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15話 おお、神よ──狼よ

 


 地下牢の場所にアタリをつけて掘り進むと空洞に出た。

 土肌剥き出しの洞穴のようだ。


 ジャラリ。


 突然背後で金属音が鳴り、ビックリして振り返る。

 穴掘りに集中するため『領域(テリトリー)』を解除してたのだった。


「……何者だ」


 壁際にいるなにかが力のない言葉で呻くように言う。


 音を立てたのは鎖だ。

 まばらにある松明の明かりでは微かにしか見えないが、人間の形をしている。

 手枷と足枷をつけられ、鎖で壁に繋がれている。


「ブラン──じゃないよな」


「……奴らではないのか。俺はザオウ。お前は何者だ」


「見ての通り……」ハニワだ──と答えようとしたが、ザオウと名乗る男の頭部を見てやめた。


 麻袋のようなものを被せられている。

 全身から血が滴っており、拷問を受けていたような様子だ。


「俺はアルフィンだ。エルフの子どもを探している」


「……ここにはエルフの子どもなどおらんぞ。獣人の子どもなら昨日運ばれてきたが」


「ぬ、いないのか?」


 クソ、唯一の手がかりが不発か。

 ……いや待て、獣人の子どもだって?


「その獣人の子どもは2人か? 男の子と、女の子?」


「そうだ。よく分かったな」


 ……そういや、種族なんて聞いてなかった。

 コレットの弟妹というからてっきり……そういうことは先に言っとけよなあぁぁ。


「で、アンタはここでなにを?」


「……ハッ、好きでいるように見えるのか? 俺は前からここの奴隷だったが、昨日その子どもたちが運ばれてきた時に暴れて……取り押さえられてこのザマだ」


「助けようとしたのか?」


「我慢の限界が来ただけのことよ。生き恥を晒す、な」


 ククク、と自嘲気味に笑うザオウ。

 ……なかなかカッコイイじゃないか。こいつは助けるべきだ。


 だが、ザオウに掛けられている枷──おかしい。鍵穴がない。


「その枷はどうやって外す?」


「俺を助けようというのか? やめておけ……この枷には魔法がかかっている。下手に外そうとすれば爆発するぞ」


「なるほど、好都合だ」


 魔法なら物理的な鍵より対処が容易い。


呪線(ライン)』を非物理モードで伸ばし、枷に差し込む。ハッキングだ。


 詠唱魔術の非詠唱版、文字魔術だ。だが解析は可能だ。ロックしているコードを特定して……強制的に書き換える。


 『施錠』と『乱魔』、それから『爆発』を組み合わせているのだな。

 ……危ないので爆発コードはコメントアウトしておこう。


 この世界の魔法はセキュリティが甘い。書き換えという概念がないようだ。

 高位魔術師なら考慮しているのかもしれないが……


「よし、解けた」


 ザオウが枷から解放され、支えを失ってその場に膝から崩れ落ちた。


「な……魔法の枷をいとも簡単に解いただと? 貴様は一体……!?」


 ザオウは自由になった毛深い手で麻袋を乱暴に剥ぎ取った。

 袋の下から現れた顔を見て俺は一瞬引いてしまった。


 狼男(ウェアウルフ)である。


 驚いてる俺と同じく、ザオウも目を丸くしている。

 そりゃそうか、ハニワに助けられたのだ。


 ……と思ったが、ザオウは目を丸くしたままブルブルと震え出した。


「……なんだ? 大丈夫か?」


 うつむいてなお震えが大きくなり続けるザオウをおっかなびっくり覗き込みつつ問う。

 すると突然ガバッと起き上がり、噛み付かんばかりの勢いで俺を掴んだ。


 やべえ、喰われる。俺を喰っても粘土の味しかしないぞ──


「──神よ!!」


 …………はい?


 狼男ザオウはハッとした顔をして慌てて離れ、平伏した。


「おお、神よ──見えなかったとはいえ、無礼のほどご容赦ください」


「待て、神じゃないぞ」


 俺も気が動転して見ればわかるようなことを口走ってしまう。

 だが、ザオウはキッパリと断言する。


「いや、あなたが神だ」


「……そのココロは?」


「私の母が後生大事に持っていた神像──それがまさにあなたの姿そのものだったのです」


 ……それはどこにでもあるただのハニワだ。


「母は常に申していました……『あなたに最大の危機が訪れる時、必ず神が助けに来てくださる』……その通りのことが起こったのです。これを信じずして、なにを信じればよいと言うのでしょうか!?」


 うーん、どうしよう……まあ、いいか。面倒だし。


「神と呼ぶのはやめろ。アルフィンだ。それはそれとして、子どもたちはどこに?」


「はっ、あの扉の向こうの部屋だと思いますが……間に通路があり、音も聞こえてはきません」


「あれか……」


 分厚い扉があるな。

 こいつを開けるのはしんどそうだが……まあ壁が土なので『掘削(ディグ)』すればいいや。


「神──アルフィン様。子どもたちを救いに来られたのですね。私もお手伝いさせて頂いてよろしいでしょうか?」


「ああ、もちろん。だが、こっちは1人で充分だ。お前の仲間の奴隷たちがいるだろう。そっちを解放してくれないか?」


「願ってもない……感謝します、アルフィン様」


 その方が陽動にもなる。

 外にいるコレットと合わせて、3か所で同時に混乱を起こして成功率を上げるのだ。


「1人で平気か?」


 と言いながら解析解析っと。


 ===================

 ザオウ・バルモルド

 種族 ウェアウルフ

 レベル 42

 DMP 4876

 HP 380 / 678

 MP 125 / 125

 スキル:

 魔法適性(獣4地2) 獣化 高速再生

 敏捷 豪力 森林適応

 魔法:

 強化 魔爪 咆哮

 ===================


 ……つえーじゃん。


 俺の問いかけに、ザオウはニヤリと牙をむき出しにして腕を掲げる。

 すると、元々毛深かった腕がワサワサと長い毛に覆われ、手の甲から鋭い爪が伸びた。


「私の力を抑えていた枷は解けました。奴らに思い知らせてやりましょう。ウェアウルフの本当の恐ろしさを」


 ……問題なさそうだ。


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