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18話 ショウダウン

 


「アルフィンさん!」


「……つーか、別の方から来たよね、今」


 倉庫のすぐそばの目立たない所から穴を掘って集落外に出た後、合流用にコレットにつけていた『呪標(マーク)』に向かうとすぐに合流できた。

 コレット達は敵を避けて樹上に隠れていたようだ。


「もう感動の再会は済ませたのか?」


「おかげさまで……みんな無事で本当に良かった。アルフィンさんも。遅いから心配しました」


「いや、すまん。野暮用がな」


 適当に応えながら『探査(サーチ)』のマップを確認すると、いまだに敵はグループに分かれて山狩りをしている。

 コレットは自分の位置を絞らせないように最低限の攻撃で敵を足止めしていたようだ。


「野暮用……?」


 疑問の声を上げるブランにペンダントを投げてやる。驚きながら慌ててキャッチしたものを見て、2度驚く。


「拾ったんだが、ジナのペンダントってそれで合ってるか?」


「まさか、1人で取り返してきたの? ズルい……オレには来るなって言ったのに」


「大人はズルいんだ。勉強になったな」


「ハニワのくせに! ……でも、ありがとう。ジナ、ほら」


 ブランがジナの首にペンダントをかけると、ジナはわずかに微笑んだ。

 なんともリアクションの薄い娘だ。

 これが病気のせいなのだろうか……


「何から何まですみません……それと、奴隷たちが反乱を起こしたようですが、あれもアルフィンさんですか?」


「ああ。あいつらは……よし、こっちに向かってるな」


 集落から離れるようにひとかたまりになった反応がこちらに向かってくる。

 ザオウたちだろう。逃げる方向は指示しておいたのだ。壁を越えたのか……迎えに行く必要はなさそうだ。


「おい、ここだ!」


「……神!」


「違う」


 全身ボロボロの獣人──ウェアウルフたちは俺を見ると祈るようなポーズを取る。お前ら全員か。


「あ、オレたちを助けてくれようとした人!」


「む、無事だったか、少年」


 ザオウはブランに笑いかける。怖いぞ。


「さあて……」


「……易々と逃げられるとでも思っているのか?」


 ざっ……と音を立て、こめかみに青筋を浮かべた頭目が茂みの陰から現れた。さきほどの2人を従えている。

 俺の開けた穴から追ってきたのだ。


「奴隷たちと盗んだものを差し出せ。それは我が祖国の再興に必要なものだ」


「祖国?」


 ただの盗賊ではないのか?


「グランガルド帝国に滅ぼされた我が祖国、ガナテラ。私はそこの騎士団長だった」


 ガナテラ……俺の出身ラウジェス王国からはここアバンドンドを挟んで西にあった小国だ。

 5年くらい前に帝国に併合されたと聞いているが……


「なるほど、奴隷制が盛んな国だったな。滅びて当然だ。それで盗賊に身をやつして反抗の準備をしていたと?」


「ハニワごときが私の忠誠心を語るな。とにかく私のものを返してもらおう」


「……何を言ってるんだ。数はこっちが上だぞ。お前は誘い出されたんだよ」


「なんだと?」


 単細胞にもそのまま追ってきてくれたらしい。

 応援はなし、3人のみ。

 これで姿をあらわすとは──実力に自信があるか、ただのバカだ。


「かたじけない、アルフィン様。私の意を汲んでくださって感謝します」


 ザオウが頭目の前に進み出る。

 他のウェアウルフたちも戦闘態勢だ。


 頭目を誘い出したのはザオウの頼みだ。

 卑劣な手で捕まり、その雪辱を晴らすべく一騎討ちを願ったのだ。


「は、ザオウ。また痛い目にあいたいのか?」


「人質を取ったくせに、よく言う」


「低俗なケダモノごときに正々堂々戦うなど愚かなことはせん。まともにやれば私に勝てるとでも?」


「やれば、分かる。お前たちは手を出すな」


 ザオウは他のウェアウルフたちにそう告げる。

 頷いた部下たちを確認し、さらに一歩進み、構える。


「俺はバルモルド族、戦士長ザオウ。殺された妻と部下たちに貴様の心臓を捧げよう」


「ガナテラ王国第2騎士団長、ゴルディオ。獣に名乗る名などない」


 爪を伸ばしたザオウと剣を抜いたゴルディオが対峙し、緊張が張り詰める。

 そのあいだの空間が歪むように見えるほどの闘気のぶつかり合い。


「名乗ってるよね……」

「名乗ったね……」


 ブランとコレットがツッコミを入れる。

 空気読め、お前ら。


「ガァァッ!」


 先に動いたのはザオウ。


 足元の土が弾け飛び、目にも留まらぬ速さでゴルディオに爪を突き出す。

 余裕を見せていたゴルディオの顔が一瞬で蒼くなった。


「なっ……ぐっ……!」


 次々と繰り出される爪撃を剣でなんとか凌ぐが、捌き切れない攻撃がゴルディオの全身を刻んでいく。


「き、貴様──!?」


「俺の本気を見るのは初めてだったか? 貴様は口ほどにもないようだ」


 ザオウの熾烈な攻撃に圧倒されたゴルディオは必死で爪を打ち払いながら配下に目配せする。


「……おい!」


「はっ。『霜なるくびき、荒ぶる獣をやくせ』!」


 取り巻きの1人が呪文を詠唱した。

 こいつは魔術師か。氷によって動きを封じる『凍縛(フロスト・バインド)』。

 だが、何も起こらず、狼狽する。


「……な!? なぜ……!?」


「はい、邪魔しないように」


 俺から伸びた『呪線(ライン)』がその男の足に絡みついている。


呪線(ライン)妨害(ジャミング)』。

 ザオウの枷に仕込まれていた『乱魔』の魔法を解析してカスタマイズに使ってみた。


 魔法発動時の魔力操作を乱し、妨害する。魔力操作が完璧ならこの程度の妨害では無意味だろうが、修行が足りんな。


 詠唱魔術など今の俺にとってはあくびが出るほどに遅いのだ。

 呪文詠唱を始めてからでも邪魔できる。


「……一騎討ちに横槍を入れさせようなど、見下げ果てた男よ」


「だ、黙れ! わたしは祖国のために、ここで死ぬわけにはいかぬ!」


「言い訳無用。騎士ならば潔く散れ」


「ま、待て……!」


 もはや戦意を喪失したゴルディオの首目掛け、ザオウの爪が一閃する。

 血が吹き上がり、絶望に目を見開いたゴルディオの体はゆっくりと倒れ伏した。



「終わったな」


「……アルフィン様。助太刀、感謝いたします。このようなゲスに……妻は……仲間たちは……」


 敵の鮮血に染まった人狼は天を仰ぐ。

 夜は明け、陽が昇り始めている。朝焼けのグラデーション。


「……少しだけ、騒がしくしてもよろしいですか?」


「ああ」


 ザオウは雄叫びを上げる。


 復讐を果たし、万感を込めた遠吠えは、朝焼けに染まる『見捨てられし地(アバンドンド)』に響き渡った。


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