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11話 ウェブエンジニア vs ウェブスピッター

 


 ボスのお出ましのようだ。

 ダンジョンの端に現れた巨大な生体反応はまっすぐこちらに向かってきている。


 おそらくアイツだ。3メートル級の巨大蜘蛛。

 自分の群れを半分以上も失ったせいか怒り心頭のようで、周囲に先ほどまでの小さいやつをわんさかと従えて驀進している。数分ほどでここに到着しそうだ。


「手間が省けたな」


 敵の巣に踏み込むよりは勝算が高いだろう。


 だが、広いとはいえこのコアルームで大立ち回りするのは避けたい。巻き添えで破壊されてもかなわん。

 かと言って狭い通路で相手をしても逃げ場がなくて轢き潰される恐れがある。俺は脆いのだ。


 仕方ない。DMPを消費してコアルームの地下を掘削、コアをそのまま階下に移動することにしよう。

 敵に侵入されているあいだは操作できないのだが、今なら……あれっ。できない。


「どうしました?」


 コアと通信してアレコレと動いている俺にコレットが不思議そうな顔で尋ねた。

 そうか、この娘は部外者扱いなのか。そりゃそうだ。


「コレット、コアと通信してゲストユーザーとして登録……はできないよな。俺がやるから、ちょっと手を出してくれ」


「こ、こうですか?」


 差し出された白い手を握る。というかハニワに指はないのでむしろ握られている。


 これで俺を経由してコレットとコアの通信を繋ぐことができる。

 コレットの魔力をコアに送ってユーザー登録を……お、おお?


「なんだこりゃ……とんでもない魔力だ」


 触れたことで分かったコレットの魔力は凄まじいものだった。

 ……ちょっと『解析(アナライズ)』してみよう。


 ===================

 コレット・フェアウインド

 種族 ハーフエルフ

 レベル 15

 DMP 31098

 HP 76 / 85

 MP 2175 / 2175

 スキル:

 魔法適性(火9水3光3) ??? 魔力回復大

 森林適応 暗視 敏捷 集中力 

 魔法:

 なし

 ===================


 うわあ……なんだこれ。

 これで魔法使わないのは宝の持ち腐れもいいところだ。


 俺と違ってコレットは魔法の才能である属性魔法適性がないわけではない。

 魔法を扱う(すべ)である魔術を身につけていないだけだ。才能オバケである。

 加えて俺の知識にない謎のスキルもあるようだ。


 潜在的なDMPは驚異の3万強。

 そういえば、忙しくて忘れてたがダンジョンの収支がプラスになってたな。

 あれはコレットがダンジョンにいるからか。


 もしもコレットがダンジョン内で……


「なんか悪いこと考えてます?」


 ……いや、考えてない。


 驚いたがそれは後回しだ。

 取り急ぎボス蜘蛛に対処するためにコレットをゲストユーザー登録して地下にコアを移動させる。


 ……というところで時間切れだ。

 しまった、トラップを追加する余裕がなかった。


「ハニワさん、あれを!」


 破壊された扉から覗き込んでいるのは光る8つの目だ。

 大蜘蛛『ビーストイーター』。

 長い脚を部屋に差し込み、その巨体を部屋に押し込もうとしている。


 バカめ。


「『呪球(オーブ)破裂(バースト)』!」


 半分ほど部屋に押し込まれたところで、顔面に向けて俺の最大火力──炸裂魔力球5連撃をぶち込んだ。


「コレット! タスカリアス!」


「はい!」


 俺の指示を受けてコレットが矢を3連射、タスカリアスが助走をつけて突撃する。

 魔力球の炸裂で上がった土煙の中から、どぉんと鈍い音が聞こえてきた。


 やったか!?


 ……とは言わなかったはずだが、タスカリアスが吹き飛ばされてきた。


 煙が収まってくるとすっかり部屋に入ったビーストイーターがいる。

 鋏角が欠け、頭部を歪ませている。ゴーレムパンチは効いてはいたらしい。


 蜘蛛の表情など分かるはずもないが、鋏角を忙しなく動かしているところを見ると──よほど怒ったのだろうか。

 そう思った次の瞬間。


「おわ!」

「きゃあっ!」


 口から白い物が勢いよく飛び出して眼前に広がる。


「口から糸!?」


 網状の糸。

 嫌な予感がしたので避けて正解だった。


 振り返ると、コレットはそもそも外れていたが吹っ飛ばされて倒れ込んでいたタスカリアスは直撃を食らって地面に貼り付けられていた。


 蜘蛛ってケツから糸を出すもんじゃねえのかよ。

 これだから異世界は……


 起き上がろうともがくタスカリアスだが、粘つく糸を引き剥がそうと手こずってる隙にもう1発投網を浴びて完全に沈黙してしまった。


「おおっと!」


 振り下ろされる前脚を間一髪で躱す。

 タスカリアスの攻撃が効いているのか、動きが鈍いようでなんとか避けられる──が、足が短く敏捷でもない俺は距離を取るのが難しい。

 退避より反撃するしかない。


「『呪球(オーブ)破裂(バースト)』!」


 すっかり俺の主砲となった炸裂魔力球を横合いから叩きつける。

 が、蜘蛛は意に介さず再び前脚を振るう。硬い。


 最大火力が通じない。

 くそっ、弱点はないか──

 攻撃をかいくぐって敵に触れる。『解析(アナライズ)』!


 ===================

 ブラードヴェラネア

 種族 アルファ・ウェブスピッター

 レベル 37

 DMP 9840

 HP 745 / 1298

 MP 724 / 806

 スキル:

 不滅 魔法適性(地4) 粘性付与 硬質化

 高速再生 千里眼 魔力視 眷属支配

 魔法:

 呪糸

 ===================


 ……弱点は分からないか。

 まあそういう魔法じゃないしな。


 こいつは噂に聞くアルファ・クリーチャー──ゲーム的に言うとユニークモンスターというやつだ。


 潜在魔力はコレットほどじゃないが能力はかなりのものだ。

 アーカイブの情報によると神代において創造された魔物種族の長たる個体のことらしい。予想より遥かにヤバい相手だった。

 ……伝説級の魔物がなんでこんなところにいるんだよ。


 おそらく『不滅』なるスキルがそうなのだが、死ぬと自らの眷属のうちの1つに乗り移るため滅びることがないとのことだ。


 古代魔術を体に組み込まれており、限定された魔法だけだが人間が扱う場合と違って本能的に発動できる。


 それが何を示すかというと……こいつが吐き出す糸、これはおそらく体内の魔法により生み出されており、豊富にある魔力が続く限り弾切れがないということだ。


 ない舌を打ちたい気分になりつつ、懐に潜られて俺を見失った敵の死角から複数の魔力球を生み出す。

 脆い場所──狙いは目玉だ。


「へい、こっちだぜ」


 振り向いた瞬間、至近距離からの集中砲火により8つの目玉のうちの1つをぶっ潰した。ボス蜘蛛は耳障りな鳴き声を上げて仰け反る。

 そこにコレットの矢が届き、さらにもう1つの目玉を射抜いた。ナイスだ。


「ギシャアアアア!」


 苦痛の咆哮を上げて後ずさった蜘蛛から改めて距離を取る。

 脆いところなら一応攻撃は通じないでもない……が、決定打にはなりそうもない。


 しかし、唯一パワーで対抗できそうなタスカリアスが脱落したのは痛いな……

 トラップはまだ1個残っているが囮になって誘導するのは厳しい。そもそも通用するだろうか。


「ハニワさん、後ろ!」


 げっ、通気口から小蜘蛛たちが入り込んでいる。

 見ると扉の方からもだ。

 やつらは俺とコレットに向けて口を開く──


「避けろ!」


 一斉に放たれた糸の隙間を縫うようになんとか避ける。

 飛び道具でボスを援護しようというのか。


 こちらが必死で避けている間に態勢を立て直したボスは一瞬縮こまると──爆発するようになにかが飛び散った。

 一瞬自爆したのかと思ったが、全身から糸を四方に放ったようだ。


「マジかよ……」


 口どころか全身から出せるのか……

 魔法で作った糸だからか。


 直撃はしなかったものの部屋中ネバネバの糸だらけだ。

 せっかく敵の方から出向いてきてくれたのに、あの巣とさほど変わらない状態になってしまった。


 まずいな。足の踏み場もないほどだ。

 機動力を殺された──回避すらさせないつもりか。


「ハ、ハニワさん……」


 む、俺の後ろの白い山が喋っている。

 ……そんなわけはないか。


「食らってしまいました……」


 まともに投網を受けたコレットはさらに小蜘蛛たちの集中砲火を受けて埋もれてしまったらしい。


 ……これは無理だな。

 よし、逃げるか。


※口から糸を吐くヤマシログモという種類は実在します

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