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16話 犬少年と猫少女

 


「『掘削(ディグ)』」


 魔法を放つとボコォォと土に穴が掘られていく。

 これでラスト、子どもたちがいる牢まで開通したはずだ。


 どうやら土は謎の異空間に飛ばされるわけではなく周囲にどかされて圧縮されるらしい。掘ってきた穴の壁は固められている。

 おっと、そんなことより早くご対面といこう。


 開通した穴から顔を出すと、いきなり少年の怒声が聞こえてきた。


「くそっ! 正々堂々戦え!」


 やはり檻だ、鉄格子がある。

 俺が出てきたのは鉄格子の中だ。


 鉄格子の向こうでは12〜3歳の少年と男が遊んでいる──いや、戦っているらしい。


「なに言ってんだ、ちゃんとやったらすぐ終わっちまうだろうが。ホレ」


 のらりくらりと少年の突進を躱していた男は手に持っている棒で丸腰の少年を打ち据える。

 いたぶって遊んでいるのだ。


 少年は全身痣だらけだが、それ以上に気になるのは頭だ。

 頭から犬耳が飛び出している。獣人族。

 ザオウが救おうとしたのも、種族的に近いからだろうか。


「あなた……なに?」


 横から声をかけられて振り向く。


 格闘している少年に気を取られていたが、すぐ横でこちらを見つめる者がいた。

 こちらは猫耳の小さな女の子だ。人族で言えば8歳くらいか。


 俺に気づいているが、驚くでも騒ぐでもなくただ見つめているだけだ。

 別に憔悴しきっている、というわけでもなさそうだ。ただ気怠げな様子である。


「あー……俺はアルフィン。助けにきたんだが、君がジナか?」


 こくん、と頷く。

 やはりそうなのか。……なんかリアクションが薄くて不安になるな。


「そうだ。コレットからこれを預かってる。君の薬だそうだが、分かるか?」


 小瓶を見せると再び頷き、受け取って飲み干した。


「……信用してくれるか?」


 ジナは再び頷く。

 ……警戒心がなくてこっちは楽だが、誘拐するのも楽そうだ。


 さて……どうしようか、この状況。


 檻は部屋の中にある。

 部屋は暗いので奥から出てきた俺はまだ気づかれていない。

 弟は1人檻から出されて痛めつけられている。

 敵は3人──ブランを痛めつけている男と、それを肴にしてテーブルで酒を飲んでいる男が2人。


 ジナを先に逃がせばブランの救出が難しくなる。ブランを檻に戻させるのが先決だな。

 そのためにはやはり陽動が必要だ。外から伸ばしてきた『呪線(ライン)』を消して合図する。


 まずコレットの方、数分おいてザオウだ。

 外と中で同時に混乱を起こす。


「ジナ、今からブランが戻ってくるはずだから──そしたらこの穴から一緒に逃げてくれ。いいか?」


 痛めつけられている兄を見ながら気怠げに頷くジナ。

 大丈夫だろうか。病気と関係あるのか?


 何度も立ち上がり敵に打ちかかっては返り討ちにあうブラン。それを見て笑う悪党たち。

 ……今助けるわけにはいかない。まだか、コレット。


「……そんなヘナチョコな攻撃じゃ、オレは負けないぞ」


「ハハハ、言われてんぞヘナチョコ」


「ヘナチョコだと? 商品をダメにするわけにゃいかねえからって手加減してやってんだよ。……ちょっと本気で痛めつけて……」


 男の目つきが変わり、本気になる。

 ちっ、助けるしかないか……俺が動きかけると。


「おい、敵襲だ! 見張りが攻撃された! 全員集合!」


 部屋の外で警鐘が鳴り、アジト中に叫び声が響き渡る。

 むろん、コレットだろう。


「クソ、奴隷どもが暴れ出した! なんでザオウの枷が外れてるんだ!?」

「遊びは終わりだ。そいつを閉じ込めとけ!」


 よし、ザオウも行動を開始したか。

 目論見通りブランを檻に入れて迎撃に向かうようだな……


 男たちは席を立ち、部屋を出ていった。

 いたぶっていた男がブランを捕まえようと手を伸ばす。


「ちっ。オラ、さっさと檻に入れよ……あっ?」


 突然ブランの姿が消えた──いや、しゃがむように体を深く沈めた。


 それまでのフラフラな動きから打って変わって、鋭く踏み込んで男の腰から短剣を引き抜くと滑らかな動作で切り上げる。

 男の喉元がパックリと口を開け、鮮血が飛沫を上げた。


 ……はい?


「……あー、ようやくチャンスが来たぜ。まったく、散々痛めつけやがって」


 ブランはブチブチと言いながら倒れた男の懐をまさぐる。


 ……なるほど、三味線をひいて油断させつつ機会を窺っていたということか。


 言うのは簡単だが、あれだけ痛めつけられながら完遂するためには相当な忍耐力が必要だ。鋭い身のこなしと演技力も子どものものとは思えないな。


「鍵、鍵……この檻のはこれか。逃げるぞ、ジナ」


「はーい……」


 ジナは気のないような返事を返すがブランは気にした素振りもない。

 檻の鍵を開けたブランは穴から顔を出しているハニワと目が合った。


「あれ? なんだそれ?」


「助けに来たハニワだ」


「……喋った!?」


 うん、それが正常な反応だよな。





 ──────





 かくかくしかじかと説明した。

 ジナは説明してくれないようなので同じことを2度言う羽目になってしまった。


「薬を……じゃあ、あいつらの言ってた敵襲っていうのは、コレット姉ちゃん?」


「そういうことだ」


「助けに来てくれたんだ……まあ、オレ1人でも余裕だったけどね!」


 そう強がるブラン少年だが、やはりダメージはあるようで膝が震えている。


「そうかもな。さっきの判断力と忍耐力には感服したよ」


「……ハニワに褒められるのも変な感じだけど、ありがとう」


 複雑そうな表情を浮かべるブラン。

 このハニワの人物眼には定評があるんだぞ。


「とにかく急いで逃げるぞ。俺の通ってきた穴を通れるはずだ」


「あ、じゃあジナを連れて先に行ってよ。オレは用事があるんだ」


「……用事?」


 嫌な予感がして思わず聞き返す俺にブランは決意の眼差しを向ける。


「あいつらに取られたものを取り返さないと」


 スルーすればよかった。



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