであるお主には関わりのないことかもしれん」


「分かってくれたならいいんですけど……」


「拙者も過去のわだかまりは捨てよう。アルフィン様の大望を果たすために」


 ザオウの言葉に、ダールが眉を上げる。


「大望? なんじゃ、ハニワの小僧には目的があるのか?」


「……アルフィン様がお主らを仲間に入れたことで確信した。殿は……この地に、『見捨てられし地(アバンドンド)』に王国を築こうとしているのだ」


「なんじゃと? ここはそのような規模ではあるまい。せいぜい集落といったところじゃ」


「分からぬか。殿は様々な種族を集め、ダンジョンという要塞を築き、ラウジェス王国、そしてそれ以外の攻撃に備えている。なにかに似ていると思わぬか?」


「……そう言われると……伝説の、魔王。そっくりですね」


 魔王。


 はるか昔──魔族を始めとする様々な種族を傘下に収め、大迷宮を築いて当時地上を支配していた神人に反旗を翻した。


 結局反乱は失敗に終わり、魔王は討伐されて魔族たちは散り散りになったが、それによって勢力を減じた神人たちは地上を去った。

 その後はエルフ、人族と支配者を変えつつ現在に至る。


「我ら人狼は魔王の元に集った種族たちの中でも戦士として重要な位置にいた。魔王は他種族に伝わっているような邪悪な存在ではなく、神人たちの威圧的な支配からの解放を目指した英雄であった、と伝えられている」


「……あのハニワ小僧がその伝説の魔王の再来だと?」


「我らの崇拝の対象であった神像がまさしくアルフィン様のお姿であったことも符合する。そしてあの方はこう仰った──我らが、はぐれ者たちが平穏に暮らせる地を作る、そのために戦うと」


(なんかちょっとニュアンスが違ったような……)


 アルフィンが言ったのは「平穏な暮らしを目指す」だったような気がする。コレットは思った。


「ダンジョン『ホワイトキギョー』を中心に国を興し、殿が魔王となり統治する。それこそが殿が望み、我が望み」


「『ホワイトキギョー』?」


「殿が仰っていただろう。我らがダンジョン、そしてこれから興す国の名前だ」


 アルフィンは指示を出す時、二言目にはその名を言っていた。

 なるほど、あれは国の名前だったのか。コレットは納得した。


「確かに大それた望みじゃ……だが、面白い」


 ダールはニヤリと笑う。

 エンテも長い髭をいじりながら愉快そうに体を揺らす。


「ふん、ダールよ。伝説の聖剣を超える剣を鍛える、そのために不倶戴天の敵と手を組んだ我らと通じるものがあるな」


「うむ。大言壮語と笑われようと、望みはデカい方がやりがいがある」


 ザオウは腕組みをして満足げに頷いた。


「皆、同じ気持ちのようだな。では、ここに誓おう。我ら皆、アルフィン様が魔王となり、地上にはぐれ者の楽土を築くために命を捧げると」


「よかろう。ワシらも奴に命を救われた身だ」


「魔王となれば、ワシらの造る神剣の主にもふさわしいのう」


「我ら『ホワイトキギョー』戦士、アルフィン様に命を捧げる覚悟はできております!」


 ダールとエンテも同意し、いつのまにか集まっていた人狼たちも気勢を上げている。


「……えーと。わ、わたしだって誓います!」


 こうして新国家『ホワイトキギョー』とハニワ魔王化計画が本人のあずかり知らぬところで立ち上がったのだった。



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