第3話
第三話です。
こういうのもゾンビと違って書いててたのしい。
――第二の街セクン
プリムスほどの発展はしていないが、それなりには栄えている。
この街を起点に大砂海が広がっており、ミュータントに襲われることもしばしばある為に掃除屋の中でも傭兵部門の依頼が多いのが特徴。
施設は修理工房が無いくらいか。
『昨日は夕方で閑散としてましたが、昼間はけっこう賑わってますね』
「そうだね。あ、掃除屋ギルドによってもいいかい?」
『どのようなご用向きでしょうか』
「一応宿は二日で取ってるけど、もっと長く居るならお金は必要だから遺跡調査の許可を貰いに。あとアリスの登録かな」
『私も登録するのですか?』
「ん? 今はアリスの見分を広げる旅なんだから身分証にもなる掃除屋のギルドカードは必須だよ。それに、一緒に遺跡巡りもできるしね」
『あ、ありがとうございます』
今の世界の貨幣は共通となっている。
鉱物資源が少ないため紙幣のみだが、デザインで価値を変えている。
四霊災禍のあと、生き残った人たちが何とか残っていた機械で作り出したものが今でも流通しているのだ。
単位はゼニー、ユテリ達が居る大陸は全てこれ。
1、10、100、1000、10000と五種類用意されている。
ちなみに四霊災禍前の貨幣は古銭的な扱いで希少価値が高く、絶対数も少ないので共通貨幣には出来なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「掃除屋ギルドへようこそ、本日はどういったご用件ですか?」
「日帰りで行ける遺跡への侵入許可を、バギーがあるから送迎は無しで。あとこの子の登録を」
「かしこまりました、ではギルドカードを」
「はいこれ」
「ご確認しました。D級スカヴェンジャーのユテリ様ですね、ただ今手続きしてまいります。あとこちらの登録用紙を」
『ユテリ、スカヴェンジャーとはなんですか?』
「ん? ああ、掃除屋の中でも部門がわかれてるんだよ」
掃除屋は何でも屋という事だが、その中でも専門で一つの事をこなす人用に部門がわかれていたりする。
戦闘が得意ではないのに傭兵に参加させられたりして死なないような措置だ。
スカヴェンジャーは入港した船内で密輸取り締まりのため、怪しい場所を捜索する様を、揶揄した表現からきているらしい。
生物学では腐肉食動物をさし、自然界の掃除屋とも呼ばれる。
それにちなんで遺跡探査専門を「遺跡漁り」と呼ぶ。
少々侮蔑も含まれている気がするが、とにかくそう呼ばれている。
他にも護衛や防衛、突然変異体や機械兵士からの施設奪還を主とする戦闘職「傭兵」。
傭兵の中でも危険な賞金首を主に狙う「賞金稼ぎ」
そして掃除屋としては少し毛色が違うが、依頼を受けて街から街へ物資を運ぶ「運び屋」とバラエティに富んでいる。
故に掃除屋=便利屋。
『一口に掃除屋と言っても色々なんですね。等級はどんな意味が?』
「戦闘力や功績なんかで受けれる依頼が左右されるよ」
等級の最低ランクはF。
所謂見習いと言ったところで、傭兵ならD級以上の先達の指導の下でしか仕事を受けられない。
昔、掃除屋ギルドが発足した当初に戦闘慣れしていない若者たちが大量に無謀な依頼を受けて死んだことからこのようなルールが出来た。
遺跡漁りも同様で、実力に見合わない強力なガードがいる遺跡に無理していった奴が何人も帰ってこなかったことから、Fはギルド管轄の危険が無い遺跡で先達のノウハウを教わることを必須としている。
Eに上がれば指導者は外れるが、それでも駆け出しなので危険が少ない依頼になる。
Dでやっと一人前、危機管理や逃走の見極め、報告などの当たり前の事が出来るようになってから認定される。
Cまで行ければベテラン、Bは達人、Aは名人と言われるほどの実績と腕前と信頼を積めばなれる。
一応その上にSというのがあるらしい。
らしいというのはS認定を受けた人がギルド発足以降の歴史上で一人も居ないから。
ユテリのランクはDなので、少々の危険がある遺跡でも十分に生きて帰ってこれる実力があるということになる。
「お待たせしました、ここから大砂海を西の方に一時間ほど行ったところにある遺跡の調査許可証になります」
『……出来ました』
「登録証をお預かりします、細かい説明は先ほどユテリ様がしてらっしゃったので省きますね」
名前はここに来る前に養子ということでアハカゥを名乗る事にしている。
職業は見習い技師。
「確認いたします……内容に問題はないですね。等級はFですが、ユテリ様がDなので付き添いも問題ないですね。只今ギルドカードを作成しますので少々お待ちください」
「これから行く遺跡はF級を連れて行っても問題ないの?」
「問題ありません、随分前にガードの機械兵士は討伐されていますし、最近の調査でも突然変異体が入り込んでいるという報告はありませんから。……はい、アリス様出来ました」
「ありがとう。アリス、コレ無くしたら再発行代に三万ゼニーかかるから気を付けてね」
『はい、気を付けます』
「では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『ここがそうなのですね?』
「うん、近くて危険が少ないだけあってほとんどの物資は持ってかれてるけどね」
『ではなぜここを? 物がないのならば実にもならないのでは?』
「ふふん、私の職業を忘れてないかな?」
『スカヴェンジャーでは……あ』
「そうさ、一般の人から見てガラクタでも私の手にかかればあら不思議ってとこ」
『なるほど、取りこぼしを集めるんですね』
「言い方わるいなぁ……合ってるけどさぁ」
そんなやり取りをしながら二人は施設に入る。
念のためアリスにはS&WのM39を持たせてある。
主を守るのも命題の一つなので戦闘能力は馬鹿に出来ないようだが、あって困るものでもない。
ちなみにこの銃は鉄の部分や内部機構がかなり劣化していたので一度バラシて構造を解析したのちに組み上げたものである。
状態が良く、そこまで手入れする必要が無かったウィンチェスターよりは劣るが愛着がある品だ。
一応耐久テストはクリアーしているので問題はない。
ちなみにウィンチェスターが好きなのは、比較的に状態良く見ることが出来た記録媒体で昔視聴した「エイガ」という娯楽品の中で、ある機械兵士がバイクに乗りながら使用したスピンコックというコッキング法が気に入ってるから。
要するに浪漫だ。
この遺跡施設は災禍前、一般家庭用の給仕機械人形生産工場だったらしい。
劣化した頭部や腕などのパーツ、持ち上げただけで崩れるような人工皮膚が散乱している。
普通に見たらもう手の付けどころがないように見えるが、朽ちた頭部に取り付けられているプログラムにハッキングを仕掛けたら生きていたり、電源の入らないPCを開けたらCPUはまだ使えたりと結構取りこぼしがあるようだ。
重箱の隅をつつくように残骸の中から使えそうな部品を漁り、一体分なら給仕機械を組み上げられるほど集まったあたりで、ユテリはアリスに声をかける。
「アリス、そろそろ戻ろうか。今からなら組み上げる時間は取れる」
『かしこまりました』
言葉を交わして引き上げる準備に取り掛かったところでアリスの視界に一瞬ノイズが入った。
何かしらの電波を受けたようだ。
妨害電波とは違う、どこか救いを求めるような……SOS信号に似た周波数の電波。
アリスは気になり、自分が先ほどまで漁っていたあたりを念入りに調べ始める。
帰り支度が済んでいたユテリもアリスの行動に何かを感じ取った。
「どうしたの?」
『なにかしらの信号をキャッチいたしましたので出所をさがしているのです』
「わかった、手伝うよ」
今回はきちんと持ってきた(積んであったままとも言う)機械腕を駆使して瓦礫を除去していく二人。
程なくして信号の主が姿を現した。
『この子が発信源です』
「これ……A-JAXハウンドじゃないか……」
『どうしましょう』
「ちょっと待って、今簡単にだけど調べるから……駆動系は駄目、バランサー等の制御系も駄目……幸いにもCPUと動力は無傷か、センサーも修理すればなんとか……」
『ユテリ、これは私の予感なんですがこの子がここに居たという事は……』
「うん。ここ、どこかに武器工場か何かあるね……」
A-JAXは以前ユテリが相対した02の亜種ともいえるシリーズで、主な用途は外敵の排除と周囲の警戒。
ガードは倒されたとギルドでは言っていたが、このタイプはどちらかと言えば軍事施設向けなのである。
一般向けの施設に配置されるような警備ロボとは訳が違う。
機動力と索敵力に優れ、制圧力のある武器でもってねじ伏せるのだから。
『ええ、私もそう思います』
アリスはこの機械たちが現役だったころの自動人形なのだから、この答えを出すのも頷けた。
「とりあえず、アリスはこの子どうしたい?」
『……出来れば修理して差し上げたいです……』
「わかった。さっきも言ったけど、頭脳と動力以外は完全に駄目になってるからもう少しパーツを探そう。足りなきゃジャンク屋だね」
『っ! ありがとうございます!』
「明日はこの子の修理と手に入れたパーツで売却用の給仕機械人形の製作、それが終わったらもう一度ここに来よう……ここは絶対なにかある」
『かしこまりました』
――A-JAX
JAXシリーズの亜種。Aはアニマルの略で、動物型の機械兵士。
一般的なのは大型犬ほどのサイズのハウンドTYPE。
鼻の部分にはニオイセンサー、目にはサーマルセンサーを搭載し、電波警戒機もあるので索敵範囲はかなり広い。
武装は胴体内部に携行型のガトリングを搭載しているのが一般的だが、背中に荷電粒子砲を搭載して外部に露出しているのもある。
後者は警備よりも遊撃目的の場合が多い。
Aシリーズは他にも夜襲の黒ヒョウ、偵察の鷹、海の鯱、そして開発者のジョークの塊の象がある。
象は鼻に荷電粒子砲が……。