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「もう決めたんですね?」


「はい」

 短く答えて頷く。


「そっか。まぁじゃあ頑張れよ」


 こくり、と。

 私は振り向いて歩き出し、教室の扉を開け―――外には――――そこには待ってくれていた三人の友達が。




「おっそいよ繭」

 肩より少し上のショートカットが似合ういつも元気で快活なスポーツ少女みのりがすでに待ちきれていない様子だった。


「ほなそれじゃいこうか~」

 ロングの黒髪でおっとり、のほほんとした雰囲気を持つ、天然が入っていてマイペースな舞もすでに歩き出した。


「まったくみのりはせっかちだね、もうちょっと落ち着いたら化けるのに」

 腰まで伸びた絹やシルクと思わせるような長い黒髪そして上品な立ち振舞や溢れ出る気品の高さが隠しきれない(あおい)


 私は少し苦笑してから、みんなの後に続いた。





 ―――――――十五年前。

 後に「融合の日」と呼ばれ、世界に突如としていきなり2つの迷宮が現れた。

 天空樹(てんくうじゅ)暗迷淵(あんめいえん)

 そして迷宮より溢れ出た魔物に人々は襲われ、沢山の人が犠牲となった。

 地表に出た魔物の掃討と鎮圧により各国は軍や警察を出動させ。その事態の沈静化に至るまで―――――――実に一週間までかかった。


 同時に現れたのは迷宮だけではなく、ファンタジーの中の存在でしかないと思われてきた種族―――――――エルフやドワーフ、小人、獣人が「融合の日」二日目に世界各国――――主にアメリカやEUの諸国首脳にコンタクトを取ってきたのは人類にとってまだ跳梁跋扈してる魔物に次ぐ第二波の衝撃だった。


 今だに世界は混迷の中、どこかしこに人々を襲い食らう魔物の処理に追われて、アメリカにより緊急に開かれた国際首脳会談、とは言うものの、その場に集ったのは主に軍事力や経済力、比較的に政治が安定していた国家だけだった。


 そして会議の開催を要請していたエルフの長、ドワーフの王、小人の主、獣人の部族長などが一斉に会議に参加し、生中継により画面の向こうの人々にさらなる衝撃を与えた。

           

 エルフの長によるいま地球が起きている現象は「2つの世界が融合した結果」という説が提唱され、その時各国の首脳は今ひとつ信じられない様子だったが―――――十数年経ったいまではこれが正式な説として教科書に記されている。


 エルフの長によると「もともと我々の世界では天空樹と暗迷淵があり、その中には魔物の巣穴となっており、我々も迷惑していたところだ。それに我々の世界とこちらでは一つ大きな違いがある、それは人類という種族が存在しなかったことだ」


「だが今では天空樹、暗迷淵、そして我々がこちらの世界にいることを鑑みて、ここはすなわちすでに我々だけの世界ではなく――――ましてやそなた達だけの世界でもなく、2つ融合した世界」なのだと。


 その発言に当然疑問や質問などが各国首脳から噴出した。

 が、そこはやはりアメリカ、さすがアメリカ、世界一位の軍事、経済大国というべきなのだろうか。アメリカ大統領はすばやく内容を頭に入れ、反芻し、その真偽に測りかねている最中に、もっとも解決すべき、そして人類以外の知的種族に対する対処をどうするかを会議の中で解決した。


 つまりエルフドワーフといった異世界種族はこれからどうしますかっていう話になる。

 アメリカ大統領が提出した解決策は至極簡単なものだった。

 アメリカや世界諸国にエルフを始めとする異種族に居住地、食料などあらかた必要な資源を与え、それと引き換えにエルフたちは何を人類にもたらしてくれるのだろうか?という貿易手段に出たのだ。要はギブアンドテイク。


 結果はアメリカの思惑通り、大勝利と言っても差し支えない戦果を収めた。

 エルフは魔法と技術と知識を、ドワーフは鍛冶術と技術と腕を。小人は知識と労力を、獣人は戦力と労働力を。

 それら―――――特にエルフやドワーフのもたらしてくれたものは、世界の根幹を揺るがすほど、根本すら変えたと言えるだろう。

 今まで人類が何一つ使えない魔法が使えるようになったのだ、それは工業革命に凌駕するほど人類の世界に対する見方を変えてくれた。


 ドワーフの鍛冶にも人類は信じられないほど工業の進歩を果たした。なにせドワーフの手に渡ったものやドワーフが作ったものは現人類に比べて格段に性能が向上し、人間の限界を遥かに超えている品質のものが生産された。


 ただ会議が平和に終わったかどうかは別で、アメリカが商機を見出した中で中国が対抗し、結果ロシアまで参入、異世界人材の確保は大国同士による貿易戦争にも似た形に突入した。


 もともと中国と南シナ海、台湾問題、尖閣問題などですでに表面化してないだけで嫌悪状態になりつつあるアメリカだったが、今回の一件でさらに悪化した両国同士の仲。


 そんな中で日本はというと、会議には参加したものの、結果国内の世論や野党の声もあり、一歩出遅れている状態だった。





 ――――――――空を見上げていた。

 そこにはすっかり日常の風景と化してある、無数に絡み合いながらも天へと登っていき、さながら一本の大きな木や塔のようなものがあった。

 ―――――通称、天空樹。

 その木の根はいくつも地上に伸び、大地を踏み潰すような形で根を下ろした。その一本一本の根は、迷宮天空樹への入り口でもあった。


「繭、なーにしてんの」

 みのりの声で我に返る。

 改めて目の前にある看板を見上げる。

 そこには――――――「冒険者協会」の五文字が書いてあった。

 私は扉に手をかけ、開けた。


 夏休み前という時期の外の熱気とは対照的、室内から溢れ出たひんやりとした冷気が頬を撫で身を包んでいく。

 エアコンが効いてるのだろう――――と私達四人は冒険者協会の中に足を踏み入れた。


「うわっひっろ」

 みのりが思わず感嘆の声を上げる。

 ここにくるのは実際私も―――――いいえ、実際私達四人もきっとみんな初めて。

 全体は広々とした空間にL字になっていて、ずらりと番号付きカウンターが並んである。

 私は入り口すぐ近くにある設置されていた番号バッジ機に手を伸ばし、バッジを取り出した。


「何番なん?繭ちゃん」

 舞が後ろから覗き込んでくる。

「えーと、66番だって」

 バッジの番号をわかるようにみんなに見せる。

「そんじゃぁ」

「よいっと」

「うちもな~」

 結果、私、碧、みのり、舞は66、67、68、69となった。


 真正面のでかいデジタル液晶スクリーンには今何番バッジが何番カウンタへと表示されていた。

 ちょうど61番の人が呼ばれ29カウンターへと表示。

 そんな中で壁際に置いてあった椅子やソファーから一人が立ち上がり、29番目のカウンターへと向かっていった。

 きっと番号バッジの人だろう。


「こん様子じゃうちらの番も早そうやな」

 舞がニコニコと笑って言う。

「そうね、そんなに混んでないかな…なんかこう…冒険者協会ってのがもっとこう…屈強な男たちや荒くれ者がいっぱい溢れてる状態と」

 みのりの声はきっと気のせいじゃない、実際がっかりしているのだ。

「小説の見過ぎ。ここはどちらかというと事務局みたいなところよ」

 ため息と同時に肩を上下させ竦めてる碧、やれやれこの子(みのり)何に期待しているんだか…な感じ。


 ――――66番バッジ21カウンタへ。

 と、雑談しているとすぐに自分の番になり、「それじゃあまたあとでね」、と告げ、「ああ」、「またあとで」、「繭ちゃんあとでや~」、みんなと別れ一歩足先に行った。


 番号のカウンターを探していると、21と書いてあるカウンターがすぐ見つかった。用意されていた椅子に腰を下ろし、「番号バッジをお持ちの方ですね?バッジを渡してください」、と事務員の女性に声かけられた。


「あ、はい」、これっと、バッジを渡すと、「はい確かに番号66バッジの方です、冒険者協会へようこそ。それでは今日はどういったご用件で?」


「冒険者登録をしに来た」を告げると、

「そうですか」、女性は机の引き出しからなんかの書類を取り出し、「まずは年齢からですね、おいくつなんですか?」


「16」


 それを聞いて女性は―――――まだ二十代前半の、笑ったら可愛いだろうな感じの受付員が目を少し見開いて私をじーっと見つめた。

 しばらくして、「職業はなんですか?」


「学生です。冒険者科の」


 それ聞いて「ああ、なるほど」と納得したのか先の驚いた表情が消え、いつもの事務的な笑顔に戻っていた。


「お名前は?」


 スラスラと記入していく。ペンがまるで踊りだしたダンサーのようだ。


「山野繭です」


「やまの…まゆ…っと」


 そこで女性受付は顔を上げ私を見つめてくる。


「どうして冒険者になりたいんですか?」


「稼げるから」


 回答になにか不満でもあるのだろうか、また私の顔をじっーと見つめてから書類に向き直った。


「はいそれではちょっと待っててくださいね。一応学校ですでに習って知ってはいると思うんだけれど、本来なら義務書やら条例やらみせなきゃならないんですが冒険者科なので口頭説明です、冒険者は犯罪を犯した場合通常のと比べて倍か五倍か十倍か下手すればそれ以上の罪科が課せられる。また冒険者は自己責任で死亡時に遺族には金が支払われません」


 遺族――――――両親は、十五年前のあの「融合の日」に死んだので、いない。

 近しい親族も、いない。


「で、ちょっと右手の親指出してね、指紋と血を取るから、冒険者ライセンスカード作成の」


 女性からどこから出したのか指紋取るためのインクと中間に穴が空いた円筒状のものが机の上に出される。


「まず指紋ね、はい」


 私は言われて、軽く親指をインクに漬けてから書類に押した。


「うん、ばっちりと。次は採血ね、チクッとちょっと痛いから我慢してね」


 ニコニコ顔でそう言ってくる。


 同じく親指を穴の空いた円筒物に入れ、すぐチクッとした痛みが走り、指を穴から取り出してみると痛みはまだ残っているものの血は完全にどこにも出ていない状態。


「はいそれでは数分のお待ちを」


 そういって女性事務員はどこかに行った。


 これで登録は終わったのだ…と心の中でぼんやりと思い返してみる。

 時期は夏休み直前一週間、冒険者登録として最初で一番早い時期。

 学校での授業や実技にはある一定以上の点数取らないと合格と認められない在学中の冒険者登録。

 クリアには最低でも両方70点が必要だ。まあそれでもちゃんと授業出てれば実技やってれば誰でもクリアできる点数だとは思うんだけど。むしろこれで不合格な人が珍しいほど。

 私――――――――繭の冒険科成績と実技点数は85と86、平均以上。

 他のみんなも似たり寄ったりような点数だ。確か碧は成績と実技は89と87。舞は84と85、みのりは…84と82だっけ。


 考えているといつの間にか戻ってきていたのか、「はい、山野繭様、これで冒険者登録は完了しました。これライセンスカード、大事に保管してくださいね」


 そう言われて手渡されてきた冒険者ライセンスカードは見た目は名刺よりやや大きめで長さ12CM横6CMといったところだろうか。エルフやドワーフ独自の特殊技術が入ってるのか見た目は紙みたいなのに触った感触は柔軟性はあるものの折れたり曲がったりしないような強靭さを感じさせている。素材も何でできているのか不明。


「一応わかると思うんですけど、最初はF級冒険者ね、しかも山野様は学生なので限定が付きます。解除するには一定以上のポイントを稼ぐしかありません」


 こくり、と頷く。

 もうすでにわかっていること、学校で何遍も授業中聞かされたこと。


「それでは、他になにか質問や疑問がございましょうか?なければ次の方をお呼びしたいんですが」


「あ、最初の冒険者には無料で武器を提供するサービスがあると聞いてありますが」


「ああ、それでしたら角を曲がったところでのトレーニングルームにはご自由に取っていいんです。他にはなにかあります?」


 ふるふる、首を横に振る。もう聞くことはない。


 女性事務員は相変わらず事務的な笑顔を浮かべたまま。

 私は席を立って、みんなのところに戻る。



「あれ~繭ちゃん終わったん?早いな~でもうちが一番や~景気いいスタートやな~」

 待ち合わせのところに戻ってみるとそこにはすでに舞の姿があった。ニコニコ。

 誇らしげにライセンスカードを掲げて見せてくれる。

 このカードを手にしている限り、私達は、冒険者だ。


「他のみんなまだ終わってない?」

 聞いてみると。「う~ん、もうすぐだとおもうんだけどな~、ほな繭ちゃんが一番早く行ったのにうちがいち早く戻ったやし、差はあるんちゃうん?」


 まあ途中の記入で個人差は出るものか。

 と考えていると――――――


「あら、私三番目ですか、んじゃあ残りはあいつだな」


 碧の声が聞こえてきた。


 そして――――


「ごめんごめん!うわぁ!みんな揃ってる…あたし最後?」


 最後の一人が現れた。すごく申し訳無さそうな表情を浮かべて。


「一応聞くけど何に手間取ったの」

 碧がいつもの意地悪な顔になってる…


「あ…それが…冒険者になりたい理由…」


 ああなるほどと私達全員が納得した。

 みのりはいまこそいつもの最初出会った頃の元気良さを取り戻してるが、彼女は中学一年のとき棒高跳びの期待のエースとして入部、二年のとき練習中うっかりしてしまい、一年ぐらい静養してないと後遺症が残るほどの大きな怪我を負い、それからのみのりはなにか生気が抜け落ちたような状態だった。


 時は中学最後の進路決めの時期。

 教室には私と、碧。

「繭はもう決めてた?」

「うん…私…冒険者科に進学したいと思う」

 それ聞いて碧はまるでなにか面白おかしくようなこと聞いたかのようにクスクスと笑いだすと、「そっか、繭は冒険者科か、じゃあ私も冒険者科と」


 ―――――――――え?

 って、碧、まだ進路決めてなかったんかい!というツッコミを内心でし、

 ガラガラ、とちょうどそこに扉の開ける音。


「あれ~?二人して何してはるん?」


 舞だった。


「いやぁ~繭がね冒険者科に行きたいってそんで私もいくと」

 相変わらずクスクスと笑い続ける碧、でもそれを聞いて、「え~じゃあうちも冒険者科にしような~」、と舞。


「え――――――――!?舞って進路決めてた?決めてなかった?」

「う~ん微妙ってとこやな~でも冒険者科って聞いてありだと思うな~」


 そこに―――――


「舞?教室の扉の前で何してるんだ?」みのりの、一年からの長い付き合いだからこそわかる、感じる、昔と比べて覇気のない声。


「いやぁ~それがね繭ちゃんも碧ちゃんもうちんも冒険者科行きになっとるん」

「え…冒険者科…?」

 みのりの明らかに困惑感じる声。そりゃ当然だよな。私はともかく、あの碧と舞が冒険者科目指すとか言ったらビッグジョークもんだよ。それにまじで言ってるから余計にみのりが困惑する。


「ふたりとも…本気で言ってるの?」

「うん、本気だよ」クスクス笑う碧。

 みのりは教室の外、つまり私と碧じゃ顔は伺えない状況。だがその顔がきっと困惑に満ちてると容易に想像できてる。


 しばらくして「冒険者科って…あの冒険者科だよね…!?」

 舞が「うん」とうなずいて答えると、壁の向こうでみのりがなにか考え事でもし始めたかのような気配が伝わってくる。


 数秒の沈黙。

 そのあとに「冒険者って…槍を使うやつもいるんだよね…!?…あ…あたしも…!あしたも冒険者科にいく!」、とついにみのりまで中学の仲良し四人組が全員冒険者科行き決定の瞬間。





 ――――――――ふと声に引っ張られて現在に意識を戻す。


「繭ちゃん?」


 舞が顔を覗き込んでくる。


「ああ、なに?」


「武器を貰いに行くよ、ぼーっとしてないで」碧がすでにみのりと並んで角に向かおうとしている途中だった。


「あーわかった、今行く」



 ――――――と。

 角を曲がったらとなんやら、そう言われてたが…

 トレーニングルームは見つかった、結構奥の方だ。見つかったのはいいが…


「いっぱんあるんな~」

「どれがいいんかしら」

 なんとトレーニングルームが計4つある、ルームプレートには「トレーニングルーム1」「トレーニングルーム2」「トレーニングルーム3」…などと書いてある。


「どれも同じじゃね?」

 みのりの意見はご尤もだ。


「繭はどれがいいん?」

 不意に碧が聞いてきた。


「えーじゃあ…1番」

 なんとなく。


「決定だな」「決定やな」


 …いいのか私に任せて。

 まあみのりの言っていた通り多分どれも同じなのだろう、差があるとしてもよほどおおきなものじゃなく誤差の範囲内だ誤差。


 碧がコンコンと軽くノックをし、

 1とプレートに書かれたトレーニングの扉を開ける。


 中には一人の男がいた。金属の鎧を着込んでいた。身長は…180くらい?金髪で、入室してきた私達を一瞥し「ああぁ?なんか用か?」といかにも不満そうな声を漏らす。


「武器を貰いに来たんですけど」おずおずと答えるみのり。


「は!新米か!」男は口元少し歪ませそれで興味失ったのか視線は私達から離れ別のところに注いでいた。


 みのりはその男の態度に最初武器取るのを遠慮してるようだが、碧と舞と私が三人各々自分の武器を取ってるところ見ると慌てて取りに来た。

 そして取り終えた私達がついでに革製の鎧…と言っていいかさえわからないものだがすくなくとも自分の着ている私服や制服より頑丈そうなので―――に着替えた。

 もう武器も取ったし防具ももらったし出るかと私達がぞろぞろと列をなして扉に向かっていくと―――――


「おい」


 突っ立っていた男が不意に声をかけてきた、その声に呼び止められ、私達は男に振り向いた。


 男は品定めするような視線で私達を上から下まで舐め回すように見つめた。

 そしていきなり口元を歪ませ――――――くははははと笑いだした。


 なにかおかしいのか?と私が思っていると


「いやーいやぁ傑作だ。くはっはっっは、こいつぁ変だな、くくく」

 男は、本当に愉快そうに笑った。

 そういえば、授業で習ったことがあるような…冒険者協会に駐在する冒険者は少なくともB級以上でないと務まらないような…つまり眼前のこの男も最低はB級冒険者ってことになる。


 男は、いきなり私を指さしてきた。笑いながら。

「一番!てめえはおかしい!二刀流だあぁ?ああ、二刀流でもマイナーな部類に入るがおめえはその上を更に行ってるな!片方はソード刃渡り60CMで片方はダガー、刃渡り25CMってとこだな。ああおかしいおかしい、くぅうっぷっぷっぷ」


 私を指で指しながら愉快に笑い金髪男。正直ここまで笑われる覚えはないんだが…


 そして男の視線が私の後ろにいる碧へと向け、同じく品定めするように上下を舐め回してから、口元を歪ませて笑って言う。


「二番!てめえもおかしい!変人!かっかっかっくっくっくあはははは、弓に鞭だぁ?弓はいい、むしろ迷宮冒険者の中ではオーソドックス、王道の部類に入るが、その鞭ときたらな…!くくくなーに考えてるんだかわからねぇようなやつだ!鞭はマイナー中のマイナーもいいところだ!器量がないや高等級冒険者でない限り使えこなせないような代物を…くくく…ははははは」


 次に男の視線が止まったのは―――――みのりだった。

 だが―――身構えていたみのりに対して、男は…ちょっと落胆したような、がっかりしたような表情を浮かべる。


「三番…てめえ前の二人に比べてインパクトに欠けてるな…まあ槍つっちゃーマイナーの部類に入るが…」


 すぐに興味を失って最後の舞に視線を向けた。そして―――――――男の表情は愉快な顔から失望したような顔へと変わっていき、最後の舞を見た時は一切の表情消えた。


「四番、オーソドックスな片手剣と盾、王道、いちばんつまらん。」


 手をひらひらさせ、しっしっと私達を追い出そうとするような空気。


 なんなんだこの男ー?

 失礼だなとは思いつつも、ここに駐在する以上確実にB級冒険者であることが確定しているし私達の先輩でありベテランの方だ、だから結局最後誰も何も言わないままそのまま退室してきた。


「なんなんだあの男ー」

 意外にも冒険者協会を出た瞬間声を上げたのはみのりだった。スポーツ少女で体育会系なだけあって上下関係はっきりしていて上の人間に意見しないとは思うんだが。


「おかしゅうな男やったな~」

 舞には意にも介さずな様子だった。一番ボロクソ言われたのに。


「まあそんな男より明日迷宮潜ろうと例の場所に集合するな、放課後」

 碧は意外に切り替えが早い、もしくはそもそも最初からあの男など眼中にない様子か。


「じゃあみんなまた明日な」

「ああ、また明日、バイバイ繭」

「また明日やな繭ちゃん」

「また明日、ね」


 みんなが、各々の帰路についた。




 ――――――――男は思案に耽けていた。

 それは彼から見たその組み合わせは奇怪なものだったから。

 一番のあいつは、二刀流だった。だが普通の二刀流ではなく、片方が通常のソードで片方がダガー。凸凹コンビだ。が、奇怪さこそ感じるが男はいまいちそれのどこがおかしかったのか掴めなかった。

 見たところ、左手に装着していたバックラー、盾の裏に約六本のダガーを収容してある、つまりスタイルは容易に想像できる。だからこそ不気味だ。



 二番のアイツ、これまた見た目では奇怪としか形容しようがないほど奇怪なものだった。弓に鞭。遠距離から中距離までカバーしきれる。だが不可解だ。鞭を好んで使うやつはそれほどいない、冒険者連中はみんな片手剣や長剣、大剣、そういったよく言って王道やオーソドックスな武器をチョイスする、つまりメジャーなのだ。が、あいつは鞭というマイナー中のマイナーもいいとこを弓と組み合わせた。

 掴めねぇな。


 三番は…まあ槍はどっちかと言うとマイナー部類だ。使いこなせるかどうかその人次第、槍を選んでるところを見ると長柄に強い思念を寄せているのだろう。同じく左手に盾を装備している、守りも考えている。


 四番は……くくく、むしろこれまで一番奇怪ではなかったか?

 片手剣に盾、王道、オーソドックスまっしぐらだ。そんな「ザ 平凡」のようなやつが…なぜあの三人に混じっている?

 くくく…他の三人が奇怪ならお前はまともだが、他の三人がまともだった場合お前は奇怪だ。



 男は――――――――ひたすら思案にふけるのであった。


リハビリで書いてる小説。

ブランクは約10年。頭の中で書いてると楽だけどなー

なにかおかしな点や誤字、意見、感想などどうぞ気軽に

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