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23話 炎上イントラネット

 


 エルフ村の支配に必要だったDMPは5,000。

 俺とビートで2,500使ったので、残りは約2,000となってしまう。


 コーヒーに目が眩んで思わず無駄遣いをしてしまったわけだが、結果としては良かった。


 その理由はエルフ村に漂う瘴気、そしてその発生源の魔物の死骸である。

 人間からすると害でしかないこれらはダンジョンにとっては貴重なリソースとなる。吸収して浄化できると同時にかなりのDMPにできるようなのだ。


 死骸の処理はすぐに終わり3,000。トータルで5,000強まで回復した。

 蔓延する瘴気は全部吸収するのは1ヶ月くらいはかかりそうだが、合計で+500くらいにはなりそうだ。


 これだけだと赤字だが、さらに村には魔力源があり、これが時間あたり+2DMPを無限供給してくれる。1ヶ月あれば余裕で元が取れる計算である。


「これで村の畑とわたしのハーブ園も生き返りますね!」


 コレットも嬉しそうだ。

 今は狩りに頼っている食料だが、畑が手に入ったことで供給が安定する。

 ハーブも俺にはともかく、他の者たちには有用だろう。


 コーヒーは今のところ無事で、秋に向けてちょうど実をつけ始めたところだった。まあどうせ飲めないので、体を取り戻すまではお預けだな……





 ──────





 コレットたちとともにホールに戻ると、探索に出していた人狼たちがすでに戻っていた。が……様子がおかしい。何人か怪我をしているようだ。


「なんだ? なにがあった?」


「殿……面目ありません。やられました」


「そんなに強い魔物がいたのか?」


 ザオウ配下の人狼戦士団……

 本調子でないとはいえそれなりに戦えるはずだ。


「巨大な……植物が……がくっ」


「タロベ! タロベーー!」


 タロベと呼ばれた人狼はその場に倒れ、仲間たちが呼びかける。

 タロベは小声で何事かを呟き続けている……なんだ?


「……うーん、もう食べれないでござる……」


 ベタな寝言だった。放っておこう。


「我ら人狼は体力の限界に達すると即座に寝て回復を図るのです」


 フォローありがとう、ジロベ(仮)。


「それはそうと、植物?」


「はい。我々が洞窟を探索していたところ、縦穴を発見しました。穴を降りたところはビッシリとツタが生えており、それらが襲いかかってきたのです。なんとか切り払って逃げてきたのですが……」


「縦穴だって?」


 ダンジョンコアのマップには表示されていない。

 隠し部屋──いや、管理者権限があれば隠し部屋まで見られるはず。

 普通の洞窟と繋がってるのであれば支配領域候補として表示されるので、それも分かる。

 他に考えられるのは……


「別のダンジョン、か」


 こちらと同じ様な別のダンジョンであれば、支配対象とならないので繋がってもマップには表示されないかもしれない。


「行ってみよう。案内してくれ。ザオウは……盗賊団の見張りの時間か。他に行ける者は……」


「わたしも行きます!」


「オレも!」


 コレットとブランが名乗りを上げ、ジナも激しく頷いている。


 うーん、子供を連れてくのはどうかな……

 まあ様子を見にいくだけならいいか。



 そんなわけで人狼ジロベ(仮)の案内で洞窟下層に移動する。


「ガダです」


 ガダだそうだ。

 彼はザオウの戦士団の副長らしい。レベルは32。まあまあ強い。


「しかしあれだけ大量の植物相手では我らの爪や牙ではいかんともしがたく……あ、あれですな」


 洞窟の一番奥、壁には2メートルほどの穴が斜めに下っている。かろうじて滑り落ちない程度の傾斜度だ。

探査(サーチ)』によると確かに下には無数の生体反応があるようだ。


「ツタなんて見えないよ。降りてみる?」


 ブランが穴を覗き込みながら聞くが、ガダが慌てて制止する。


「危険です。さきほどやられたタロベは降りる途中でツタに襲われました。絡まれ、奥に運ばれてしまう直前ギリギリで救い出せたのです」


「ふーむ、降りるのは危険だな。放置しておくのも気持ち悪いが……」


「『火蜂(アレ)』、使います?」


 コレットが目を輝かせている。よほどアレを使いたいらしい。

 だが俺は首を振る。


「こんなところで植物を燃やしたら煙が上がってきてこっちが燻されてしまう」


「なるほど……そりゃそうですね」


 いや、待てよ……燃やしても煙を逃がせばいいか。

 ダンジョンの構造を変えればいけるだろうか。試してみる価値はある。


 じゃあコアルームに行って構造変更を……面倒だな。

 アレ、試してみるか。


「ブラン、こいつをそこの壁に埋めてくれ」


 ブランに小さな灰色の石を手渡す。


「……これは?」


「盗賊団のアジトで盗……拾った、ダンジョンコアのカケラだ」


「へえ、これが? 光ってないね」


「魔力が通ってないからな」


 俺が夜なべして調べたところによると、壊れたダンジョンコアはデータが破損しており、読み取れるものはなかった。


 だが、その素材自体は利用できる。これはただ魔力を溜めるだけの蓄魔石とは違う、特殊な材質でできており、魔術式を組み込めるのだ。


 ブランがカケラを壁の岩の間に挟むと、カケラが青く点滅し、やがて光が安定した。


「光った……」


「そいつにはダンジョンクライアントの機能を入れてみた。ダンジョンの壁内に張り巡らされた魔力経路を辿り、コアと通信できる端末となる」


 こいつを要所に埋め込めば、わざわざコアルームに赴かずともダンジョン内どこからでもコアに、そして端末同士でのアクセスも可能となる。イントラネットである。


「す、すごそうだけどよく分からない……」


「凄いんだよ。さあどいててくれ」


 端末からコアに指示を送り、ダンジョンに穴を開ける。よし、ちゃんと動作するな。


 天井を地上まで開通し、穴の横に空気が流れ込む穴を開けた。ちゃんと空気が通るようにしておかないと途中で鎮火してしまうからな。


「よし、みんな、穴から離れとけよ。コレット」


「はい、出します! えいっ!」


 いまいち締まらない掛け声とともに練られた火属性魔力を使い、合成魔法を発動する。


「『火蜂(ファイアビー)群襲(スウォーム)』」


 生み出された光球はザーッと穴の奥に流れ込み、爆発音が響いてきた。


 ややあって立ち昇った黒煙は熱された空気の上昇気流に乗って天井の穴から吸い出される。

 横からは新鮮な空気が供給されるため、ポンプのように煙をどんどん排出していく。

 ここまで熱が届き、コレットたちも汗だくとなっている。


「よし、あとは放っておいて鎮火した頃に下に降りてみよう」


「人狼総出で対処しなければならないかと思っていたのですが、こんな方法があるとは……」


「えげつないよね……」


「魔物だからといっていちいち戦闘してられるか。俺は別に戦いが好きなわけじゃないんだ」


 ようやく煙が止まったのは、4時間後であった。


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