4 Q.銀髪美幼女に猫耳がついてたらどうする? A.抱きつく(私調べ)
「ふわぁ~我が家はやっぱり落ち着くのです」
帰宅して早々に、コメットちゃんは制服姿のままリビングのソファーに寝転がってごろごろとしている。
既に私たちの家を我が家と呼んでいることからもわかるように、彼女はこの場所を随分と気に入ってくれているようだ。
「コメットちゃんってば、本当になんというか、慣れたよね」
平行世界の観測者にして調停者という、いわば人間の上位者たるコメットちゃん。
初めて出会った時から、その流麗な銀髪と星空を散りばめたかのような青い瞳の異様に彼女がこの世ならざる存在であることを感じさせられていたのだが、たった二週間ほどの時間でもって、彼女はこれ以上ないくらいに人間生活に染まっていた。
簡潔に言うのならば、少し、堕落していた。
「今日はお掃除頑張ってくたくたなのですよ~。しばらく動けそうにないのです~」
コメットちゃんはソファーの上で小さな身体を精一杯に捩らせて、仰向けになったりうつ伏せになったりとリラックス出来る体勢を模索し始める。
一通り試したあと、仰向けが一番落ち着いたのか、ぐでんと四肢をおっ広げて彼女は脱力。
「コメットちゃん、その体勢だとこっちからおぱんつ丸見えだよ」
「気にすることないのです。別に見られて減るもんじゃあるまいし」
乙女として大切な部分を全力全開で晒しながら寝転がる様は、傍から見る限りとても上品とは言い難い格好なのだけれど、彼女自身が気にしないと言うことならばまあ、それでいいかなぁと、私もそれ以上とやかく言うつもりはない。
何よりも、銀髪幼女のおぱんつを至って合法的に見ることが出来るのだ。
こいつは僥倖、見らいでか。
幼女の秘部を守るべくして存在する下着。
それはさながら、姫の御座す王宮を守護らんと侍る精悍な騎士のようなものだ。
ぱんつとはつまり王国の剣であり、盾であり、歴史に名だたる勇士さえも敬意を示す聖戦士なのだ。
それを見つめる私も、最大限の敬意を持って、この場に居なければならない。
幼女のぱんつを見るということは、死せる英雄に比肩しそれを打ち負かすだけの覚悟がなければならないのだ!
…自分でも何言ってるのかよくわからなくなってきた。
実際のところ、恥じらいなんて何もなさげに晒されるコメットちゃんのぱんつを見たところで、別段興奮もしなければ、勿論欲情するなんて以ての外、特別な感情を抱くなんて事はない。
本当だ。
うん、本当だ。
そりゃまあ、私が女の子だから彼女も気を抜いてこんな風にぱんつを見せてくれてるんだろうし、よっしゃぁ女の子に生まれてよかったぜ役得役得!とかは考えていたりもするけれど、それ以上の感情なんて存在しないんだからね!
「そう言えば今日さ、白昼夢みたいなものを見たんだ」
脳裡に浮かんでくる邪な感情を打ち消すように、私は昼間の不可思議な出来事を打ち明ける。
「学校の中庭でさ、ぼおっとして、しばらく動かずにいたみたいなんだよ」
あの時有栖ちゃんが探しに来てくれなかったら、私はもうしばらくの間その場所に釘付けになっていたかもしれない。
特別何か被害を被った訳ではないが、多少の記憶の混濁もあるし、ひょっとしたらこないだの吸血鬼の事件が関係しているかもしれない。
もしかしたら全く新しい異変や改変の影響を受けている可能性だってある。
「白昼夢を、ですか」
仰向けのコメットちゃんはだらけた表情から一点、理知的な青い瞳を細めると、暫しの間思考を巡らすようにしていた。
「まず、先日の吸血鬼の件が関係しているという線は無いと言っていいでしょう。あの時しっかりと詩葉の身体の異常は取り除いたので、それらが原因となって白昼夢を見せたということはまず考えられません」
気怠そうに、身体を起き上がらせながら続けて、
「そうすると自然、新たな異変や改変の類いが引き起こされていると考えるのが妥当でしょうね。ただ、詩葉の様子を見るに、外部から強い干渉を受けているような感じは見られません。詩葉が白昼夢を見たのは、一過性の異変であり、何者かに行き逢ったことが原因ではないかと思われます」
その何者かは、何らかの目的を持ってして私にコンタクトを図ったのだろう。
だが、コメットちゃんのいうところ、私に改変された痕跡のようなものが見当たらないことや、例の彗星の軌跡も見当たらないことから、現状これ以上の推測をすることは難しいらしい。
「そもそも、あの学校には私が目を見張るような改変が施されていたり、驚異的な怪異が存在するような形跡もありませんでした。しかし、今のところ特別問題が起きてはいないとはいえ、この間の吸血鬼騒動のこともあります、今以上に注意を怠らないようにする必要があるのです」
小夜ちゃんの起こした吸血鬼騒動。
幸いなことにコメットちゃんが迅速に動いてくれたことで、私は一時的に吸血鬼になりさえしたものの、それ以上の何かを失ったり傷つけられたりすることはなかった。(全身丸焦げにはなったし、貞操の危機ではあったが)
だけれどコメットちゃんは、日常的に彼女がすぐ傍に居たにもかかわらずに私を騒動に巻き込ませてしまったことに酷く負い目を感じているらしい。
何度も気にしていないとは言っているのだが、観測者であり調停者だのを名乗っている手前、私のことを少しでも危ない目に遭わせてしまったことが許せないようだった。
「ひょっとしたら詩葉は、異変や怪異、改変なんかに巻き込まれやすい体質をしているのかもしれません。その理由は今はわかりませんが、とにかくこれからは私はなるべく詩葉の傍を離れないようにするのです」
「それってつまり、いつでもコメットちゃんと一緒にいられるって事だよね?ラブラブだね!」
「……まったく詩葉の脳天気さには嫌気が差してくるのですよ」
「え~?酷いよコメットちゃん…私はこんなにコメットちゃんが好きなのにぃ…」
「ほんとに、詩葉っていう人は仕方の無い人なのです」
コメットちゃんは呆れたように微笑んでいるが、その顔はちょっぴり嬉しそうでもあった。
そんな可愛らしい彼女の表情を見ているだけで自然と笑顔になれる。
「にやにやして気持ち悪いのですよ」
「別に、気持ち悪くてもいいもんね。コメットちゃんはとっても可愛いよ」
「知ってるのです」
「あらまぁ、自信たっぷりなこと。それなら頭なでなでしてあげましょうね~」
コメットちゃんのふわりとした柔らかな銀色の髪の毛を優しく二度三度と撫でつける。
彼女はそれを少し鬱陶しそうにしながらも抵抗することなく受け入れてくれた。
目を細めて身を任せる様子は、まるで飼い主に甘える気分屋の長毛猫ちゃんみたいでとっても可愛い。
ふわりと鼻孔を擽るシャンプーの匂いは、私と同じフローラルの香り。
「コメットちゃんってさ、改変の力でお洋服とかあっという間に着替えられるじゃない?」
「そうですね。まあ、着替えるとはまた少し違うというか、あれは服を一度素粒子の状態まで分解して再構築しているのです。四つの力であるところの、強い力と弱い力を応用することによりそれが可能になります」
「ちょっと何言ってるのかよくわからないけど、つまりは見た目を自由に変えられるってことでしょ?」
実際に制服からいつもの民族衣装的な服に改変しながら彼女は、
「完全に自由に、というわけにはいきませんが、そこそこに自由度の高い力ではあると思うのですよ。改変している素粒子の絶対数は同じですし、あまりに大規模な改変は難しいですが」
コメットちゃんの言っていることは時々難しくて理解出来ないことがある。
でもまぁ、子供だましではなくきちんと説明してくれるところが彼女の良さであり、かわいらしさでもあるのだと思う。
「そしたらさ、猫耳生やすことって出来ないの?」
「猫耳、ですか。それは頭に猫さんみたいなお耳を生やすということですか?」
「そそ。そういうこと。例えばこんな風にさ」
スマートフォンを取り出し、お気に入りの猫耳っ娘のイラストを映し出す。
コメットちゃんは少し訝しげな表情をしながら、
「なんかこれって、いかがわしい感じの奴じゃないのですか?詩葉は、私のことを少しいやらしい目で見ている気がするのです」
「ち、違うよ!これはミネットちゃんっていって私の好きなイラストレーターさんの描いた至って健全なイラストだし、そもそも私はコメットちゃんのこといやらしい目でなんて見てないから、信じて!」
「ふうん、まあ、いいのです。例えば、こんな感じですか?」
訝しげな瞳でそう言うとコメットちゃんの頭上から柔らかな光が発せられ、たちまちそこに猫耳が現れる。
彼女の髪と同じ銀色の毛並みはふわふわもふもふで見ただけで最高の感触であろう事が伺える。
時折ぴくんぴくんと動いているのがあまりに愛らしくて、私は辛抱堪らず一心不乱にその毛並みを撫で回す。
「はぁ~~~可愛い!可愛いよ~~~!前からコメットちゃん、猫ちゃんみたいだなって思ってたの!絶対猫耳も似合うと思ってたから、理想が現実になってとっても嬉しいよ~~~!柔らかい!もふもふ!最高!最高だよコメットにゃん~~~!」
「あっ…やめるのです!耳の感覚、直に頭に響いてなんだかぞわぞわするのです…!だめっ…だめ…!」
私の華麗な指先テクニックによりもふられるコメットちゃん…もとい、コメットにゃんは心地良さに身悶えしている。
その様子は実際の猫ちゃんを撫でる時とはまた違った趣深さがあり、私の中のイケナイ扉が開く音がする。
「ここがいいの?ここが気持ちいいのかな、コメットにゃん?わかるよ。とっても蕩けた表情してるもんね。はぁ、はぁ、可愛い…可愛すぎるよコメットにゃんんん!」
「んっ…そこ、耳の付け根…なんだかおかしな気分になるのです…こんなの、知らない…!」
私はたった今、目の前の猫耳美幼女がイケナイ♡秘密の感覚を覚える最初の場に居合わせているのかもしれない。
私は一人の探求者として、彼女の未だ見つけられていない未知の感覚を究明する義務がある。
銀髪美幼女に、初めての快感を骨の髄まで刻み込むのだ!
忘れられない時間に、してあげるから、ね?
「もう、いい加減…やめるのですよ!」
我慢の限界が訪れたのか、つい先ほどまで弄んでいた可愛らしい猫耳は光に包まれ、音もなくたちまちに消えてしまった。
「ああ、せっかく可愛かったのに…」
「うるさいのです。やっぱり詩葉は下心満載じゃないですか。詩葉の変態。ロリコン。幼女姦淫罪で捕まればいいのです」
コメットちゃんは本格的にゴミを見るような目つきで私を睨み付けているけれど、幼気なその表情には先ほどまでのもふもふ猫耳カーニバルの快感の残滓が尾を引いて、ロリと淫靡さが共存する不思議な色彩を呈し、私の中の変態ロリコンマゾな部分を強く刺激してくれた。
その冷たい瞳が堪らなくきゅんきゅん来るよ。
ありがとう…ありがとう。
「こないだの吸血鬼騒動、詩葉は何が原因となっていると思いますか?」
暫く不機嫌そうにそっぽを向いていたコメットちゃんだったが、思いついたように一言そう呟く。
「うん?コメットちゃんが前に言ってたように、彗星が原因っていうことじゃないの」
突如現れた巨大天体。
それは平行世界同士を同一化させてしまうだけの恐るべき力を持っていたという。
その彗星の秘めた力が原因となって、吸血鬼という怪異が存在する何処かの世界と私たちの生きるこの世界が結びついてしまった。
それが小夜ちゃんや私が吸血鬼化してしまった理由だったのではないのだろうか。
「ええ、それはその通り、間違いではありませんね。しかし、彗星が平行世界を繋ぎ合わせることがわかっていても、その原理がわかっていません。詰まるところ、何を起点にして彗星の力が働いているのかがわからないのです」
答えがわかっていても、それを導く数式が組み立てられていないようなものだと、コメットちゃんは語る。
「ただ彗星が平行世界を同一化させるだけならば、この世界に吸血鬼が現れるだけです。この世界の人間である小夜が吸血鬼になんてなるわけがないのです。何らかの理由や原理があって、世界に改変が起こされている。彗星による異変は、何らかの法則性に基づいて引き起こされている筈なのです」
言われてみればその通り、平行世界には吸血鬼という特定の存在があるとしても、世界同士が同一化した時にもともと人間であった小夜ちゃんが突然に吸血鬼になるなんてことは無い筈だ。
ただ世界が繋がりあっただけならば、そこに種としての吸血鬼が現れるだけに過ぎない。
こちらの世界の道理が無理矢理にねじ曲げられることなんてないだろう。
「つまりそこには、誰かの意志が介在しているかもしれないってこと?」
「ええ。一つの推論として、それは正しいでしょうね」
平行世界の同一化が起こっても小夜ちゃんが吸血鬼になるなんてことが起こり得ないことなのだとしたら、誰かが意図的に彼女を吸血鬼にするように仕向けたと考えるのが自然だ。
誰かしらの意志がそこに介在していて、起こされるべくして小夜ちゃんの吸血鬼化は起こされたのかもしれない。
「小夜自身、置かれていたその状況から、吸血鬼になりたいという強い欲求があったようです。その強い欲求につけ込んで彼女を吸血鬼化することにより利益を得る第三者の存在を疑わずにはいられません。勿論、推測の域を脱しない話ではあるのですが」
小夜ちゃんが吸血鬼になったこと。
それは彼女の人間不信であったり、上手く人間社会で生きられないことへのコンプレックスから自らを吸血鬼だと信じ込んでいた事が少なからず関わっているのかもしれない。
果たしてそれらは第三者の意図によって仕組まれ引き起こされた出来事だったのだろうか。
そこに介在するのが善意であれ悪意であれ、私は、私たちを見つめる誰かの存在を意識しなくてはいけないのかもしれない。
私の見た白昼夢がそれに関係している可能性だって捨てきれないだろう。
むしろそれらを一連の意志の元に一括りに考えてしまった方が、より事実に近づけるような気さえしてくる。
私の見た彗星。
目眩く美しささえ纏った一夜の天体ショウ。
あの息を飲むほどに綺麗だった空を掛ける星は、誰かの悪意に染められていたとでもいうのだろうか。
宇宙規模、世界規模で引き起こされた未曾有の事態。
それは誰かの意志によって仕組まれた事だったのだろうか。
あの彗星が現れたこと、平行世界の同一化と破滅の危機。
それらが自然発生的に巻き起こった事象でないのだとしたら、どれだけ遠大な規模の思想に基づいて構築された計画なのであろう。
誰が、何のために、どうして、そんなことを考えついたのか。
今の私には到底理解出来ようもないけれど、どうか私の大好きな平穏が、日常が、これからもずっと続いてくれるようにと願わずにはいられない。
やっぱり私は怖いのだ。
この日常が壊れるかもしれないことを、強く恐れているのだ。
「少し詩葉のことを、怖がらせてしまいましたね」
私の心情を悟ったかのように優しげに微笑む青い瞳には、その幼げな顔つきに似合わない程の慈愛が満ちていて、私はまるで満天の星空を見ているかのような、宇宙的スケールの感慨を胸に抱いた。
「何があろうと、もう詩葉を危険な目には遭わせませんよ。約束するのです。世界は終わったりなんてしないし、明日も明後日も、詩葉は大切な人たちと一緒にいられるのです」
こんなにも泣きたくなるのは、どうしてだろうか。




