第4話
第四話です。
どうぞお楽しみください。
「アリス、ソレ取って」
『はい、どうぞ』
「えーっと……ここがこうなって……これを外せば……うわ! この動力装置スゴイ! 始めて見た!!」
『どうなさったのですか?』
「この動力、粒子加速器だよ。この子の主な武装の中でも特に粒子砲とすごく相性がいい」
『という事は後期のTYPEなのですね』
「後期?」
『はい、記録によりますと初期型は超小型の核融合炉を使用していたはずです』
「……初期型なら下手するとあの辺が荒野になってたね」
核戦争の経験はないが、もしかしたら使う事があるかもしれない核の恐ろしさは勉強している。
『……そういわれればそうですね』
アリスの方は、実際に更地になった場所を見たことがある……記憶が微妙に残ってる。
そんなやり取りをしながらもユテリの手は止まらない。
凄腕というのは伊達ではないようだ。
「うーん、こうなると動力が無事だったのは僥倖だね。あ、ソレとって」
『コレですね。ユテリなら粒子加速器でもなんとかしそうですが?』
「私じゃ流石に見たこともない加速器は修理できないよ……っと、よし完璧!」
作業を実際に見ているとそうは思えない。
しかし、本人がそう言うのだからそうなのだろう。
構造と理論がわかればユテリならすぐにでも出来そうだとアリスは思ったが。
「後は起動してマスター登録で完了」
そう言って動力に火を入れると繋いであるPDAには様々な文字の羅列が現れる。
「えーっと……うわぁ……動力は最新なのにAIプログラムは分かりにくいなあ……これ多分量産品じゃなくて個人のオリジナルだなあ……ここがスレイブだからこれがマスターで……よし、わかった。アリス、この子の正面に来て」
『? かしこまりました』
「マスター名はア・リ・スっと……OKいいよー」
『!? 私がマスターなのですか?』
「うん? 見つけたのはアリスだし、修理を頼んだのもアリス。だったらマスターもアリスだよ?」
確かに理屈は間違っていない気がするが。
『そ、そんな! 私はユテリの従者ですよ?』
何か言った? というふうに平然と自分をサブマスターに登録していくユテリ。
これは何を言ってもダメだろうとアリスは諦める事にした。
当のユテリはそんなアリスの姿を横目で見ながら気づかれないように微笑んだ。
(ほんの少しだけど、数日前より感情の表現が良くなってる……可愛いなあ……)
喜怒哀楽のなかでも一際強く見せるのは喜び。
これは仕える主が喜んだ時に良く見せてくれる感情。
そのために作られたのだからそれが大きいのは当たり前の事。
プリムスの街の人と触れ合い、外の世界を見せ、遺跡を探索して、少しずつだけどアリスがほかの感情も強く表現するようになってきたことはユテリにとって素晴らしい事だ。
「名前どうする?」
『名前ですか?』
「そう、A-JAXじゃかわいそうじゃない?」
『私がつけるのですか?』
「あたりまえじゃん、アリスはこの子のマスターなんだから」
『かしこまりました』
「そんなに難しく考えなくてもいいのに……」
『……ハッター』
「うん! いいね、ハ・ッ・タ・ーっと登録完了! さあ、ハッター起きて」
全ての登録を終えて管理者モードを解除する。
目に光が灯り、ゆっくりとハッターは立ち上がった。
「バランサーも大丈夫だね、装甲の強度は以前の部品を流用したけど、それでも少し下がってるから気を付けないとね。あとは武装をそのうちつけてあげないと自衛もできないか、動力との相性で実弾より粒子砲のほうがいいね。……機械屋にあるかなあ……」
『オン!』
割とメカメカしい外見とは裏腹に、本物の犬のように尻尾を振って喜んでいるような様子のハッターを見てアリスは嬉しそうに頭を撫でている。
「発声装置もおまけでつけた。ところで、名前に由来ってあるの?」
本来A-JAXは吼えたりするような余計な機構は搭載されていないのだが、以前のボディには搭載されていたのでついでに作っておいたのだ。
実際プログラムの中にも吼えるという行為が入っていたのでつけて良かったと思う。
『あ、はい。グランドマスター……創造主が私の名前と同じ主人公が出てくる物語を聞かせてくれた時に出てきた名前と、猟犬というところから取りました』
「へえ……そんな物語があったんだ」
『ええ、メモリーが所々破損しているので細部は分かりませんが……』
「そっか、残念。まあそのうち遺跡で見つかるかもね。じゃあ給仕機械人形売りに行こうか」
『はい、ハッターも行きましょう』
『オン!』
主と散歩が出来るのが嬉しいのだろうか、千切れんばかりに尻尾を振っているハッター。
AIをプログラムした人物の趣味なのかどうにも本物の犬っぽい。
いらない動作が多く組まれているようだ。
これが世界大戦中に猛威を振るって地獄の猟犬なんて呼ばれ、恐れられていた機械兵士だとは誰も思わないだろう。
その後、二人と一機は機械屋に足を運んだ。
まだ日は高い。
「結構な額で売れたね、粒子砲は流石に置いてなかったけど」
『20万になるとは思いませんでした、ハッターの武器もあれば良かったのですが無いものは仕方ありません』
『クゥーン……』
ハッターも少し残念そうだ。
此方の言葉を理解して反応を返しているが、ひょっとして学習してるのだろうか?
「寄せ集めでも立派な給仕機械だからね、これでお金に関しては贅沢しなければしばらくは大丈夫だけど……行くんだよね」
『はい、あそこは私も何かあると気になってますから』
「だよねー。今からなら夜までには帰ってこられそうだけど、行く?」
『ユテリがよろしいのなら』
「おけー、じゃあまた許可貰いに行こうか」
『はい』
『オン!』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
二人は再びハッターをひろった遺跡に来た。
隅々まで調べつくされたと思われるこの遺跡のどこかに隠し通路があるだろう。
なければ無いでハッターが来た分プラスだからガッカリもしない。
『ありました?』
「いいや、ぜんぜん」
『うーん……勘違いでしょうか……ハッターは何か覚えていないですか?』
『クゥーン……』
ハッターは申し訳なさそうに首を振る、尻尾も元気がない。
「あとはここくらいだけど……機械腕でも開かないんだわ」
『エレベータですね。一緒にやってみますか?』
「ああ、その手があったか」
見た目で騙されそうになるがアリスは並みの自動人形ではない。
主がどれだけ大量にものを買っても、どんなに重たいものを手に入れても運ぶことが出来るようにパワーも機械兵士くらいは平気で出せるようになっている。
エネルギー消費量が上がるが一般的な機械兵士の三倍までは、特に負荷なく発揮できる。
ちなみに動力を暴走させれば最大20倍までは出力を上げることが出来るのだが……。
そのあと間違いなく動けなくなるので完全に奥の手だ。
「行くよアリス! せーの!!」
『せい!』
ゴリゴリと何かを削るような音を立ててエレベータの扉は開いた。
というか外れて落ちた。
「あー、あの部分がつっかえ棒みたいになってたのか……機械腕じゃ開かないわけだ」
『エレベータ自体は上階で止まってるみたいですね』
「だねー。……とくに何も見当たらない……かな? こういうのは地下に施設があるのが一般的だからね」
『上の階も全て探索されつくしているのですよね?』
「うん、こりゃ完全に勘違いかなー」
『オン! オン!』
『ハッター、どうしたのですか?』
「何か見つけたのかい? あ、ちょっと!」
さっきまで沈黙を守っていたハッターが突如吠え、下に飛び降りてしまった。
下に着いたハッターはそのまま隅の方に移動して地面を掘る仕草をして、こちらに吠えるというのを繰り返している。
「あそこに何かあるんだね?」
『懐中電灯で照らしても何もない様に見えますね、近くまで行きましょう』
「そうだね。いやあ、アリスも一日で染まってきたねぇ」
『なにがですか?』
「楽しいんだろ? 遺跡漁り」
『たの……しい……ですか?』
「うん、今は分からなくてもいいよ。それより、ハッターがまってるから行こうか」
『え? あ……はい』
ワイヤーに捕まってするすると器用に降りていく二人。
地面に着いたユテリは直ぐにハッターの示すあたりの壁から地面までを入念にチェックする。
すると、不自然な窪みを発見した。
「これは巧妙だわ」
『どうなっていたのですか?』
「うん、この窪みを押すとその隣にパネルが出る仕組みだと思う。この遺跡自体が完全に死んでるからその機構は作動しないけど、エレベータそのものにも仕掛けがあって特殊な操作をしないとここに来れないんじゃないかな?」
『なるほどですね……しかし、そうなると……』
「強行突破だね」
『ですよね』
本人は気づいてないようだが、この時アリスは楽しそうに笑っていた。
彼女のシリーズが稼働していた時代には無い生物。
見覚えのある機械たち。
その成れの果てが織りなす遺跡の調査。
目に映るもの全てが好奇心を刺激する今の環境は、きっとアリスにとって悪いものでは無い筈だ。
勿論アリスにとって辛い現実になってしまう事もあるだろうが、それでも何かしらの感情を育て、揺さぶることは出来るだろう。
「誰がやる?」
『オン!』
『ハッターがやりたいのですか?』
『オン!』
とくにすることが無かったのが不満だったのだろうか、やけにやる気に満ちている。
「いいよ、派手にやっちゃって!」
了承を得たハッターは、この狭い場所を回るようにして助走をつけ、最大加速で壁に向かってタックルをかました。
ハッターのセンサーに、なにか引っかかったのだろう。
二人には決してわからないほどに隠された地下階段の場所を一発でこじ開けることに成功する。
「おお、このほとんど壁と見分けがつかないのを一発……」
『ハッター、お疲れ様』
『ハッハッハ』
かなり嬉しそうである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地下へ降りていくとそこには武器の山があった……事はあったのだが。
「あちゃ……これは駄目だわ」
『そうなのですか?』
「見てよコレ、ボロボロで修理の方が高くつく」
殆どがそんな状態では売れるものも売れない。
修理しても売却金額を修理代が上回るのでまったくうまみが無い。
自分で使うなら妥協してもいいかもしれないが、現状ユテリは武器に困っていない。
『あ、これは比較的まともそうですよ』
「ん? どれどれ……スゴイの持ってきたね。確かに修理なしで使えるくらい状態は良いけど……使うの?」
『はい、よろしいのでしたら是非』
「き、気に入ったのなら止めないよ……うん」
アリスの見つけた武器はパイルバンカーと呼ばれる近接用の武器。
元々は土木建築用だったのだが、武器に使えるのでは? というイカれた発想とノリで作成された逸品。
(あれ、多分だけど浪漫工房製だよなあ……うん? あれは)
どう見ても機械兵士用に作られたパイルバンカーをニコニコしながら背負う少女を遠い目で見ながら視界の端に入った武器に興味がわいた。
(あれ、先っぽしか見えないけどひょっとして……)
近づいて引きずり出してみるとそれは粒子砲だった。
欲しかったハッター用の武装がこんなとこであっさり手に入るとは思わなかった。
大分修理は必要だが、作成の難しいパーツはまだ生きていそうだ。
運がいい。
当のハッターは低く唸りながら周囲を警戒している、何かいるのだろうか。
「アリス、いいもの見っけたよ」
『なにを見つけたので……ユテリ……』
「なに?」
『出来るだけゆっくりこちらに来てください』
「なんで?」
『いいから早く、あと後ろは絶対見ない方がいいですよ』
「後ろ? え?」
『あ!』
見るなと言われれば見てしまうのは人の悲しい性である。
ユテリの背後に居たもの、それはグリムリーパーと呼ばれる変異体。
暗い場所を好み、腐食性の体液で溶かした獲物を食べる化け物。
目が退化していて視覚がまったく利かない代わりに非常に優秀な触覚を持って居る。
極端に刺激しなければ襲ってくることは無いが、ひとたび襲われれば顔などに張り付き、生きたまま溶かされて食われる。
アリスはこれがグリムリーパーと呼ばれる変異体だとはわかっていない。
過去にいたあの黒くて速い生物だと勘違いしているのである。
アレも極端に刺激しなければ向かってくることはないので似たような……どうなのだろう。
「あ……ああ……に、逃げなきゃ……ギルドに知らせなきゃ……」
『どうしたのですか?』
「拙いんだ、アイツは一匹見たら千は居ると考えた方がいい。雑食でなんでも食べる、有機物も無機物も」
死神と呼ばれる所以はその繁殖力と雑食性。
グリムリーパー、別名「街崩し」。
食べ物が無くなると奴らは大移動をしてくる。
その時大量の食事があればしばらくそこに居つくが、無くなればまた移動する。
遺跡ならまだいい、街に行けばそれこそ人も資源も根こそぎ食べられて終わる。
悪夢のような昆虫の変異体なのだ。
この遺跡のどこかに地下へ入れる亀裂のような場所があったのだろう、そこから入り込んで繁殖したと思われる。
退治するには火が有効で、大体は資源の無くなった遺跡に奴らの食事となりそうなものを配置して一網打尽に焼き尽くす。
幸いなのはこの施設には使えない武器が大量に残っていた事。
これならばあとは火を放つだけで事足りるのである。
結果としてこの場所にいたリーパーは傭兵たちの手によって残らず駆逐された。
街としてもバギーで一時間足らずの遺跡にこんなのが居るとなれば黙っては居られない。
報告したユテリには報奨金がでて、アリスはEに昇格。
たった二日で見習い卒業は異例の早さであった。
今回の事件はハッターの武装とアリスの武装、ユテリにトラウマを残して今回の探索は終わりを告げた。
――粒子加速器。
その名の通り粒子を加速させる機械。
加速させた粒子がぶつかり合い、異次元干渉がおきてダークマターが生まれる。
その力をエネルギーに変換するという謎技術の塊。
タイムマシンを作るのにあたり、このエネルギーが必要だという説も出ていたが真相は闇の中。
ハッター君が動けばそれでいい。
――パイルバンカー。
いわゆる杭打機。圧縮した空気を使って勢いよく杭を打ち出す武器。
アニメではよく(?)使われる武器、それを実際に使えるようにしようというコンセプトで作られた物。
日ノ本の国にかつて存在した浪漫工房という会社が苦心の末に実現させた至高の品。
空気を圧縮する機構を作るための動力に当時はやったメリカの映画に出てくるアークリアクターを完成させて組み込んだ馬鹿会社。
ちなみにアークリアクターは原作の出力には及ばない劣化品のようである。
――浪漫工房。
かつての日ノ本の国が誇る愛すべき馬鹿会社の一つ。
浪漫を追い求めて実現させるあたり、技術力は高いのだが、思想が明後日の方に天元突破している。
先ほどのパイルバンカーや、救急車に変形する機械兵士など無駄に洗練された無駄のない無駄な事を全力でやることに情熱の全てを捧げている。
社長自ら「浪漫無くして発展はない!」と言い切る実に潔い馬鹿の集まり。
嫌いではない。
――グリムリーパー。
Gの変異体。
行動の仕方はイナゴっぽい。