21話 ハニワ☆エボリューション
第2章開始。
老子いわく「人を知る者は智、自ら知る者は明なり」。
孫子いわく「彼を知り己を知れば百戦危うからず」。
まず最初にするべきなのは自分たち、そしてダンジョンについて把握するところからだ。
俺はダンジョン管理者の権限を得たとはいえ、全てが手に取るように分かるわけではないのだ。
マップこそ見られるが、直接見たわけではない。
だが、1人で見て回るのは少々骨だ。
そこで、動けるようになった人狼たちにパーティーを組ませ、リハビリも兼ねてダンジョンの探索を手分けして行わせることにした。
「我ら人狼は鼻が利きますゆえ、探索は得意です」
「よし、任せる。変わったものや生息している魔物や植物について報告、できればサンプルも回収してくれ。無理はしなくていい、休憩は適宜に取れ。ウチはホワイト企業だからな」
「承知いたしました。命に代えても遂行致します」
命に代えんな。話を聞けよ。
まあ、DMP収支を見る限り強い魔物はもういないはずだから大丈夫だろう。
ちなみにザオウは訓練室でひたすら木刀の素振りをしているので放っておいた。
ダンジョンの把握については報告待ちとして……俺自身についてもなんとかしないとな。
久々に自分のステータスを確認してみる。
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アルフィン・ダグハイム
種族 レッサーリトルクレイゴーレム
レベル 40
DMP 2480
HP 36 / 36
MP 307 / 307
スキル:
幻視
無属性魔法:
呪球 探査 呪標 解析 抽出 呪線
属性魔法:
火蜂 掘削
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ボス蜘蛛から抽出したおかげでかなりレベルが上がり、開発した魔法が増えている。
……が、HPはろくに上がってない。相変わらずの紙装甲である。
これは俺のボディであるレッサーリトルクレイゴーレムの限界なのだろう。
体を取り戻す10万DMPまで一気に貯めようと思っていたが、ボス蜘蛛戦を経て考えを変えざるを得ない。
まともに攻撃を受けたら即死しかねない今のステータスのままではマズイ。先は長いのだ。
移動も大変だ。要介護な老人ではあるまいし、いつもコレットに世話になるわけにはいかない。
やはり新しいボディが必要だ。
今のボディを無駄にせず、最低限のDMPで強化するために、ダンジョンコアの魔物進化機能を使おう。
ホールの隅の小さなスペース。
ここはコアルームに続くエレベーターとなっている。
魔力認証で管理者のみ動作するようになっている。……破壊すれば無理矢理通れるけどな。
コアルームに降りると小さな部屋の中心にコアが浮いている。
『Code-X』のクライアント機能を起動してコアにログイン。
「ハロー」
『管理者アルフィンのログインを確認』
「俺のボディの進化先の候補を見せてくれ」
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レッサークレイゴーレム 500
レッサーリトルストーンゴーレム 1,000
リトルクレイゴーレム 2,000
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ふむ。どれがいいか……
レッサークレイゴーレムは単純に大きくなるのだろう。
等身大ハニワ……想像すると、とても気持ち悪い。
移動は楽になりそうだが、脆さも変わらない気がする。気持ち悪いし、却下だ。
レッサーリトルストーンゴーレム。
これはタスカリアスの小さい版か。頑丈そうではあるが、移動の大変さは変わらなさそうだ。
むしろコレットでは持てないほど重量が増えてしまいそうだ。却下だな。
とすると……リトルクレイゴーレムか。
レッサーが取れている。能力アップの正統進化といったところか。
消費DMPが一番多いが、その分性能はこの中で最高だろうし、今のとボディの操作感覚もそう変わらないだろう。
問題は移動だが……アーカイブの情報を検索し、性能の詳細を確認する。
……うん? これは……そうなの?
──よし、君に決めた!
全部似たような名前なので間違えないように気をつけつつコアに指示を行う。
「リトルクレイゴーレムへの進化を実行せよ」
『進化要請、受諾。実行します』
コアからのレスポンスと同時に俺の体が光に包まれる。
「こ、これは……!?」
犯罪的っ……!
かつてない凄まじい快感の波が押し寄せ、体が作りかえられていくっ……!
あまりの快感に俺の体の一部がそそり立つ……!
いや、誤解を生む表現はやめよう。
俺の頭部からニョキっとツノが生えた。
これがリトルクレイゴーレム。指揮官機である。
ステータスを確認する。
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アルフィン・ダグハイム
種族 リトルクレイゴーレム
レベル 40
DMP 4480
HP 80 / 80
MP 525 / 525
スキル:
幻視 変形
〜以下省略〜
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ステータスが上昇し、かすり即死の危険性は減り、魔力容量も増えた。
そしてもう一つ、注目すべきは──追加された種族特性スキル、『変形』である。
アーカイブの情報によると、このスキルは体の一部を別の形に変形させられるらしい。
早速試してみよう。
念じると、脚がググッと形を変えていき、キャタピラになる。
よし。ハニワタンク、発進!
ダメだ! 形だけ変えても推進力がない! 企画倒れだ!
……推進力は魔法で補ってみるか。
背部をバーニア状に変形させ、その内部で自分にダメージを与えない程度に威力を絞った『呪球』を連続で炸裂させる。
少し動いた。
だがこの方式だと設地面が大きいからか加速に時間がかかるな。
キャタピラから通常の脚に戻し、足裏部分にローラーを仕込む。ついでにターンピック(※ローラーダッシュ時に地面に打ち込んで方向転換の支点とする杭、らしい)も付けておこう。男の浪漫である。
よし、発進!
ドーン!
壁に激突した! アルフィンは50のダメージ!
……進化してなかったら死んでるところだった。
*いてっ*では済まない加速度である。
練習が必要だな……
さて、とりあえず進化はできたが……
ダンジョンの現在の戦力はストーンゴーレム1体、人狼9人とハーフエルフと獣人の子供2人。あとハニワ。
これでは心許ないし、できれば使い捨て出来る戦力が欲しい。
魔物作成機能についても調べておこう。
このダンジョンコアで作れる魔物はゴーレム系のみだったが、今のDMPであればより高位のものが作成できるだろう。
今すぐ作るかは別として、戦力がすぐ必要になった時のために確認しておきたい。
「作れる魔物のリストを出してくれ」
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レッサーリトルクレイゴーレム 500
レッサークレイゴーレム 1,000
レッサーリトルストーンゴーレム 1,500
リトルクレイゴーレム 2,500
レッサーストーンゴーレム 3,000
リトルストーンゴーレム 4,000
クレイゴーレム 5,000
リトルウェブスピッター 500
ウェブスピッター 3,000
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やっぱりゴーレム系だな。バリエーションが妙に細かい。
大きさとグレードが上がっていくようだが、軒並み高いな。コスパは悪そうだ。
ん? 下の方に違うものがあるぞ。
ウェブスピッターって……あの蜘蛛だよな。
作れんのかアレ。
ひょっとして……アルファの死骸をダンジョンが吸収したから、この系統が作れるようになったとか? あり得るな。
試しに作ってみるか。邪魔ならルドン送り(※処分することらしい)にしてしまおう。




