婚約破棄された公爵令嬢は脳筋冒険者に恋をした
久しぶりの投稿で至らぬ点もあると思いますが、寛大なお心で読んで頂けると幸いです!
ガタガタと容赦なく揺れる質素な馬車。
目の前には剣呑な光を宿した若い騎士が2人。
……どうしてこんな事になったのだろうか。
流れる景色を静かに眺めながら、数時間前までいた記念パーティに思いを馳せる。
まず最初に本来エスコートをする筈の王太子は現れないと言う有り得ない事が起こった。仕方なく1人で会場に向かった私には当然の如く好奇や嘲りの不躾な視線が向けられる。それに怖気づきそうになっても、背筋を伸ばし真っ直ぐ前を向いた。外ではどんな時でも堂々としていなければならなりませんよ、と仰った王妃様のお言葉に背きたくはなかったから。
私が厳しい王妃教育に挫けそうになった時、忙しい公務の間を使ってわざわざ私を励ましに来て下さった優しい御方。私も王妃様の様な優しくて強い人になりたくて、死に物狂いで努力をした。ダンスの練習で爪先に血が滲んだ事は1度や2度じゃないし、美しい姿勢を保てるよう何度も何度も繰り返し練習をした。少しでも多くの知識を得ようと途方も無い数の本を読んだりした。万が一の時の為に剣術や魔術も極めたし、公務にも積極的に取り組んだ。
「レティシア・オーロット!貴様の様な陰湿で傲慢な人間は王妃に相応しくない!私はお前との婚約を破棄し、ここにいるリリーと婚約する事を宣言するっ!」
その結果がこれだ。
「…………婚約の件は承りました。ですがその理由だけでも教えて頂けますか?あぁ、具体的にお願い致しますね」
「はっ!しらばっくれる気か!お前はリリーを権力を傘に酷い事をしたんだろう!」
王太子の言う"酷い事"に心当たりはまるで無い。それよりも王太子の語彙力のなさと人の話の聞かなさの方が酷いと思うのだけど。
「その酷い事とやらを詳しく話して頂けますか?」
「皆の前で自分の非道極まりない行為を話せなどと、お前は本当に愚かだな!これで逃げ場など無くなるわけだ!よし、リリー!この愚かで傲慢な女に話してやれ!!」
高らかに笑う王太子につい冷めた目を向けてしまったのは不可抗力だ。もしや、"酷い事をされた"と言う言葉だけを鵜呑みにしたのではなかろうか。ここまで来ると呆れを通り越して笑えてくる。次代の王がこんな愚か者ではこの国の未来はないだろう。
深く深く息を吐いて、扇子を音を立てて閉じる。
「いえ、もう結構ですわ。詳細は陛下や我が家を交えてお聞きします」
「そんな事させるわけがないだろう!お前は今をもって貴族では無くなるのだから!!」
「……レティシア様が早く謝って下さればこんな事にはならなかったのに。殿下に愛されなかったからって私に嫉妬して酷い事するからこうなるのよ」
品の欠片も無い笑みを浮かべ、勝ち誇った様に私を見下ろす令嬢に思わず笑ってしまった。
「何がおかしいの!?皆に嫌われたから気でも触れたわけ!?」
有利な立場にいるはずの令嬢が、キィキィと喚く姿は滑稽で滑稽で仕方がない。あぁ、おかしい。
「いいえ?私は正気ですわ。貴女があまりにも面白い事を仰るからつい笑ってしまったの」
「は、はぁ!?何言ってんの!?」
「先程貴女は、私が貴女に嫉妬したと仰っていたけれど、それはありえないわ」
「意味がわからない!婚約者を取られたのよ!?嫉妬しないわけがないじゃない!!」
あら。婚約者がいる男性に手を出していた自覚はあったのね。
「婚約は婚約でも政略結婚ですわ。王家と我が家が互いの利益を求めての婚約です。他の方々は分からないけれど、私と王太子の間に愛なんてものはありません。それに私は王妃様の様な御方になりたかっただけで、王妃になりたいだなんて思った事もありませんのよ。……王太子様も何か勘違いをなさっているようですから言わせて頂きますけど、貴方を愛した事なんて1度もありませんわ」
「王太子たる私を愛していないだとっ?無礼にも程がある!おい、この女を黒の森に捨ててこい!!」
その発言の後、屈強な身体を持つ騎士2人に馬車に押し込まれて今に至る。
悲しくはない。だって私は王太子を愛していなかったから。
怒りもない。だって彼が愚かな事はもうずっと前から知っていたから。
後悔も無い。だって両親の駒になりたくはなかったから。
……強いて言うなら今まで良くしてくれた王妃様や陛下に多少申し訳なさを感じる位だった。血の繋がってない人達の方が私を気にかけてくれていたなんて、一体どんな皮肉だろう。
「降りろ」
いつの間にか目的地に着いていたらしい。腕を強引に捕まれ扉の前に立たされた。そしてドアが開かれた途端、馬車から突き落とされる。……これは降りろでは無くて落ちろの間違いではないかしら。
「さっさとくたばれクズ女」
王国の誉ある騎士とは思えぬ発言に流石に笑ってしまう。次代は不安要素ばかりで大変ね。私にはもう関係ないけれど。
遠ざかっていく馬車に背を向け、森の中を歩いて行く。くたばれと言われてあっさりくたばる程、私はか弱くて何も出来ない女じゃないわ。例え魔物蔓延る黒の森でも簡単に死んでやるつもりはない。
「……はぁ」
そう意気込んだのは良いものの、流石に連戦は疲れた。森を歩く事10分程で狼の魔物の集団に囲まれ、撃破したと思ったら大きな熊の魔物との戦闘に突入。その後も場所を変えども変えども魔物に襲われ続けている。
「ここまでとは予想外だわ」
後ろから飛びかかってきた猿の魔物を氷の魔術で串刺しにして息を整える。魔術だって永遠に使える訳では無い。何の武器も持たないまま、魔力が空になればその時点で終わり。
「……まだ死ぬには早すぎるものね。何か武器になりそうな物はないかしら。……あら?丁度良いものがあるわね」
少し離れた場所に鈍く光る剣を見つけ、嬉しくなって駆け寄る。運がいいとその剣を手に取って辺りを見渡せば、そのすぐ隣にはボロボロになった布切れが散らばっていた。旅人か冒険者か。魔物の餌食になったであろうそれに黙祷して、近くに転がっていた鞄を拾う。中には僅かなお金とギルドカードと可愛らしい刺繍の施されたお守り、そして安物の指輪が入っていた。
依頼が終わったらプロポーズをするつもりだったのだろうか。内側に彫られた女性の名前と愛してるの文字に胸が痛む。
「……絶対に生きてギルドまで行かなければならなくなったわね」
傷だらけの剣はその人が必死に戦った証。その女性と共に生きる為に彼が戦いぬいた証だ。だからこそ指輪をギルドへ、そしてその人が愛した人へ届けなければ。よく分からない責任感に突き動かされ、止めていた足を動かした。
「はぁっ!」
襲ってくる魔物を片っ端から葬り去り、森の中を突き進む。黒の森の東には大きな街があり、そこにはかなりの規模のギルドがあったはず。
もう足はぼろぼろで身体の至る所に大小様々な傷が出来た。ドレスは予め裾を割いていたり、無茶な動きをしていたせいで酷い有様。魔力も殆どなくて、今魔物の集団に襲われたら逃げる事すら出来ないに違いない。情けない事この上ないが、一睡もせずに夜通し襲い来る魔物を相手にし、険しい森の中を歩き続けたのだ。普通の令嬢だったら最初に魔物に遭遇した時点で死んでいたのだから、私はよく持った方だろう。
「……お腹空いたわ」
最後に食べ物を口にしたのは昨日の昼。しかもこんなに動き回っていればお腹も空く。流石に水だけで動くのも限度があるわけで。重たい足を引き摺りながら、前へ前へと進み続ける。どうか、魔物と遭遇しませんように。
「うそでしょう……」
視界には40匹は超える数の狼の魔物が映り込む。せっかくここまで来たのに。魔物に、しかもよりにもよってこんなに数が多い集団に遭遇するなんて。
「……私、呪われているのかしら」
そんな馬鹿げた事を考えてしまう程、余裕が無い。ただでさえ疲労と睡眠不足で濁る思考を目の前にチラつく"死"が余計に濁らせる。これではダメだと深く息を吐いて心を落ち着かせた。
敵意剥き出しの魔物達がじりじりと私との距離を詰めてくる。魔力はあと1、2発魔術を使える分しかない。指輪の彼の剣はもう鈍器としてしか使えなくなってしまった。そんな私に勝ち目なんて万に1つもない。
飛びかかってきた1匹の魔物の横っ面を剣で殴り、その勢いで近付いてきたもう1匹の魔物を蹴り飛ばす。昏倒した2匹の上を軽々飛んで突っ込んできた魔物の顎は下から打ち抜いた。
「さぁ!かかって来なさい魔物!全員まとめて地獄に叩き落としてあげる!!」
それでも私は諦める訳にはいかないのだ。虚勢でもなんでもいい。最後まで堂々と、レティシアとしての誇りを持って戦ってみせるわ。
1匹、また1匹と倒してはいるが、如何せん数が多い。しかも私を弄ぶ様に数匹ずつしか攻撃して来ないのだ。まるで弱っていく獲物を見て楽しんでいる様な、そんな嘲りを含んだ目。
「……くっ、!」
魔物の爪が腕を切り裂く。もう身体の何処を見ても赤い色しか見えない状態だ。それが全部自分の血なのか、それとも魔物の血なのかは分からない。今はとにかく目の前の魔物を殺す事だけを考えなければ。
振り下ろした剣がまた1匹の魔物を昏倒させた所で、別の魔物に突進されて吹っ飛ぶ。その拍子に剣が遠くに転がってしまった。しかも身体が限界を迎えた様で、指すら満足に動かせない。
絶体絶命。まさにその言葉が相応しい状況で、私は笑った。死にたくはなかったけれど、私は最後まで戦った。満足だ。…………あぁ、でも。指輪だけは、届けたかった。ゆっくりと目を閉じて、死を待つ。
「………………あら?」
待てども待てども痛みが来ない。魔物の唸り声は聞こえるのに、私は何故か攻撃されない。閉じていた目を開き、魔物の方へ視線を向ける。そこにあるのは、魔物の半数が地に伏している異様な光景。
「……なに、?」
何が起こっているのか分からない。私が倒したのは精々10匹程度。しかも昏倒させた魔物も多いから、ちゃんと殺した魔物は3匹くらいで。
「あぁ、そこの綺麗な人!俺が来たからもう大丈夫だぞ!安心して休んでいてくれ!!」
突然聞こえてきた男性の声に視線を動かす。そこに立っていたのは赤銅色の髪をした大柄な人。装備的に冒険者、しかもかなり高いランクの冒険者だろう。
「あり、がとう、ございます……」
「おう!すぐ片付けて回復魔術使えるやつの所に連れていくな!」
朝日に照らされた男性はその光に負けない眩しい笑顔を浮かべて私を見た後、猛然と魔物の群れに突っ込んで大剣を横に振った。たったそれだけ。たったそれだけで魔物の首が面白いほど簡単に飛んで地面に転がる。まるで昔、まだ幼い頃に読んだ勇者の英雄録の様な光景に胸が高鳴った。
「待たせてゴメンな!早く行こう!」
軽々と私を抱えた男性に慌てて近くに転がっている剣を指さす。
「申し訳ありませんがそこの剣を取って頂けないでしょうか」
「分かった!他には何かあるか?」
「ありません。お手数お掛けしました」
「気にしないでくれ!じゃあ行くぞ!」
そう言った男性は凄いスピードで木々の間を通り抜ける。あまりの速さに声をあげそうになって、ギリギリの所で飲み込む。助けて貰った上にみっともなく叫ぶなんて流石に出来なかった。
男性に抱えられてやっと森を抜ける。少し遠くに見える街の外壁にホッと胸を撫で下ろし、身体の力を抜いた。速さの割に全く衝撃が来ない男性の胸に身体を寄せれば、不思議と安心感がある。こんなに穏やかにいられたのは何時以来だろう。落ちてくる瞼に抗えず、私は意識を手放した。
「…………ん、」
「あ、起きたか?身体の具合は大丈夫か?」
至近距離にあった顔に一瞬硬直する。それでも嫌悪感は一切無くて、何故か胸がソワソワした。
「……問題ありません」
「良かった!それにしてもなんであんたみたいな美人さんが黒の森にいたんだ?あそこ魔物が多いし、一般人は立ち入らないぞ?しかもあんた良いとこのお嬢さんっぽいし」
真っ直ぐ過ぎる質問に戸惑う。貴族社会では面倒な言い回しが多いし、こんな直球な質問をされる事なんてなかった。……これはこちらも素直に答えるべきだろうか。彼は命の恩人だし、何より全く邪気を感じない。どこまでも純粋で真っ直ぐで、でも太陽の様な力強さを持つ彼に嘘をつくのは気が引ける。
……出会ったばかりの人間を信用しようとするなんて、私らしくないけれど。でも、きっとこれでいい。私はもうレティシア・オーロットではない。ただのレティシアだ。流石に全部話すと彼に迷惑がかかりそうだから、要点だけでも正直に話そう。
取り敢えず所々短縮しながら話せば、彼の眉間に深い皺が刻まれ、握りこんだ拳が震えていた。
「……おかしいだろ!いくら口論になったからって黒の森に置き去りなんて!そんなの死ねと言っているようなものじゃないか!」
「えぇ。そのつもりかと。私が戦える事も彼は知りませんでしたから」
「なんでそんな酷い事が出来るんだ!!」
自分の事の様に怒ってくれる彼に心が温かくなって、思わず笑ってしまった。
「そこは笑う所じゃないだろ!?」
「いいのです。貴方が私の代わりに怒ってくれましたから。……それとお礼を申し上げます。私の為に怒って下さった事と、命を助けて下さった事。今手持ちがありませんので、後日お渡しします。あ、名乗るのが遅れてしまいました。私はレティシアと申します。貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「お礼なんてしなくていいぞ!俺は自分がしたい事をしただけだ!あと俺はフィン!よろしくな!」
「よろしくお願い致しますフィン様」
名前を呼べば目を丸くした後、勢い良く手を振ったフィン様に首を傾げる。何かおかしかっただろうか。
「様なんて付けないでくれ!あと敬語もなしだ!」
「……あ、すみません。気をつけま、気をつけ、る、?」
敬語を使わずに話した事がないから中々難しい。
「あっ!無理にとは言わないぞ!確かに俺も急に話し方変えろって言われても無理だし!」
「……ありがとうございます。少しずつ直していきますね」
「おう!…………所でレティシアはこれからどうするんだ?婚約者の所に戻ったり、……はしないよな?」
「えぇ。もう戻るつもりはありません。冒険者になろうと思っています」
例え王妃様から頼まれようが、戻ったりはしない。あんな理不尽に晒されて、挙句殺されかけたのだから。それに彼らは私が生きているなんて思ってもいないだろうから、私が自分から戻らない限り死んだ者として扱ってくれるはず。そもそも王太子に婚約破棄された時点で私に帰る場所なんて存在しない。
「あ、それと指輪をギルドに届けたいのです。ギルドカードと剣と共に」
「分かった!俺が届けても良いが、自分で行くか?」
「はい」
これは私の自己満足。もしかしたらその女性を逆に傷付けてしまうかもしれないけれど。それでもこの指輪を持つべき人の元へ届けたかったのだ。
そんな事を考えていれば、フィンが目を輝かせて手を叩いた!
「冒険者なら俺のパーティに入らないか!?これでも俺のパーティは強い奴らが揃っているから安心安全だぞ!」
「……えっと、いいのですか?確かに武芸の心得はありますが実戦経験は乏しいですし、足でまといでは?」
「最初は誰だって初心者だろ?気にするな!それにレティシアは黒の森を独りで歩いてきたんだ!それなら大丈夫!」
そんな風に言ってくれる人なんて、私の周りにはいなかった。あの王妃様ですら、私の背を押す事はしてくれてもそんな言葉をかけてくれた事はなかった。
『わたしね!おおきくなったら、ゆうしゃさまみたいなつよくて、やさしくて、かっこいいひととけっこんしたい!』
不意に思い出した昔の夢。勇者みたいな、強くて優しくてかっこいい人になんて、出会えないと思っていた。まずいるとは思えなかった。でも、いるじゃないか。今、目の前に。
「レティシア?」
「な、何でもないです。ありがとうございますフィン。私、頑張りますね」
「おう!あ、腹減っただろ?今飯取ってくるからちょっと待っててくれ!」
頭を撫でて部屋を出ていったフィンを見送ったあと、布団を頭まで被って身体を丸める。顔は熱いし、心臓の音がうるさい。私もしかして、
「レティシアー!飯持ってき、ど、どうした!?具合悪くなったのか!?」
「ち、違います!あの、あ、えっとちょっと生きてる事を実感していただけで、別に深い意味は何もありませんっ!!」
何を言っているか自分でも分からないけれど、これは仕方がない。だって産まれて初めて恋をして動揺していたのだ。
「レティシア頼む!」
「任せて!」
私がフィンと出会って2年が経った。最初は戸惑う事も多くて大変だったけど、2年経てば流石に慣れてきた。敬語も使わなくなったし。今ではフィン達と共に魔物を討伐したり、人助けをしたりと充実した日々をおくっている。
因みに私を黒の森に捨てた王太子は王位継承権を剥奪され、離宮に軟禁。どこぞの令嬢は王族に対する虚偽申告罪で死刑だそうだ。王位は第2王子が継ぎ、その婚約者には侯爵家の令嬢が選ばれたと風の噂で聞いた。
「お!あんな所に猪がいるぞ!俺ちょっと狩ってくるな!」
「あっ!ちょっと待ちなさいフィン!!……全く!あの脳筋は戦う事と食べる事しか頭にないんだから!」
「仕方がないよ。だってフィンだもの」
もう!と呆れた顔をするパーティメンバーで圧倒的スタイルを誇るメリル。その胸部は多分、メロン位の大きさはある。しかも妖艶な美人だし、性格も面倒みが良くてさっぱりしているからとにかくモテる。現に今恋人がいるにも関わらず、アプローチしてくる人が後を絶たない。因みに恋人とは同じパーティメンバーのヨシュアだ。王子様然とした美しい容姿に物腰が柔らかい事もあり、彼もモテる。
……私はと言えば、全くと言っていいほどモテない。冒険者になりたての頃は何度か声をかけられていたのに、今ではゼロだ。あと2人いるパーティメンバーもそれはもうモテモテなのに。何故か私だけモテない。
「……魅力がないのかなぁ」
「急にどうしたのレティシア」
「いや、私がモテない理由はなんだろうなって」
「………………それは、仕方がないんじゃないかしら」
「うん。それは仕方がないよ。と言うか、……もしかして、レティシア好きな人でも出来たの?」
何故か顔を青くしたヨシュアに首を傾げる。……そう言えば、私誰にもフィンが好きだって言っていないし、バレないように態度にも出していなかった。せっかくだし、2人に相談してみようかな。恋愛経験ない私がどれだけ1人で考えたって限度があるし。
「最近じゃなくて結構前、何だけど」
「結構前!?だっ誰!?誰なの!?」
「…………フィン」
「ん?誰だって?」
「だから、……フィン、です」
「え。フィン?フィンって言った今。聞き間違いじゃないわよね?」
詰め寄ってきたメリルから勢い良く後ずさる。
「聞き間違いじゃないです!私はフィンが好きなの!」
「……ふふっ!レーティシアっ!」
「え?」
メリルが私の後ろを指差して満面の笑みを浮かべる。それにつられて後ろを向けば、そこには目を見開いて固まるフィンがいた。
「ふ、フィン……!?」
「……すまない!盗み聞きするつもりはなかったんだ!」
「……こちらこそごめんなさい」
「何でレティシアが謝るんだ?俺は凄く嬉しいぞ!俺もレティシアが好きだ!」
太陽の様な笑顔でそんな事を言うフィン。……うーん。好きって言われて嬉しいんだけど、私の好きとフィンの好きは違うだろうなぁ。今は好きって言って貰えるだけマシだと思っておこうかな。
「…………フィン。レティシア絶対勘違いしてるよ。そこははっきり言わなきゃ」
「……勘違い?俺がレティシアを好きな事をどう勘違いするんだ?…………あぁ!なるほどそういう事か!」
1人納得したらしいフィンが私に向き直る。
「俺はメリルやヨシュアも皆好きだ」
「え?大切な仲間だし、私も大好きだよ……?」
「レティシアも好きだ!」
「……う、うん?ありがとう?」
「他の誰よりも、世界で1番好きだ!レティシア!」
フィンの真っ直ぐ過ぎる言葉に顔から火が出る程熱くなる。心臓もこれ以上ないくらい脈打ってて、周りに聞こえてしまいそうだ。
「俺と結婚してくれ!」
「けっ、結婚!?」
フィンが突発的に何かするのはいつもの事だけど、やっぱりちょっと突然過ぎない!?
突然のプロポーズに混乱しているとメリルが眦をこれでもかと釣り上げてフィンに詰め寄って胸ぐらを掴んだ。
「こんの脳筋男!!プロポーズをこんな道端でやるとかどんな神経してるのっ!!?」
「まぁまぁメリル、落ち着いて。フィンだからしょうがないよ」
「こればかりは譲れないわ!!ちょっとそこに座りなさいフィン!!全く!そんなんじゃ直ぐにレティシアに愛想つかされるわよ!!」
「それは困る!」
律儀に地面に正座したフィンがメリルの言葉に食いつく。その頭を全力でぶっ叩いたメリルは更に目を吊り上げた。
「困るのはレティシアよ!いい!?あんたがちゃんと乙女心を理解するまでプロポーズも告白も禁止!」
「待てメリル!それは酷くないか!」
「どこが酷いのよ!あんたレティシアを幸せにするつもりあるわけ!?」
「あるに決まっているだろう!」
「なら私の言う事を聞きなさい!レティシアを悲しませたり失望させたりしたくないでしょっ?」
「もちろんだ!」
なんかよく分からない盛り上がりをみせる2人から目を逸らし、隣に経つヨシュアの袖を引っ張る。
「……今のメリルを止めるのは無理。ここはもうフィンが乙女心を理解出来るようになるまで待ってあげてよ」
「…………ですよね」
それから1年が経ち、やっとギリギリ及第点を貰ったらしいフィンは、花っぽいモノを片手にプロポーズをしてきた。
「レティシア!遅くなってすまない!!俺と結婚してくれ!」
満月の夜の花畑と言う幻想的な場所でのプロポーズ。女の子なら1度は憧れる様なシチュエーションだし、身嗜みもきっちり整えたフィンはもう凄くかっこいい。ここまで見るとフィンはこの1年でかなり成長したと言えるだろう。だがしかし。その手に持っている物が問題だ。
「……ねぇ、フィン。この花っぽいのは、何?」
「これか?これは花形の魔物だ!さっき狩ってきた!」
あっけらかんと答えるフィンに思わず笑ってしまった。あんなに必死に乙女心を教えていたメリルには悪いけれど、これでこそフィンだと思う。
びっくりするほど真っ直ぐで誰にでも優しい、そしてどこか抜けているというかなんと言うか、真面目にバカやらかす所。そんなフィンだから、私はどうしようもなく惹かれたのだ。
「……えっと、悪い。またダメだったか?」
しょぼんと子犬の様な顔をして肩を落とすフィンから花の魔物を抜き取る。
「ううん。嬉しい。ありがとうフィン、大好き」
「……!俺も大好きだ!これからもずっと一緒にいような!」
「うん!」
ありがとう。あの日私を助けてくれて。
ありがとう。こんな私を好きになってくれて。
心の奥底から溢れ出る幸福感に身を任せ、勢い良くフィンに抱き着いた。
私は今、この世界の誰よりも幸せだ。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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