〜死してなおその身を捧げよ〜
東郷 秀樹は死んだ。
他人をかばって事故にあったわけでも不治の病と戦ったわけでもなく、
ただただ歳を取り、体が弱ったところに風邪をこじらせ死んだ。
それなりに長生きしたし、趣味である武道は定年後も続けることが出来、
自分の死を悲しんでくれる家族もいた。
ただ、この人生がそう終わろうと、この魂は"それだけで終わらなかった"ーー
ああ、夢を見ているのか。
走馬灯という言葉があるが、本当に死の間際に見るのは全く知らない不思議な光景なんだな、と東郷秀樹は思った。
眠りについた記憶はある。だが目を覚ましたわけでもなく、体を起こした気もせず、ただ気がついたら立っていた。
ひとつ不思議なことといえば、自分は明晰夢を一切見ない人間だったのに、これが夢だと自覚出来ている事だ。
「それは少し誤りがあるな、東郷」
なるほど、皮肉なほど鮮明な明晰夢だ。目を覚ますことが出来たなら自慢できるほどなのに。
「何を言う、貴様は既に目を覚ましているぞ?」
それにしてもへんぴな夢だ。男の声は聞こえるのに姿が一切見えないときた。
「ああ、なるほど。そういうことか。たしか百聞は一見にしかずという言葉があったな」
その言葉の後、前触れもなく現れる大勢の人間と山高帽を被り、眼帯をつけた男。
同時にRPGでよく見るような西洋風の酒場の風景が見えてくることで、今まで見ていたものに景色がなかったことに気づく。
「ようこそ、エインヘリャルへ」
夢というものは、まず知らない言葉が出てくることはないということぐらいは流石に東郷も知っていた。
初の小説投稿です。更新ペースも遅くなると思いますが、楽しんでいただけたら幸いです!どうぞよろしくお願いします