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10話 第一次ダンジョンコア防衛戦

 


「考えてみれば好都合だ。ここならダンジョンの防衛機能が使える。飛んで火に入る夏の虫だ」


 洞窟を支配下に置くためにはまた大蜘蛛の巣に攻め込まなければならない。ついでにコレットの弟たちを助けてもいい。

 ここで敵の数を減らせればそれが楽になるだろう。敵のテリトリーでこれだけの数に囲まれるのに比べればいくらかマシだ。


 それに……本来の目的であるDMPについてもだ。

 ダンジョン外で俺が魔力抽出するのと比べて、ダンジョン内で敵を倒せば死体の絞りカスまでおいしく頂けるので損失がないのだ。



 戦闘準備開始。状況確認からだ。


 まだ敵はこの部屋には侵入できていない。

 周囲を取り囲んで侵入経路を探っているようだが、おそらく通気口を通って入ってくるだろう。

 入り口は3ヶ所。


 こちらの戦力は……まず病み上がりのハニワプログラマー。そして弓使いのハーフエルフと部屋の隅で体育座りさせてるストーンゴーレム。


「タスカリアス、出番だ」


 立ち上がるストーンゴーレムに驚いてコレットが飛び上がった。縮こまってたから気づいてなかったらしい。薄暗いしな。


 そういえばタスカリアスの強さを俺は知らない。

 見た目的には蜘蛛ごときに遅れをとるようには見えないが……敏捷性で劣っていればあまり戦力にはならないかもしれない。期待し過ぎないようにしよう。


 もう1人の方は……


「コレット。弓の腕は分かったが、魔術の方はどうなんだ? エルフの精霊魔術は」


 エルフは強力な精霊魔術が使える。

 人族に詠唱魔術が広まるまではその精霊魔術によってエルフが地上の支配者的な地位にいたらしい。


「……わたしは使えないんです。教えてもらえませんでした」


「ハーフだからか?」


 詠唱魔術を使えるようになった人族は数の強みを生かしてエルフに戦争を仕掛け、その地位から追い落としたという。


 その恨みもあってハーフエルフは彼らの中でも疎まれているとか。人族の間でも珍しさから奴隷にされるようなことも多く、どちらにも行き場がないらしい。


「それもありますが、人族の父から受け継いだ火属性の魔法適性が問題のようです。エルフは火を嫌いますから」


 なるほど……森に住むエルフにとって火は天敵か。

 エルフは種族的に火属性適性を持たないはずだが、ハーフだからその限りではないのだろう。

 そうするとコレットに魔法は期待できないな……



 ……さて、来たぞ。


 通気口の奥からチキチキと音が聴こえてくる。

 3方向同時にだ。同時攻撃を仕掛けるだけの頭はあるらしい。

 だがこちらも3人いる。手は足りるな。


「コレット。そこに立って……そうそう。で、あっちの穴から来るやつを仕留めてくれ。タスカリアスはそっちだ。討ち漏らして入られたら知らせてくれ。囲まれたら終わりだ」


Code-X(コーデックス)』のダンジョン・クライアント機能を立ち上げ、レーダー機能とコアの監視システムを連携させる。

領域(テリトリー)』を使わずともダンジョン内ならこれで全部監視できるので、処理能力を戦闘に注ぎ込める。


 ……あれ。

 起動したクライアント上のデータがヘンだ。

 DMP収支がおかしい。プラスになっている。

 1時間あたりマイナス3だったのが今はプラス1である。


 生物が通常発散する時間あたりの魔力は、倒して死骸を吸収した場合の0.01%程度。

 小蜘蛛は1匹あたり、個体差はあっても平均30弱で時間あたり0.003以下だ。大量の小蜘蛛に囲まれているからといってプラスになるほどとも思えない。


 戦闘中ならば魔力の発散が多くなるのでまだ分からないでもないが、今はまだダンジョン内で戦闘は起こっていない。


 つまり、収支がプラスになるほどの強大な魔力を発散している何者かがダンジョン内に侵入している可能性がある……


 ダンジョン全域のレーダーに目を走らせるがそれらしいものは見当たらない。

 くそっ、このタイミングで……

 放置するのは危険だが、詳しく調査している時間はない。

 まず目の前の敵に集中するしかないか。


「来るぞ!」


 蜘蛛が壁の下部にある穴から顔を出した瞬間、すかさず『呪球(オーブ)』を放った。


 破裂の衝撃波は通気口の細い通路に反響して後ろに詰まった蜘蛛もまとめて仕留める。

呪球(オーブ)』発動のクールダウンは3秒程度。連射とはいかないが、狭い場所で有効な俺の魔法ならば問題なく足止めできる。


 タスカリアスの方は、穴から出てきた蜘蛛をその都度拳で叩き潰している。まんまモグラ叩きだ。いや、両手で交互にやっているので太鼓だろうか。

 素早い蜘蛛はたまにすり抜けていこうとするがしっかりと足で踏み潰している。こやつ、使えるな。


「すみません、逃しました!」


 俺の反対側、コレットの方は……矢は百発百中ではあるのだが、いちいち矢をつがえなければならない都合上、どうしても仕留めきれないやつが出る。


 それは織り込み済みだ。

 余裕のある俺がたまに振り返って漏らしたやつを倒す。


 よし、問題ない。

 俺の魔力の補充(リロード)中は隙ができるのでタイミングを計る必要はあるが、この調子で行けばその余裕も作れそうだ──


 が、蜘蛛の湧きが突然ピタリと止まる。

 おかしいな。まだ半分くらいしかやってないはずだが。


「ハニワさん、攻撃がやみました!」


「こっちもだ。だが敵はまだいる。油断するな」


 レーダーを確認すると、通気口に詰まっていた蜘蛛たちはこちらの攻撃の届かない場所まで退却している。

 戦法を変える気か──と、もう1ヶ所、数匹が集まっている反応がある。

 正規の入り口、扉の方だ。


 まさか、蜘蛛が扉を開けるなんてことは──


 そう思った瞬間、扉が内側に吹き飛ばされる。

 扉からなだれ込んできたのは他より大きい1メートルくらいの蜘蛛だった。


 ……たしかに、3メートルの蜘蛛と30センチの蜘蛛がいれば中間がいてもおかしくないよな。

 扉を蹴破れる程度の強さがあるということだ。


 突入した中蜘蛛はまっしぐらに向かってくる。

 狙いは──コレットだ!


「ハニワさん!」


「通気口だ! 目を離すな!」


 扉が破られると同時、通気口からの侵入も再開された。

 囲まれれば終わりだ。


「でも……!」


「信じろ、そっちはなんとかする」


 戸惑っていたコレットだが、俺の言葉に意を決して通気口に集中する。


 扉から入ってきたのは──5匹。

 一斉にコレットに殺到する。

 コレットが通気口に矢を向けながらも身を竦ませる──と。


「ギィィァ!」


 汚らしい悲鳴を上げたのはコレット──ではもちろんなく、蜘蛛たちだ。


 中蜘蛛がコレットまで数メートルに迫ったところで頭上から岩のブロックが落下して奴らを踏み潰したのだ。


 ダンジョンのブロック作成機能で作っておいたトラップである。1個200DMP、虎の子の使い切りトラップだ。


 トラップを仕掛けられる場所は限られていたので、仕掛けた場所の奥にコレットを配置していたのだ。

 蜘蛛が優先して狙うのは無機物である俺やタスカリアスよりもコレットだろうからな。


 踏み潰され半分になりながらまだもがいている蜘蛛に『呪球(オーブ)』を撃ち込んで黙らせる。

 虫系ってしぶといんだよな。


「なんとかしたぞ」


「し、心臓に悪いです……!」


 コレットはささやかな胸を押さえながら冷や汗を流す。


 大丈夫、すり抜けられた時に備えてちゃんと他の備えも準備していたから。

 エンジニアとはトラブルに備えて二重三重にバックアッププランを用意しておくものだ。



 中蜘蛛が何もせずにダンジョンのエサになったのを見てか、小蜘蛛たちもそそくさと通気口から退いていった。


「今のが最後の攻撃だったか?」


「そのようですねー」


 大したことはなかったな。結局糸すら吐かれなかったし。

 もう2つくらい対策を用意してあったのだが……


 と、その時。

 レーダーに巨大な反応が現れた。


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