ぷろふぇしょなる
「さー始まりました、心霊特番
真夏の恐怖体験第二弾
今夜のゲストは、新鋭爆発売出し中のアイドル 鯖流 さばながれ 夕子さんです」
スタジオ内の照明は暗く、異質としか言いようのない発泡スチロールで、作られた
ごてごてしいセットが、出演者を、取り囲む壁となっていた
「えー、夕子ちゃん、今日は、初となる心霊スポットレポに、行って来て貰ったみたいだけど
大丈夫だった」
金色の髪に、何個もの髪留めを、結んだ
ふわふわしたスカート姿の少女が、前かがみになって
両手を、胸の前であわせて
「こわかったでーす、とっても」
と言って、スタジオ内の雰囲気を、笑に変えた
「そうですか、では、夕子ちゃんのレポートは、後程、まずはじめは、いま世界中で見つかっている
未確認生物UMAに、ついての映像です、どうぞ」
司会の男が、前のカメラに向かって、手を付き透けるポーズをすると
真ん前に座っているディレクターの横の画面が映り始めた
「ねーさばちゃん、大丈夫ー、緊張してなあい」
うすいどの入ったサングラスを、かけたディレクターが、ストレート姿の鯖流の
肩に手を回して、山奥を走っている白いバンの中で話しかけた
「ええ」
鯖流は、硬い声で答えた
二人の後ろから声がして
「すいませんディレクター、この子緊張ばっかで、すぐしくじるから
今日はよろしくお願いします」
ディレクターは、鯖流のマネージャーに、軽く手を振り
「のーぷろぐれむ」と言うと
前の座席のポケットに入れてある黒い炭酸飲料を、キャップを開けて口に含んだ
「僕が付いているからね、鯖ちゃん」
「はあ」
緊張の為か鯖流の声は堅い
後ろから怒りを含んだ声で
「お願いします、ありがとうございます、でしょうが、何回言ったらわかるの、鯖流
今度行ったら首よ、あなたみたいにプロ意識が無い人は」
ディレクターが、ペットボトルにキャップをして、
「まあ、まあ」とその場を、鎮静化させてようやく怒りは、おさまったようだが
その目はいまだに三角であり
鯖流がは、前を見たまま固まっていた
「それで、先生、生物学者的にみて、あれは、いかがなものなんでしょうか」
白髪の老人が、髭をなでながら
「ありゃ、無理ですな」
司会者が、聞き返す
「無理と言いますと」
軽蔑を含んだ目を司会者に向けて
カメラ目線で、話し始める生物学者
「まず、あんなものが、水中から陸に上がろうとすれば」
アナウンサーの馬鹿っぽい顔の花田が
「あっこれあれかも」と言うが
会場ないのだれからも無かったことにされる
「自重でつぶれ」
「ゴジ・・」
カメラの見ないところで、花田の足を司会者が、踏みつける
「いたーい、何するんですか和田さん」
「そうですか、ありがとうございます
自重ですか先生では、次のVTRです」
不服そうな顔の生物学者と花田アナウンサーである
「本当に、出そうで、怖いです」
撮影の面々は、トンネルの前に居た
カメラを回す前では、鯖流は、一人ぽつんとトンネルの入り口に立っていた
「じゃあ、入ります」
鯖流は、そう言うと、ゆっくりとトンネル内に、入るが
それを止める声がした
「お祓いをしておきます」
でっぷりと太っ女性が、そう言うと、白い紙が付いた棒を、二三度ふる
「低級の霊が、飛び回っていますが、これで大丈夫でしょう」
手に持っていた数珠で、手を合わせると
大きな声で
「メツ」と叫ぶと、トンネル内に
手を向けて
「どうぞ」と言う
「ありがとうございます」
鯖流は、そう言うと、歩みを進めた
「死者三人 犯人今だ見つからず」
新聞にそう書かれた見出しを、髭を生やして、うすい色の入った茶色のサングラスをした男が
新聞や本ビデオに囲まれた部屋に置かれた机で読んでいる
「森に囲まれたそのトンネル内には
皮 肉 骨 目 髪 臓物 血 などに分かれたものが
トンネル内で、爆発したように、飛び散り、道 壁 天井に付着していた
その状態で、死者の特定は、難航を極めたようだが
バラバラになった歯を、集め砕けた頭蓋骨に合わせた事でようやく特定は出来たが
残りの二人は不明
今年で、時効が過ぎる今、この事件も迷宮入りになるのだろうか」
男は、顔を上げると別の記事を、あさり始める
いよいよ男の顔色は深刻になっていく
「コワイデス」
硬い表情の鯖流
マネージャーの眉間にしわがよる
ところどころ破片になったゴミが、落ちており
壁から染み出た水が、さらにそれらと混ざり
異様な雰囲気を醸し出している
(いやだなー)
鯖流は思っていた
鯖流の家は、代々悪霊物の怪の類だけを、払う寺の生まれであり
彼女は、その家の中でも、最強と称されていたが
坊主になるのが嫌で、寺を飛び出してきたのだ
それでも、一通りの技術は習得していたのだが
そんな彼女が、明らかに嫌なものを、感じ取っていたのだ
(入口にいるときは、上手く隠せていたみたいだけど
この中、まるで、体内にでも入っているみたいだ)
彼女の視界に移るのは、汚いトンネルではなく
力が圧縮されてうごめく異界のような姿だった
そんな、いつ死んでもおかしくないような状況でも
彼女の心にあるのはただ一つ
アイドルその一言だつた
いま彼女は、必死に、経を、唱えながら
なおかつ笑顔を、振りまいていた
アイドルたるものどんな時でも笑顔で
マネージャーに言われたことでもなり
子供のころからの夢であったアイドルは、決して素など見せない物であった
家出した先で拾われた時、本当に自分がアイドルになれるなんて思ってもみなかった
それが今
「今のところ何もいませんね」
霊能力者が、後ろの方で言っているが
今まさに、ダムの水圧のような力だが
トンネル内の全員を、押しつぶそうとしているのを
鯖流一人で、一人ひとりを、守る形で、受け流していた
もしそれをしなければ、すぐに体は、離散するだろう
「プロデューサー見てください、画面が、ゆがんでるし、時間が、狂ってます」
プロディーサーは、あきれたように、肩をすくめ首を振ると
「今時そんな小細工じゃ視聴者は通用しないよキャメラちゃん」
否定するカメラを、よそ目に
鯖流は、力の流れを変え
カメラマンの空間を、ゆがめた
その鯖流の目の前に
首から上のない小さな女の子のようなものが立っていた
「ナニ、オマエ、デテイケ」
機械音を混ぜた様なその声は
鯖流に届いた瞬間
波が引くように、トンネル内の力が
彼女にある丸せつな
それは、点となり、鯖流に、突撃した
鯖流は、何重にも唱えた経を
水のように、水銀のように、マグマのように、密度を濃くし
そして別のモノへと変えて行った
「鯖ちゃん、もっと演技して」
プロデューサーの声に、苦笑いとも取れる笑みを浮かべたが
すぐに、「こわーい」ときゃぴきゃぴした
彼女から放たれた力は、方向を変えると
まるで、ピンホールから光を当てるように
それはトンネル内を、暴走し
面となり彼女の痕跡を、消え去った
「はーい、一時中断です」
現場のスタッフが、撤退を、開始した
「怖かったんですよー」
鯖流が、司会者に言う
「でもですね、本当にすごかったのは」
スタッフが、全員出終わったのを見計らうように
トンネルが崩壊を始めたのだ
新聞記事には、劣化が、原因であり
管理問題を、指摘していたが
実際には、いつ崩れてもおかしくなかったのか
それとも、あれが、パンパンにトンネル内を、外側に押し出していたのが
消えて、崩れたようなものだと鯖流は思っている
「本当に良かったですー」
司会者は「本当だよ」と鯖流に言って、コーナーを締めた
「おかしいな」
髭面の男が、顎髭をこすりながら
呟く
先日崩壊したはずのトンネルが
見事にそこには、古びた容姿で再建していた