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17話 怪盗ハニワ

 


「一体なにを取られたっていうんだ?」


「……ジナの母ちゃんの形見のペンダントだよ。牙をペンダントにしたやつ」


 ふむ、自分のためじゃないのか。

 だが。


「ダメだな。諦めろ」


「なんでだよ。アンタには迷惑かけないよ」


「いや、普通に迷惑だ。なんのために助けに来たと思ってるんだ。命が最優先だろ」


「オレが自分の命をどう使おうが関係ないだろ!」


「俺にはな。だが、コレットはどうなる? お前を救おうとして無策でビーストイーターに挑むやつだぞ」


 それを聞いてブランの犬耳がピクンと動く。


「……ビーストイーターに!? そんなの無謀だ!」


「お前に何かあったら、勘違いでそんな無茶なことをする姉ちゃんとこの妹だけでやっていけるか?」


「…………」


 ブランはしばらく考え込んだ後、渋々同意した。


「……分かったよ。でもいずれ取り返す」


「そうしろ。じゃあさっさと穴に入れ。グズグズしてる余裕はないぞ。コレットが陽動してくれてるんだからな」


「オレから? アンタは?」


「俺はしんがりだ。ちゃんとジナの手を引っ張っていけよ。穴から出たら正面に見える一番大きな木のところに行け」


「へーい」


 2人が穴に潜っていく。


 ……よし、ちゃんと行ったな。


 俺は『領域(テリトリー)』でアジトの様子を窺っている。

 アジトに残ってるのは──蜘蛛に捕まっていた男を入れて6人か。


 盗賊団ならさぞかしたんまりと貯め込んでいるだろう。

 そいつを頂きに行こう。




 ──────




 見覚えのある反応の方に向かって集落地下に掘られた洞窟を進む。


 地下道はどうやら集落全域に渡って張り巡らされているらしい。外で『探査(サーチ)』したより敵の人数も多そうだ。


 幾度か敵とすれ違うが、空き部屋や物陰で問題なくやり過ごしていく。


 体の小さい俺1人なら隠密行動は難しくない。暗い洞窟内で土色のハニワが動いていても分からんだろう。

 対してこっちは暗闇でも地形や敵の位置は分かる。



 ……いたぞ。ヤツだ。


 洞窟の一番奥の部屋には2人の男がいた。

 1人はさっきのおっさん。

 そして──なかなか強そうなおっさんだ。鎧はボロっちいが顔や腕に見える傷痕は歴戦の猛者を思わせる。

 おそらくこいつが頭目だろう。


「喋るハニワだと? なにを言っている。蜘蛛に脳みそを喰われたんじゃないのか?」


「いえ、お頭、マジなんですよ。魔法まで使いやがります。新種の魔物じゃねえかと……」


 ……ちょうど俺の噂をしてたらしい。

 枝を踏んだりクシャミをしたりして見つかるのが定番だよな……よし、大丈夫だ。


「だからどうしろってんだ? わざわざ出向いて殺せってのか? 宝箱を抱えてるわけでもねえだろう。お前が拷問された復讐ってなら1人でやれ。話はここまでだ」


「奴は危険なんすよ!」


「……私を怒らせる気か? それより敵襲があったそうだからお前も迎撃してこい。奴隷どもの反乱もな。原因も探っておけ」


 頭目に凄まれた男は言葉を失い、スゴスゴと退室していく。哀れな。

 だがこれからもっと哀れなことになる。ククク。



 男は自室まで戻ってくると酒瓶をひったくるようにして煽った。


「……ちっ! あの野郎、お頭になってからますますデカイ顔しやがって! 迎撃だと? こちとら命からがら帰ってきたばっかだぞ……!」


「荒れてるな。分かるぞ、話を聞かない上司を持つ辛さは……」


「ああ、そうなんだよ……前のお頭ならちゃんと話を聞いてくれたのに……」


「で、そのハニワはどんなヤツだった?」


「ああ、なんか全身つるんとしてて目と口だけ穴が空いてるお前みたいな……ってお前ぇぇぇ!?」


 はい、そのハニワです。


 とりあえず『呪線(ライン)』でぐるぐる巻きにしておく。「またかよぉぉぉぉ!」とか叫んでいるが聞こえん。


「分かってると思うが、助けを呼べばアレだぞ、酷いことになるぞ。よくも騙してくれたな」


「ななな、なんでここが!?」


「ハニワにはいろいろあるのさ。とにかく、蜘蛛から助けてやったのに騙してくれた詫びをしてもらわんといかんよな?」


「……なにが望みだ」


「モノだ。モノでいいぞ。捕まえた子どもたちから盗ったものを返してもらおう。あと金目のモノ」


「だ、誰が教えるか! それに、倉庫の鍵はお頭しか持ってないぞ」


「いいから教えろ。いいか、倉庫からお宝を頂いたらお前にも分けてやる」


「……ほ、本当か?」


「お前が素直ならな。どうせロクに分け前ももらってないだろう? そのお宝を持ってとんずらするなり新しいお頭になるなりお前の自由だ。俺ならお頭にも痛い目を見せてやれる。どうだ?」


「……分かった。倉庫はこの部屋から出て左へまっすぐ、突き当たりを……」


 ふむふむ。

探査(サーチ)』のマップで確認する──よし、今度は本当らしい。


「分かった。ありがとな」


「分け前を忘れんなよ! ……いや待て、ほどいていけ!」


 嘘だよバーカ。人攫いと手を組むわけないだろうが。

 まあ縛られた状態で報酬か拷問の2択で意地を張れるわけもないか。


 縛ったままにしてあるが、この魔法は俺から離れるとあまり持続しない。急がないと。



 教えられた場所に行ってみると、厚めの鉄の扉があった。

 これが倉庫か。確かに扉と一体化している頑丈そうな錠がある。

 ……だが、俺にはあまり関係ない。


「『掘削(ディグ)』」


 押し固められている壁でも、土でできた洞窟である以上、この魔法で穴を開けられる。

 扉の横に穴を開けて倉庫にスルリと忍び込んだ。


 倉庫は光り輝くお宝で溢れかえっていた──ということもなく、ガラガラで隅っこにちょこんと荷物が置かれている程度だった。宝箱らしきものもない。


 いささか落胆しつつ、漁ってみる──と、目当てのものはすぐに見つかった。

 革紐に通された牙のペンダント。形見ってことは……ジナの母親の牙なのだろうか。それにしてはデカい。

 あまり価値がありそうもないので適当に置かれていたのだろう。


 さて、一応の目的は果たしたことだし──

 ケケケ、略奪ターイム。


 ……とはいえ、ハニワの体ではたいして持ち出せない。

 小さくて価値のあるもの──宝石や、小型の魔道具ということになるか。


解析(アナライズ)』を使ってからお宝に触れていく。

 発動した状態で触れれば『Code-X(コーデックス)』が自動的に解析結果を目の前に表示してくれる。


 以前は一つ一つ何日もかけてじっくりと調べなければならなかったからだいぶ楽チンだな。魔道具鑑定士として生きていけるかもしれん。


 気になるものは3つほどあった。


 まず1つめは映像を記憶して投影できる魔法道具だ。デジタルビデオカメラみたいなものだな。


 再生した途端に嬌声が聞こえてきて慌てて止めた。エロ動画が入っているらしい。

 これは後で見るとして──じゃなくて、役に立ちそうだ。あまり大きくもないし、体に入れて持って帰ろう。


 もう1つは大型の盾だ。タワーシールドというやつか?

 強化系の魔法がかけられているようだが20キロ以上はあってとても持てない。粗大ゴミだな。


 だが、かけられている魔法は有用だ。解析結果を保存しておく。無属性のようなので後でこれをコード化すれば自分のものにできるだろう。


 最後の1つは真っ二つに割れている双四角錐。

 これは……ダンジョンコアと同じ物だ。


 野盗がどこかで拾ったのだろうか。

 ぞんざいに置かれていたところを見るとゴミ扱いなのだろうが、俺にとっては研究や実験に使えるだろう。

 あまり無茶なことは俺のコアには試せないし。これも持っていくことにする。


 さて、あとは……宝石や金貨がまばらにあるのでそこにあった小さな革袋に詰めて持っていこう。


 盗賊団のアジトにしちゃシケてやがるぜ──と言いながらも、冒険者だった頃の稼ぎの2年分くらいはあるので実はホクホク顔をしている。

 ……今の俺に使い道があるかは分からないが。



「くそ、穴を開けられてるぞ!」

「誰だ! そこにいるのか!?」


 外から男たちの声が聞こえた。


 あちゃー、みつかってしまったぞ。

 ……近づいてくるのは『探査(サーチ)』で分かってたけどね。

 部屋自体に侵入検知の類の魔法がかかっていたようだ。

 とにかく急いで物陰に隠れる。


「どこに隠れている! 出てこい!」


 穴から入ってきて松明を掲げながら怒鳴り散らすのは先ほどの頭目と他に2人。いずれも屈強な戦闘要員のようだ。


「お頭、この部屋に隠れる場所なんてありやせんぜ」


「一本道ですれ違わなかったのだからまだここにいるはずだ。探せ」


 人間には無理だが、ハニワには十分だ。暗いし。

 物陰をコソコソと移動し、中に入ってきた奴らの後ろに回り込む。


「こっちだよ、アホウども」


「あぁ!? ……な、なんだお前は!?」


「さっきの男から聞いただろ? 俺がそのハニワだよ」


「捕まえ……!」


 相手が身構えるより早く放った魔力球の散弾が男たちを薙ぎ倒した。

 不意を突かれてすっ転んだ相手にさらに畳み掛ける。


「『呪線(ライン)投網(ウェブ)』」


 魔法の糸で編んだ投網を投げつける。

 ボス蜘蛛から抽出した魔法だが、この糸には粘着力はない。あれはスキルで付与していた性質なので俺には扱えないのだ。

 とはいえ、まとめて引っ掛けてしまえば足止めには充分だ。


「魔法だと!?」

「ああくそっ、なんだこりゃ!」


 網に引っかかりながらも頭目がこちらに突進してくるが、俺はヒラリと華麗にかわして顔面にハニワパンチを叩き込む。


「ぐわっ!」


 頭目はパンチを受けて吹っ飛んだ。

 ……パンチ自体に威力はないが、網に引っ張られてずっこけたのだな。


「はっはっは、お宝は頂いていく。さらだばー」


 どこぞの怪盗のような台詞を吐きながら、敵が群がってくる前にスタコラと逃げ出す。

 魔力残量は10%を切っている。これ以上は厳しい。


「待て、貴様!」


 頭目の怒声を背中に聞きながら部屋を後にした。

 これで種は蒔けたかな。


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