第7話
お待たせしました。
第七話です。
物語の進みが遅い気がします。
ユテリは今施設の備品倉庫……という名の物置を漁っている。
『(そう言えばグランドマスターは整理整頓が苦手だった記憶が……)』
目の前の光景を見れば頷けるというもの。
事実、色々なパーツに紛れて生活雑貨から娯楽雑誌、果ては手に入れたはいいがどうしたらいいか分からなくなって放り込んだと思われる謎のオブジェなどなど、大凡節操があるように思えない状況。
しかし、ユテリにとってはこれら全てが宝の山。
適当に放置されていたにもかかわらず、状態が良いものが多々あるのだ。
逆に手つかずだったのが良かったのかもしれない。
「おお、これは日ノ本製のエンジン! こっちは……嘘、錬金炉? 本物!? これは……快〇天? 200年前の雑誌かぁ……よく劣化せずに残っていたなぁ……うわ……これエッチな本じゃん……」
『(あの本はタナカ様の趣味でしたか? ……タナカ様って誰でしたっけ)』
[いつもあんな調子なのか?]
『いえ、今日は殊更にハイですね』
『くぅーん』
ああなると暫く止まらないよ、と言いたげだ。
[そうか……]
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いよし! できたー」
『いつもながら流石ですね』
「設備がかなりいい状態で生きてたから楽だったよ。さあアベルさん、これを」
[これは?]
「人工声帯だよ。マスク型にしたから顔も隠れて一石二鳥!」
どこに機械が使われているかわからないくらいの代物。
防具や素性隠し用と言われても違和感ないくらいのモノが出来上がっていた。
【これで喋れ……てるな。これはスゴイ……】
「アリスにはコレ」
『これは……』
「機械兵士の腕に取り付けるタイプだったのを携行出来るタイプにカスタマイズしてみたよ」
空気圧縮機構や諸々の威力を出すための重要機関はそのままに、まるで重火器のように使用できるように作り変えられたパイルバンカー。
見た目的なものをいうならば昔吸血鬼の姫様が出てくるゲームに出てくるカレー好きな娘が持って居た形によく似ている。
ここまでくると魔改造というレベルな気がするのは気のせいだろうか。
『なんか……コード〇クウェア! と叫びながら突っ込みたくなりますね』
「よくわからないけどそれはやめた方がいい気がするよ? うん。で、ハッターおいで。つけてあげるから」
『オン!!』
遂に私もまともに戦えるのですね! とでも言いたそうなハッター。
尻尾が喜びを隠せていない。
これひょっとしてアリスと同じAIでは無いのか?
【しかし、なぜマスク型にしてくれたんだ?】
アベルの質問にユテリは手を止めることなく返事をする。
「うん? いちいち取り出すの面倒でしょ。それに、マスクつけてフード被っとけばよっぽどのことが無い限り変異体だってわからないと思ってね」
【それは確かにそうだが……】
「そのまま人前に出れば変異体とばれる、言葉もしゃべれない。だから盗みを働いたんでしょ?」
【……恩に着る】
「よし、ハッター出来たよー。あとは……アベルさん、左腕貸して」
【!? 気づいていたのか……】
「A級の傭兵でアベルって聞いた事あるなーって考えてたんだけどね。”鉄腕のアベル”でしょ?」
【俺も有名になったもんだ】
「他にも”无二太刀”とか”断絶”とか呼ばれてたよね」
【恥ずかしい限りだ……その二つ名は正直勘弁してもらいたいよ。ほら、左腕だ】
「ありがと。うわー……コレよくもってたね……もう少しでオシャカだよ……げ、この腕えげつな……」
装甲板を外して内部を露出したユテリがアベルの腕の秘密を知って驚愕している。
一定の操作をすることで肘から先が可変して回転式の銃身に変わる機構が備わっていたのだ。
勿論装着者は神経回路と直結なので己の意思一つで可変させられる。
【その機構は奥の手だな。しかしそんなに危なかったのか……確かに最近は駆動系の反応が鈍いと感じていたが】
「関節部の緩衝材の摩耗に神経伝達回路の劣化、装甲部分も痛みが激しいね。あとこの銃身は取り換えたほうがいいよ、このままだと暴発する。」
ユテリはカチャカチャと手早く分解し、劣化したパーツを取り換えていく。
「幸いにもここには部品が売る程あるから今銃身も何とかするね。いやー、でも強さの秘密は剣のみじゃなかったのかー」
【怯ませたり近づくのが難しい相手にはよく使っていたよ。まあ、止めは剣だからそっちの方が目立ってたんだろう】
足りない部分は他からばらすことになる。
バラすの勿体無いよう……と嘆きながらもテキパキと作業していくユテリ。
「はい、使い方にもよるけどこれで後5年はメンテナンスいらないよ」
まるで新品のようになった腕をもとの位置に取り付け、アベルは少し動かして具合を確かめる。
【すごいな……まるで自分の腕のように思い通りに動かせる。初めて付けた時よりも反応がいい】
「そう言えばそれ、誰かが作ったの?」
【いや、大陸の南の都市遺跡に行ったときに発見した。最初は売るつもりだったんだが変異体との交戦中に些細なミスで腕を失ってね】
「それで自分で使う事にしたと……構造やギミックは日ノ本の浪漫工房みたいに感じるんだけどちょっと違うんだよね」
【そうなのか?】
「うん、義手にしては精工すぎる。よく見れば機械だってわかるけど」
『それは人形の腕ですよ』
「え?」
パイルバンカーの具合を確かめていたアリスが唐突に口を挟む。
『それはセバスの腕です』
【セバスの腕?】
『私たちアリスをもとに別の会社が作ろうとした男性型アリスのもので、武器を持って居ないように見せかけておくのです。結局セバスシリーズは途中で開発が止まりましたが、用途は主に要人警護のSPだと。試作段階のものだと思われますので機械っぽさは残ってますが』
「なるほどね、セバスか……初めて聞いた。しかし、武器を携行していないように見せて襲ってきたらハチの巣か……意地が悪いね」
『AIが作れず、どうしても人工だとバレてしまうのが凍結の理由だと記憶に残っています』
「それだけアリスのAIが優秀なんだね」
『いえ、解析しようとしてあるプログラムに触れると全てデータが無くなるようになっていたのでどのような作りをしているのか最後まで分からなかったそうです』
【用心深い開発者だったんだな】
『グランドマスターは自分の子供の様に接してくださいましたから、そのような扱いを容認できなかったのでしょう』
「でも軍事利用されたんだよね……」
『それは仕方ありません、人間に従順に仕えるようになってますのでどのように不当な扱いでも断ることが出来なかったのです』
「でも、成長するAIなら嫌な事は嫌って思わなかったのかな?」
『人間でもそれが正しいと教え込まれれば、たとえ周りから見て間違いでも自分にとっては正解になってしまうでしょう? 私たちアリスも間違っている事を正しいと何度も言われればそうなってしまうのです』
【……洗脳みたいなものか……嫌な話だな】
伝記では伝わっていない、歴史の裏の黒い部分に触れた気がした。
結局災禍を引き起こしたのは人間が欲深で傲慢だったからに過ぎないのだと二人は悟った。
伝わっている話しにも最後にはこう括られている。
「一定の文明を持ちながらも人々が支えあう事を忘れた時、我らは再び現れる」と。
これは戦争を表しているとおもわれる。
いつだって戦争の被害者は上の人間ではなく、その場所に住んでいる力なき民なのだ。
一部の力ある人間が、多数の力なき人間を糧にすることを良しとしない。
力を持つ者が下の人間の事を考えているならば問題はなかったはずだ。
力を持った人間が自らの欲望に従って多くの犠牲をだしたからこそ、それを上回る圧倒的な力によって潰された。
そういうものだと推測できる。
「……なんかな……いいや、湿っぽくなっても過去は過去だ! ところでアベルさん」
【アベルでいい、微妙に敬語が混じって気持ち悪い】
「ん、じゃあアベル。ここって抜け道あるよね?」
【あるぞ、じゃなかったら俺はあのサハギンの巣を通って食料を盗んでくる羽目になったからな】
「OK、予想通り。死体は持っていけないからタグだけ取って、食料は持っていけるだけ持って町に返そう」
【……わかった】
「大丈夫、アベルは矢面に立たせないから安心して」
【しかし、犯罪は犯罪だろう】
「悪いと思うけどでっち上げればいいよ」
【いや、それでは申し訳が……】
「その代わり、アベルは私たちの旅に付いてきてくれないかな?」
【? 見たところ戦力の不足は感じないが……】
アベルは先の戦闘を見ている。
小柄で弱そうに見えたアリスが八面六臂の活躍をして、後方からユテリが援護する。
ハッターが遊撃を担当とそこそこにバランスはとれてるように感じた。
まして、武器まで新調したのだから。
「機械兵士や変異体単体なら問題は無いけど、やっぱり集団戦は辛かったのもある。ここで頼れる前衛が一人増えるだけでもかなり楽になるんだよなー……チラっ」
【む……それは確かに】
「多少危険度が高い遺跡にも頼れる傭兵が居てくれるだけで助かるんだよなー……チラっ」
【……】
「可愛いアリスと綺麗な私の旅は色々面倒ごともあると思うんだよなー……チラっ」
【あー、わかったわかった。雇われてやるよ、俺だけだと素顔も晒しにくいから色々不都合出てくるしな……】
「よし! 交渉成立だね、A級傭兵げと!」
『途中脅しにも聞こえなくはなかったですが?』
「いーのいーの、よろしくねアベル」
【ああ、荒事なら任せてくれ】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
三人と一体は町に戻り、顛末を報告する。
遺跡最奥に行くにはサハギンの巣を通らなくてはいけないことも伝え、最低でもソロならBのスカヴェンジャー。
もしくはBの傭兵を護衛につけた人間以外は遺跡に通さないように釘をさす。
そのあと食料を返却し、アベルはサハギンに襲われていたのを助けたという事にしておいた。
四人の傭兵は変異毒によって死亡、食料盗難は遺跡最奥に居た人間の変異体による犯行で、死んだ傭兵と相打ちという事に。
証拠として傭兵の一人の腕を持ってきた。
ほんの少し鱗が生えて水かきが出来た人間の腕。
これを見せた事で町長は納得し、これ以上食料が荒らされることはないと安心した。
その後、セクンに戻りギルドに報告。
解決していない事件を放置したこととユテリに注意喚起しなかった事が問題となり、中央ギルドまで話が行ってしまう。
当然セクンのギルド長は降格や左遷はなかったが懲罰を受けることとなった。
当たり前である。
さて、当のユテリ達はというと……。
「んふー……高性能で希少価値の高い部品がこんなに……♪」
【いつのまに持ってきたんだ?】
『アベルさんは気づかなかったのですか? 持てるだけ持って、重いものはハッターに持たせてましたよ』
『オン!』
頑張ったよ、撫でて! と言っているように思える。
アリスは労うようにハッターを撫でると尻尾を振って喜んだ。
【まじか……】
『しかも見事に現代では最も価値が出そうなものを見繕ってましたね。私には見慣れたものですが』
【すさまじいな……で、どこに向かってるんだ?】
「遺跡都市ルイーナ」
【ほう……懐かしいな】
『行った事あるんですか?』
【ああ、俺がまだC級だったころにな。地下遺跡か……今なら踏破出来るだろうか】
『私の記憶に残っているといいですね』
『オン!!』
索敵はマカセロー、と言っているようだ。
「まあ、まだまだ先だからゆっくりしてるといいよ。野宿も二回あるし」
【二回で済むのはありがたいな】
『以前はどうやってルイーナにいったのですか?』
【徒歩。途中で食料が尽きてなぁ……ありゃ死を覚悟したよ】
『……運び屋に頼めば良かったのでは?』
【大砂海の途中にも未発見の遺跡があるかもしれないと思ってな、思えば無謀だった】
「アベル……意外におバカ?」
『否定は出来ないですね……』
『クゥーン……』
脳筋なんだねアベル……と言いたげだ。
【な、なんなんだよ。やめろ、哀れみを込めた目で俺を見ないでくれー!】
お付き合いいただき有難うございました。
具体的な章分けはしてませんが、目安としては次話から章が変わる感じですね。
では、失礼いたしました。