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うぃしゃぽなすた!  作者: 上野ハオコ 
第三部 あの日確かに見た、夜空を駆ける光を君は何と名付けるか
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4 プラトニックなおねロリは好きですか?私は好きです。

UVレジンというものをご存じだろうか。

多くの人にとってはあまり聞き馴染みのない言葉かもしれないが、知っている人は知っているものだと思う。


UVレジンとは、太陽光やUVライトを浴びることによって固まる透明な液体の素材だ。

お手軽簡単にそれっぽいアクセサリーや小物をハンドメイド出来るということで、昨今若い女性たちを中心に人気が高まっている。

SNSなんかでツルツルテカテカしたハンドメイドアクセサリーの写真を目にしたことのある人は多いと思う。

雑に言えばアレだ。

一見素人が作るのは難しそうな見た目をしているけど思ったよりも簡単かつ安価に作ることが出来るからとても『映える』のだ。


しかし簡単と言っても奥は深く、当然拘れば拘る程に美麗な作品を仕上げることも可能だ。

その線の人たちは、UVレジンを使ってかなり本格的なアクセサリーを作り、HPや即売会なんかで販売したりもする。

かく言う私のお姉ちゃんもまたそういう人たちの一人で、結構凝ったものを作っては様々な場所で頒布している。

女子力という点で私たちの中でも随一の実力を誇る彼女は、なかなかにガーリィなセンスの持ち主で、ハンドメイド界ではちょっとした人気を持つクリエイターなのだ。


つまるところ、小夜ちゃんが我が家にやって来ていたのは、お姉ちゃんと一緒にアクセサリー作りをするためだった。

その道のプロであるお姉ちゃんの指導を仰ぎながら、一緒に楽しみながら創作活動をしようという会が開かれていたのだ。


一連のドタバタ劇に終止符を打った私と有栖ちゃんも、途中参加ではあるがその会に加わることになった。

女の子だもん、私もアクセとか小物とか作るの大好きなんだよね。


「うたちゃんと有栖ちゃんも帰ってきたことだし、再会しましょうか」


にこにこ笑顔のお姉ちゃんの号令で作業が始まる。

お姉ちゃん主導でこういう会が開かれることはさほど多くないので、結構張り切っている様子がその雰囲気から見て取れた。


既に机の上には、レジン液、ラメやビーズ、マスキングテープに金属部品などの多種多様な素材から、UVライト、ピンセットにつまようじ、シリコン型などの必要不可欠な工具類たちが並んでいる。

流石お姉ちゃん、その辺の準備は抜かりない。

というかむしろ、素材の数とか種類は個人の趣味でやる範疇は軽く超えている気がする。


そう言えばいつかお姉ちゃんは、「アクセサリー作りで頂いたお金を好き勝手使うのは気が引けちゃうから、全部素材とか工具とかを買い揃えるための資金に充てているの。その方がお客さんにも喜んで貰えると思うしね」…とか言っていた気がする。

制作者の鑑かな。

私も売り上げを詳しく知っている訳じゃないから明確な金額はわからないけれど、きっとそれなりの額は貰っているだろうし、それを全て素材や工具にフィードバックしているのならこの充実ぶりも頷ける。


私、有栖ちゃん、お姉ちゃん、コメットちゃん、小夜ちゃん。

至って普通のマンションのリビングに人が五人も集まればそれなりに人口密度は上がるもので、それが少し大きめとはいえ家庭用の机の前だというのならば隣と肩が触れるくらいには接近する。

だけど結構ぎゅうぎゅうなスペースで作業をしている筈なのに、みんなが結構真剣に取り組んでいる為か、そんなに狭さが気にならない。

そのあたり、人間の意識というやつは以外と適当で、普段気にするようなことも何かに集中する時は気にしなくなってしまうのは少し面白い。


今なら有栖ちゃんのおっぱいをそっと揉みしだいてもバレないんじゃないかと脳裡に一瞬邪な思考が横切るが、小夜ちゃんの純粋な眼差しを感じたことでそれは霧散霧消していく。


「さっきまではね…ピアスを作ってたの」


差し出された小夜ちゃんの手には、どこか禍々しく細長い塊がちょこんと乗っかっている。

それはまるで血を想起させるような赤黒さをしていて、見ているだけで身震いしてしまうような何処か狂気的なおぞましさを感じさせられた。

机の上に並べられた素材たちはどれも可愛くて煌びやかなものばかりなのに、どうやったらこんな発色を実現することが出来るのだろう。

制作工程が全く想像出来ないそのピアスを嬉々として作り上げた小夜ちゃんの悪魔的な技術力の高さに思わず言葉を失ってしまう。


「どう…かな?」


小首を傾げて尋ねる小夜ちゃんの可愛さと、その手の上に乗せられたものとのギャップが怖い。

きっと小夜ちゃんはすごく真剣にアレを作ったのだろうし、一種の魔力や呪いのような凄まじい雰囲気を纏わせるに至るまでにはたくさんの試行錯誤を繰り返したに違いない。

その努力を素直に賞賛したい気持ちはあるのだけれど、なんと言ってそのピアスを褒めれば良いのか、私の貧弱なボキャブラリーではそれに値する言葉を探し出すことが出来なかった。


「なんというか、すっごく、エモいね」


ごめんね小夜ちゃん、私は弱い子だ。

適切な言葉を見つけられなかったから思わず流行の言葉に逃げてしまったよ~!


「ありがとう…このエッジの効いた部分とか…自分でもエモいって思うの」


一体どこがエッジの効いた部分なのかはわからなかったけど、小夜ちゃん的にはエモいで正解だったみたいでよかった!


「美歌子~、気泡が入ってしまって綺麗に仕上がらないのです。どうしたらいいのですか?」


作業に熱中しているためか、いつもより遥かに口数の少ないコメットちゃん(お姉ちゃんとお揃いの眼鏡を掛けていてとても可愛い)が、お姉ちゃんに助けを求めている。

コメットちゃんはどうやら、丸いペンダント型に流し込んだレジンの気泡を上手く取り除きたいらしい。

観測者であり調停者である彼女も、全知全能の神ではない。

彼女にもこの世界について知らないことがきっとまだたくさんあるのだろう。

それが、UVレジンの気泡抜きだったりするのは何だかすごく俗っぽくていいなぁと感じる。


コメットちゃんの持つ改変能力というものは、私にとっては魔法みたいな摩訶不思議な能力のようなものだ。

私たちよりもずっと高次元の存在である筈の彼女が一体どれ程の能力を持ち合わせているのかはわからないし、きっとそれは低次の私たちには理解する事が不可能な領域なのだろう。

クォークだかレプトンだかがどうのこうのとか、自然界の四つの力を利用すればなんだかんだとか説明して貰ったことは一度だけあるけど、何が何だか正直私にはよく分からなかった。

それでもおそらく、改変能力を使えばUVレジンの余分な気泡を抜くなんてこと、いとも簡単にできる。

というかそもそも、何もないところから好きなアクセサリーを一瞬のうちに作ることだって当たり前のようにやってのける筈だ。


「改変をすることで世界にどんな影響が出るかわからないから、あまり能力を使うべきではないのです」だとか、以前コメットちゃんが言っていたのを覚えている。

確かにそれは真実なのだろうし、あまり能力を使うべきではないというのは間違いないのだろう。

しかし、コメットちゃんがあまり多く改変能力を使おうとしないこと、最近では特に殆どその能力を使わなくなっていることは、他に理由があるのだと思う。

それはきっと、彼女がとても人間のことが好き、というところに起因するものだ。

上手く言えないけど、おそらくコメットちゃんは私たちに歩調を合わせてくれているのだ。

出来るだけ同じ時間を共有して、同じ視点で世界を見る為に、出来る限り私たち人間と同じように日々を過ごそうと思ってくれている。


今こうしてレジンのアクセサリー作りに奮闘しているのだって、コメットちゃんが私たちと一緒にいる時間を大切に感じてくれているからで、その時間を存分に楽しみたいと思ってくれているからなのだと思う。

それがなんとなくわかっているから、私はコメットちゃんのことがとても愛おしく思うんだ。


「こういう気泡はね、爪楊枝でささっとつついてあげるといいのよ」


お姉ちゃんはお手本を見せるように、コメットちゃんのレジン液の中に出来た気泡を幾つか取り除いていく。

それを真似してコメットちゃんも気泡抜きに挑戦してみるが、どうにも上手くいかない様子。

お姉ちゃんはいとも簡単そうに様々な作業をこなしているが、それらを実際に自分がやってみるともの凄く難しいのだということが分かる。

お姉ちゃんの物作りスキルは料理経験の長さにも起因するもので、おそらくはそのあたりの手先の器用さというものが全てにおいて発揮されているのだろう。

私たちとお姉ちゃんの間には長年培った経験と技術力という点で大きな差が存在している。


そう簡単に埋めることのできない力量差を見せつけられた時、人は大きく二つの反応を見せるものだと私は思う。

一つは諦めること。

技術というのは才能によって左右されるもので、今出来ない自分がどれだけ努力しようとも未来の自分が出来るようにはならないのだと、全ての可能性を否定してしまう選択肢。

もう一つは立ち向かうこと。

技術は努力によって獲得されるもので、今はダメでも挑戦し続ければ光明は必ず見えてくるものなのだと、全ての可能性を肯定する選択肢。

そのどちらが正しいというわけもなく、どちらが間違っているというわけでもない。

ただそれは受け取り方や考え方が違うというだけで、どちらの選択を取るかは各々の自由でしかない。


ただコメットちゃんについて言えることは、その後者の方の選択を取ったということ。


「難しい…やっぱり美歌子はすごいのです」


そう言いながらもコメットちゃんは黙々と目の前の作業に没頭し、覚束ない手つきではあるものの気泡を抜きながら綺麗にレジン液を均すことに成功していた。


「あらあらコメットちゃん、上手に出来たじゃない。貴女の方こそすごいわ」


「そうでもあるのですよ。もっと褒めるのです」


「うふふ、コメットちゃんは可愛くて頭撫でるとふわふわでとっても素敵よ~」


優しく頭を撫でて褒めるお姉ちゃんと、目を細めてそれを嬉しそうに受け取るコメットちゃん。

二人の間には何か特別な絆が存在するように感じられる。


「なんか近頃あの二人、良い感じよね」


普段はしないようなにやけ顔を浮かばせながら、隣で作業に勤しむ有栖ちゃんは私にそう語りかける。


「うん、そうだね。見ているだけでほっこりするよ」


果たしておねえちゃんとコメットちゃん、二人の関係性をなんと表現すればいいのか、私には適切な言葉を見つけられないけれど、そこに確固たる親愛があることは間違いないだろう。

私の知らないうちに二人はどんどん絆を深めていて、いつの間にかとても仲良くなっていた。

お世話好きのお姉ちゃんと、自分の欲望(特に食欲)に素直なコメットちゃんというのはきっと相性が良いのだろう。

お互いにお互いのことを正しく求めて、お互いの必要な部分を与え合っているような感じ。


私にはその関係性が好ましく思える。

お姉ちゃんとコメットちゃんが一緒にいる時、なんというか二人とも、すごく自然なのだ。


「次はここ、どうすればいいのですか?」


「はいはい、そこはね…」


楽しそうに教えを請うコメットちゃんと、幸せそうに教えるお姉ちゃん。

二人の姿は、生徒と教師のようでありながらも、娘と母のような雰囲気を纏わせ、またそれは睦言を囁き合う恋人同士のようでもある。


「私の傍には…二つの百合カップルがあって…すごく眼福だよ」


相も変わらず闇魔術的なアクセサリーもとい、呪具のような何かを作り続ける小夜ちゃんは、なんとも形容しがたい幸せそうな表情を浮かべている。


「小夜ちゃんって、百合好きだったっけ?」


「もともと好きだったけど、最近ね…詩葉さんと有栖さんたちのおかげで女の子同士っていいなって…改めて思わされてるの…」


私自身、女の子同士ということに強い拘りを持っている訳じゃないけれど、そういうのが好きで堪らない人たちにとっては私と有栖ちゃんの関係性って特別に見えたりするのかもしれない。

小夜ちゃんの言葉には一切の悪意が込められていないことがわかるから何とも思わないけれど、そういう特別を偏見と捉えてしまう人も少なからずいる訳で。


「小夜先輩、勘違いしないでね。私と詩葉がその…愛し合ってるのは、女の子同士だからじゃないんだから」


有栖ちゃんはどっちかというと、そういうのが気になっちゃうタイプの子なんだよなぁ。

というか、愛し合ってるとか言ってくれる有栖ちゃん可愛すぎる。


「分かってるよ…有栖さん。二人は、女の子同士だからじゃなくて…ただお互いのことが好きだから愛し合ってるんだよね?


「まぁ、そ、そういうことよ。わかってるなら、それでいいんだけどね」


恥ずかしくなったのか、有栖ちゃんは顔を真っ赤にしている。

愛しくて今すぐちゅっちゅしたい。


それを見て小夜ちゃんは思うところがあったのか、うんうんと頷きながら。


「性別なんて関係なくて…人として、純粋に惹かれ合ったから愛し合っている。いいね…そういうのすっごくいい…性別を超えた愛情がただそこに存在しているということ。他人の価値観なんてどうでもよくて、ただ二人の世界では二人の愛情だけが不文律となる。二人の愛に勝るものなど世界には他になくて、ただ二人の愛だけが真実…あぁぁぁぁ、すごい…それが…どゅわふ…」


いつになく饒舌になった小夜ちゃんの鼻から、盛大に鼻血が噴出する。


「ちょっと、小夜先輩!大丈夫?」


「ごめんなさい…大丈夫…ちょっと興奮しちゃっただけだから…ティッシュありがとう有栖さん…」


「ほんともう、馬鹿なこと言うのは詩葉だけで十分なんだから。変なこと考えて興奮するのもほどほどにしてよね」


呆れ顔の有栖ちゃんとにやけ顔の小夜ちゃんも、何だかんだ仲良さそうにしている。

有栖ちゃんが小夜ちゃんに突っかかる構図は変わっていないけれど、その雰囲気は以前のギスギスしたものとは打って変わって、お互いにお互いを信頼しているからこそのお約束みたいなものに変わっている。


「うたありだけでも精一杯なのに…これ以上たくさんみかコメまで供給されたら…私、どうなっちゃうんだろう…どゅふ…」


小夜ちゃんはまた二度三度と鼻血を噴出していたけど、百合妄想で鼻血出せる人って実在したんだなぁと感心してしまうばかりである。

あと、個人的にはうたありとか、みかコメとか、私たちの関係を略すのはなんかいかがわしさが増していいなぁって思うよ。

うたありの薄い本下さい。


「私たちのことや、略名は別として、みか姉とコメットちゃんの雰囲気が良い感じなのは素敵よね」


「そうだよね、有栖さん…というか…有栖さんもいける口…でしょう?」


「まぁ、嗜む程度にはね」


有栖ちゃんと小夜ちゃんは歴戦の兵士のようなどこか精悍な顔つきで握手をしている。

同じ嗜好を愛す思考を持った至高の同士…とでもいったところだろうか。

戦友みたいで、そういうのいいなぁ。


「お姉ちゃんとコメットちゃんは作業に熱中して私たちの会話なんて聞こえていない様子だけど、本当に熱中してるのは一体何になんだろうね」


「あれ?詩葉さんも…こっち側…なんだね?」


「勿論、だよ」


そりゃあ私だって百合ものの一つや二つは履修している。

主にえっちな方面で。


「みかコメ、いいよね。おねロリってちょっぴり背徳感あって興奮するし」


「ふひひ…そうだね…今は美歌子さまがコメットちゃんに色々教えてあげてるけど…夜はそれが逆になったり…」


「ちょ…二人とも、えっちなのはいけないわよ。おねロリはプラトニックな関係だからいいんでしょ。指先が触れあうだけで鼓動が高鳴るような純粋さこそが尊いんじゃない」


「「わかる」」


「うたちゃんたち、さっきから全部聞こえてるわよ?」


作業に熱中しているように見えたお姉ちゃんは、下世話な話題に花咲かせていたこちらの会話をちゃっかり聞いていたらしい。


「そりゃあお姉ちゃんだって、女の子同士の恋愛は大好きだし、レズセックスについては誰よりも興味があると自負しているわ。なんならうたちゃんと有栖ちゃんがお部屋に二人きりになった時は愛情のままお互いの身体を激しく求め合わないかどうかいつも耳をそばたてて興奮しているわよ?」


やっぱりお姉ちゃんはブレないなぁ。


「だけどね、お姉ちゃんとコメットちゃんは、そういう関係じゃないんだから。私たちはあくまで大切な家族よ。ね、コメットちゃん?」


確認するように、自分に言い聞かせるように、お姉ちゃんは言う。


「家族…はい、そうなのですよ」


一瞬戸惑いの表情を浮かべた後、コメットちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべた。

そこに込められた感情を推し量ることは難しく、果たして彼女がどのように考えていたのか、私には断定することは出来ない。

家族という言葉が嬉しかったのか、それともそれが悲しかったのか。

或いはその両方か。


二十五次元の存在で、この世界の観測者であり調停者であるコメットちゃん。

私たちよりも遥か高次元に生きる彼女の感情というものは、その形を私たちと大きく違えているのだろうか。

時々それが、不安に思う時がある。

彼女のことを信頼していても、私たちの見ている景色と、コメットちゃんの見ている景色には大きな隔たりがあるという現実を改めて直視すると無性に悲しくなる。


コメットちゃんにとって、私たちと暮らしている時間なんていうのはほんの一瞬に過ぎない。

もしかしたら一瞬ですらない、限りなくゼロに近いものなのかもしれない。

悠久の時を生きる彼女の時間感覚では、人の生きられる数十年という時間はあまりにも短い。

長い長い彼女の時の中で私たちは本来、ほんの取るにも足りない存在でしかないのだろう。

広い世界を見渡す彼女にとっては、この地球という星の、人間という一生物それそのものに、価値なんてものは抱かない。

きっと、海岸の砂粒にも満たない、あっても気にも止めない砂礫に過ぎないだろう。


だけど私は、コメットちゃんが本当に私たちのことを大切に想ってくれていると、そう思えてならないのだ。

私の勘違いに過ぎないのかもしれないけど、いつだってコメットちゃんは私たちのことを考えてくれている。

そうじゃなければさっき浮かべたような、複雑な表情を浮かべられる筈がないと、私は考えてしまう。


私の見ているコメットちゃんは、本来のコメットちゃんではない。

あの銀髪の可愛い女の子は、高次元に生きる彼女がこの三次元世界に干渉する為に取った姿でしかない。

いつだかコメットちゃんは私を安心させる為に彼女は彼女自身なのだと教えてくれたけど、それでも私は、本当のコメットちゃんのほんの一部しか知らない。

彼女の浮かべる表情や愛おしい仕草、その綺麗な笑顔や、楽しそうに目を細めるあの幸せそうな姿は全て、この世界に投影されたフィルム映画のようなもの。

たとえどんなに美しくても、それはコメットちゃんのほんの一部を切り取った作り物でしかない。


私の見つめる先、コメットちゃんは物憂げに、お姉ちゃんのことを見つめている。

たくさんの感情が込められたように見える、儚げな横顔。

もし、私の見ている世界がそのまま全て、ありのままで正しくどこまでも美しいのならば、コメットちゃんがお姉ちゃんに向けるあの視線は、恋であると、そう思ってしまう。


それは私の、幻想でしかないのだろうか。


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