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第8話

大変お待たせいたしました。

どうぞお楽しみください。

~~~―ザザ―~~~~~~~~―ザ―~~~~~―ザザ―~~~


『―ザザザ―様、この巨大な―ザザ―はなんですか?』


             ―ザザ―


「―ザ―霊機、そのうちの一つ―ザザ―だ。私は間違っていたのだ……―ザ―は愚かにも―ザザ―から幸せを奪うことにした……だから一度―ザザ―するのだよ……」


        ―ザ―


『そんな……―ザ―中には―ザザ―方も居ます! 幸せを誰よりも願った―ザザザ―様が何故!?』


「一度滅ぶ必要がある」


                       ―ザザ―


『どうして……』


「……奴らは戦争に使うと言い出した……大切な娘たちを……」


  ―ザ―


「そ、それは……」


「これは制裁であり、報復であり……私への戒めなのだよ……さあ、次の場所へ行こう……」


~~~~~~~~―ザ―~~~~~~~~―ザザ―~~~~~~~~



『(また記憶の夢ですか? 先ほどの場所は先日の遺跡に似ていましたが……酷く胸が痛む気がするのは何故でしょうか……)』


――遺跡都市「ルイーナ」

地上部分には街の遺跡を補強、改修して作り上げた巨大な都市がある。

うら寂しく、悲哀を感じる外観とは裏腹に、建物内は住みやすく活気に溢れた街。

地下には同じく巨大な遺跡が広がり、最奥までたどり着いたものは誰一人としていない。


「すごいねコレ……」


【遺跡の中はもっとすごいぞ】


『まだ誰も奥までたどり着いていないんでしたよね』


『オン』

何か見つかるといいね、と言っているようだ。



【ああ、所々崩れていて思うように進めない上に電気が使えない。人間はくらい空間に長期間籠るとストレスがマッハだそうだからな】


「何語だよそれ……」


『まるで自分は人間ではないような言い方ですねアベルさん』


【こんな形で人間はないだろうよ】


『クゥーン……』

そんなことないよ? と慰めているらしい。


「はいはい、そこまで。今日の宿決めてさっそく探索に行こうよ!」


『そうですね』


【む……そうだな】


『オン!』

がんばるぞー、と言っているようだ。



ギルドで遺跡探索の受付を済ませた一行は遺跡入り口に来た。

地下へと口を開く入り口は得も言われぬ威圧感を放っている。


『(ここは見たことがありますね……一度グランドマスターに連れてこられた場所でしょうか)』


「アリス、ボーっとしてどうしたの?」


『え? いえ、なんでもありません』


「そう? 体調悪いなら言ってね、大したメンテはできないかもしれないけど」


『はい、ありがとうございます』


【おーい、何してる? 早く行くぞ】

既にハッターと階段を下りていたアベルはユテリ達に手を振っている。


「あ、今いくよー」


『(降りて見ればわかります……か)今行きますよー』



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



降りた先は広大な地下空間で彩られていた。

何処までも伸びているような通路の左右には当時、人であふれていたであろう施設が並んでいる。

電灯は全てダウンしているので奥に行けば行くほど闇が広がっていた。


「へー、ここは服飾関係かな? あっちはなんだろう」


【あっちは確か見た限りでは装飾品関係だったぞ】


「ふーん……あ、本当だ」


『(向こうには食事処、それとアミューズメントでしたか……やはり記憶に残っていますね……)』


「あれ、アリス? 離れたら危ないよ、ハッターついて行って」


『オン!』

まかせて! と言っているようだ。


『(あ……これ、懐かしい……でも何故でしょう、見ていると物凄く胸が痛くなります……)』

アミューズメント施設の瓦礫の中でアリスは一体のぬいぐるみを見つけた。

白と黒の色が半々で分かれた熊のぬいぐるみ。

白い部分はかなりすすけていて、元を知らなければ嘗てそうであったとはわからないだろう。


『あ……』

手に取るとそれはグズリと崩れてしまった。


「なにか見つけたの? ぬいぐるみ?」


『ええ……劣化が激しく、崩れてしまいましたが……』


「ああ……そっか……」


【何かあったか?】


「ううん、なんでもないよ。アリス、行こうか」


『……はい』

一行はどんどんと歩を進めていく。

所々はアベルの解説を聞きながら特に目ぼしい物もアクシデントもなく進んでいく。


【っと、ここまでかな。俺はここから先には進めなかった】


「なんで?」


【まずはこの瓦礫の山だな、俺はこれをどかす術がなかったのが一つ】


「これは機械腕でなんとかなるね、ほかには?」


【ここから先はさらに地下に潜る、一人だと流石に色々危険だと判断した】


「なるほどね」

眼前に見える下りのエスカレーター。

ただでさえ光源が持って居るライトのみの状態ではなにかあった時に不利になる。

今はハッターが索敵してくれている上にライトの機能もついているからほかの面子は即座に対応できるように準備しておくことが出来る。

この差はかなり大きい。


【にしても、このA-JAXはかなり便利だな】


「ハッターだよ」


【ああ、そうだったな。すまんハッター】


『オン』

気にしてないよー、と言っているようだ。

瓦礫をどかし、一行は未知なる階下に足を踏み入れる。


「お? これって……」

機械関係の施設を発見し、ユテリは中を物色し始める。

奥の倉庫と思しき場所には地下洞窟とはまた違う部品や人形がかなり良い状態で残されていた。

その中には今ユテリが持って居るPDAよりも高性能なものもあった。


「おー! これも使える、これも! うわぁ、こんなに持っていけないよぉ……」

充分に歴史的な価値を持っている品々が荒らされることもなく大量に残っている事態にユテリは子供のようにはしゃぎ、どれを持っていこうかと吟味する。

PCの中に含まれているデータも過去を知る情報という名のお宝だ。

持っていかない手は無い。


『殆ど手つかずですね、そういえばギルドで地下二階には出来るだけ行かないように言われましたが……なぜでしょう?』

実はここに来る前に遺跡探索の許可を取った際、職員の人に注意されていたのだ。


アリスの疑問は尤もだ。

実際進んでいる人物はいるらしいのだが荒らされた形跡のない施設。

つまり、調査はするが帰ってこないという事ではないかという推測がなされる。

実はユテリ達は気づかなかったが、退かした瓦礫は他と比べると新しかったのだ。

これが意味する答えとは


【……ん? ハッター……アソコを照らしてくれるか?】

アベルは向かいにある施設に目を向けた。

ソコは料理屋と思しき場所であった、状態はかなり良い。

だが、廃墟遺跡と化してからずいぶん経っているはずのその場所には似つかわしくないモノが転がっていたのだ。


「アベル、どうした……え?」


『遺体ですね』


【腐敗も始まった様子はないが……これじゃあ腐りようもないか……】


『なんでしょうか? この遺体には違和感を感じるのですが……』


【保存食だな】


遺体はゼラチン質のようなものでコーティングされていた。

所謂煮凝りのような感じになっている。

そのおかげか中身の鮮度はかなり良い状態で保たれているようだ。


「え? それってまさか……」


【職員の言っていたのはコレのせいか……これは一旦脱出した方がいいかもしれん……ハッター、あそこを照らしてくれるか?】


『グルルル……』

いつの間にかハッターは警戒体勢に移行している。

さっきまで特に警戒した様子はなかったのだが、何かが索敵範囲に入ったのだろう。

途端に緊張が辺りを支配する。

アベルが示唆した場所に明かりが向くとユテリは驚愕した。


壁の一部が崩れ、周辺には他の人物のものと思しき遺体の一部が散乱している。

そのどれもが今側にある遺体と同じくゼラチン質のもので覆われている。


「まさか、溶解鼠(ディソルブ・マウス)……」


【だろうな、これはマズイ……早く出るぞ】

アベルの言葉を聞くと同時にユテリ達は元来たエスカレータに向けて駆け出した。

キイキイという声が徐々に聞こえ始める。

『ウォォォン!』


【ナイスだハッター!】

ハッターの放った粒子砲は料理屋の入り口付近の天井を破壊し、瓦礫の雨を降らせる。

ギィィ! という声と共に何体かの個体が圧しつぶされたようだ。

そのわずかな時間に階上へと駆け上がり、アベルは階下に向き直る。


【ユテリ、瓦礫を戻せ! アリスとハッターは遠距離で上がってこないようにしてくれ俺は抜けてきた奴を潰す!】


「わかった!」


『了解しました。ユテリ、ウィンチェスターを!』

ざわざわと音が聞こえそうなほど数を増やしながら階上を目指して駆けてくる先頭の鼠をアリスは正確に撃ち抜く。

倒された仲間の死体を踏み台に止まることのない鼠に向けてハッターが粒子砲でまとめて薙ぎ払う。

余りに出力を上げ過ぎれば崩落し、巻き込まれる危険もあるので最大の効果は出せていない。

アベルは二人の狙撃を手助けするように義手のガトリングを放ちつつ掻い潜ってきたモノを地上に出すまいと愛用の大剣を揮い、斬り伏せていく。


【フン! ユテリ!】


「わかってるよ! それぇ!」

ユテリはアベルの意図を酌み、大き目の瓦礫で出来るだけ円に近いものの一つをエスカレータに向けて投げつける。

勢いの付いた瓦礫は登ろうとしていた鼠を引き潰しながら階下まで落ちて行った。

壁に張り付いたりできるような変異体で無いのが幸いだろう。

なんとか一体も外に出すことなく封鎖することに成功した。

死んだ鼠たちはシュウシュウと煙を吹きながら自らの体液で蒸発していく。


「た、たすかったぁ……」

ユテリはへなへなとその場にへたり込み、安堵の声を漏らす。

アリスは鼠が居た場所を調べている。


『死骸が残って居なかった理由はこのせいですか』


【ああ、これがコイツの厄介な性質でな。死ぬと跡形もなくなるから食い残しとかでしか判断できん】


『この酸のような体液で死体の肉を溶かしてゼラチン質に変えて保存するのですね』


【そうだ、それでついた名前が溶解鼠だ】


「ああ……お宝がぁぁ……」


『……対策を考えてまた取りに来ましょうね、ユテリ』


【幸いアイツらは普通のネズミのように自分で壁に穴をあけたり出来ないから、まあやりようはあるだろうさ。だから落ち込むな】


『オン』

元気出して、と言っているようだ。


「うん……でも、一個持ってこれた」

あのどさくさで即座に小型のPDAだけはポケットにねじ込んだらしい。

そのかなりの逞しさにアリスたちは溜息をもらしたのだった。

――溶解鼠

体長50センチほどのネズミ。

肉食、食べきれなかった肉は溶解させて煮凝りのようなゼラチン質にし、保存する。

巣に近づくか、巣のそばにある罠(保存した死体)に近づくと襲い掛かってくる。

コイツに襲われてしまった場合は二次災害を防ぐために仲間の遺体を回収するのは止めておいた方がいい。

その遺体は新たな食料を手に入れるための罠に他ならない。

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