第0話
知り合いに押されて投稿することにいたしました。
ゾンビばかり書いている自分ですが、お楽しみ頂ける作品にしていきたいと思います。
指摘があり、誤字訂正しました。
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昔、ある科学者がおりました。
科学者はとても優しい性格をしていて、人々を喜ばせ、豊かにしたいと日々研究を重ねます。
長年の研究の末に科学者は人間がより豊かになるための第一歩である一体の人形を創りだしました。
決して逆らわず、強靭で、壊れることなく絶えず人々の幸せを願う人形を。
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「アリス、それお願い出来る?」
『お任せください、お嬢様』
「いつもありがとうね、アリス」
『勿体無きお言葉です』
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科学者の発明は人々に受け入れられ、人間はより豊かな生活を送れるようになります。
科学者は貧しき者、働けぬ者、生活に困窮する様々な人の為に人形を与えました。
時に働き手の代わりに、時に家政婦の代わりに、時に用心棒の代わりに。
世界は、科学者の人形によって飢えも、弱きも、差別もない平等で平和な場所になりました。
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「アリス、そろそろ休んだらどうだ?」
『それはお暇をくださるという事ですか? 私はなにかいけないことをしたのでしょうか、旦那様』
「そうではない、いつも忙しなく働いてくれているからな。たまには自分を労わったらどうだ?」
『ありがとうございます。ですが、私は皆様がより幸せになっていただくための存在でございます、旦那様方の生活を支えるのが私の幸せでございます』
「そうかい、ありがとう。でも辛かったら言うんだよ? 私は本当の娘のように思っているのだから」
『勿体無きお言葉です』
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しかし、人間は慣れる生き物です。
いつしか人形がそばにいる生活が当たり前になり、有難味を感じる人は少なくなっていきます。
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「作業が遅いぞ、このオンボロ人形が」
『申し訳ございません、直ぐに終わらせます』
「ワタクシのドレスはどうしたの? 早くしてよね、パーティに間に合わないじゃない!」
『申し訳ございません、奥様。すぐに用意いたします』
「アリス~! 私の用事はまだなの!?」
『はい、今参ります』
「はぁ……ほんと使えねえなオマエ」
『申し訳ございません……申し訳……』
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世界は平和に飽きていました。
今よりももっと豊かにしたい、今よりももっと良い暮らしをしたい。
世界は刺激を求めます。
自分がより豊かになるにはどうしたら良いかを考えました。
そして人間は最も愚かな選択をしてしまいます。
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「諸君、これは我々をより豊かにするための聖戦である!」
『『『Sir,yes sir』』』
「諸君らに死の概念は無い! よって、恐るるものは何もない! 敵国の民は蹂躙せよ、奪い尽くせ!」
『『『Sir,yes sir』』』
「正義は我らにある! これは略奪ではない! 我らのものを取り返すだけだ! 進めぇ!」
『『『殺す、殺す、殺す、殺す』』』
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優しい科学者は嘆き悲しみしました。
自分の創った人形が、幸せを願った人形が幸せを壊すために使われているのを。
優しい科学者は怒りました。
人形たちが、主の命令に逆らえず涙を流している事に。
そして科学者は姿を消しました……。
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「た、助けてくれー!」
「いやだ、死にたくない!」
「やめてぇぇ! 夫が、私の夫がまだ中に居るのよぉぉ!」
「ママ! 起きてよママ!」
「怪物が! うわぁぁぁぁ!」
「世界の終わりだ……」
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戦争が続く中、世界は新たな脅威を前にして自分たちの犯した事を悔やみます。
東の果てより、巨大で空を飛び、角や鬣のある蛇が現れ、一夜にして東の大地を破壊し。
西の果てより、鱗の生えた身体で背毛は五色。黄金の毛を生やし、角の生えた巨鹿が西の大地を塵にし。
南の果てより、嘴は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は五色の巨鳥が南の大地を焦土に変え。
北の果てより、山よりも大きく雄大な亀が現れて北の大地を踏み慣らしていった。
各地より現れた四体の獣は生き残った人間にこう伝えます。
「一定の文明を持ちながらも人々が支えあう事を忘れた時、我らは再び現れる」
伝記 四霊災禍
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「へぇ、約200年前のPDAか。ま、私のより性能は落ちるけどそれなりに価値は付くかな?」
町から遠く離れた遺跡の中で、一人の女性が手に入れたPDAを見てつぶやく。
「まだ誰にも見つかってない遺跡だったからお宝が眠ってるを思ったけど……こりゃハズレかな」
ぐるりと探索の終わった部屋を見回して、収穫が一台のPDAだけという事実に肩を落とす。
「……ま、あと一部屋あるしね。ちゃっちゃと荒らさせてもらいますか」
――掃除屋
文明が崩壊し、物資が少なく、新たなものを作り出すことが困難になったこの時代の稼業。
突然変異体や暴走した機械兵士の討伐、遺跡調査、傭兵等々……。
危険を伴う仕事を率先して請け負う、所謂便利屋。
彼女の名はユテリ・アハカゥ、年齢22歳、かつてあった日ノ本国の北に位置する民族の末裔。
栗色の髪に、ひまわりが咲いたような光彩を持つ瞳。
整った顔立ちには少々のあどけなさを残している、時代が時代なら間違いなく芸能事務所が放って置かなかったであろう。
タンクトップインナーの上には遺跡からの収集品であるお気に入りのアヴィレックスのMA-1ジャンパー。
ボトムにはジーンズを穿き、手には指ぬきグローブを嵌めている。
髪はポニーテールで纏めて帽子をかぶり、頭部には不釣り合いな大き目のゴーグル。
身長は165センチ、体重55キロ。
割と大きめの胸をしているが、本人は動くのに少々邪魔だなと感じている。
持ち前の度胸に行動力、稀有なハッキングスキルで数々の遺跡を探索してきた自称凄腕の掃除屋。
戦闘は苦手故に専ら遺跡探査しかしない。
そんなユテリの本職は実はメカニックだったりする、掃除屋稼業はパーツ漁りと趣味である。
「こりゃハズレだね……あーあ、PDA一つかぁ……ジェフの奴に吹っ掛けるかな。ん?」
ユテリの耳が小さな音を拾う、一瞬だが確かに何か聞こえたと感覚を信じてもう一度部屋を探索する。
「ありゃ、瓦礫の下にハッチがあるよ……参ったなぁ……今日は機械腕持ってきてないんだけど……仕方ない、頑張るかー」
誰に話すともなくブチブチと文句を垂れ流しながらも瓦礫を撤去するユテリ。
1時間ほどかけてようやくハッチを開けられるようになったが、かなり疲労がたまってしまった。
ここはいったん食事にするべしとバックパックから水筒と黒パンを取り出して、15分ほどの休憩をとり、探索を再開する。
「さーて、なにがありますかねぇ」
独り言はユテリの癖だ。
いつものように行動を起こす前に声を出し、ハッチを開け中を改める。
収納かと思ったがどうやら地下へ降りる為のハッチのようだ。
「んふ~♪ なかなか楽しませてくれるじゃないの」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地下に足を踏み入れると、暗い通路に電灯が灯りだす。
ユテリは未だにここの動力が生きている事に驚きを隠せなかった。
通路は奥深くまで伸びている。
動力が生きているという事は防衛機構が生きているという事に他ならないので慎重に歩を進める。
三回目の曲がり角に来た時にユテリは駆動音を捉えた。
バックパックから鏡を取り出してそっと角から覗かせ、通路の先を確認する。
(自律型汎用二足兵器――JAX-02……なんでこんなのが警備してんの?)
拠点防衛用機械兵士であるJAX-02が守護を務める場所、となればこの先は重要な施設である公算が高い。
(よっぽどのモノがこの先にあるってことだね……戦闘は苦手だけどやるっきゃないか)
ユテリは手持ちの武器を確認する。
携行型スタンナイフにオリジナルのワイヤーガンとペイントガン。
それと、この間発掘して整備したウィンチェスターM1887。
JAXを相手取るには少々心もとない。
(チャフでもあれば良かったけど今は持ってないし、あれ高いんだよね……無いものは無い、贅沢言ってられないね)
意を決し、角から飛び出し全力で走る。
『侵入者を発見、直ちに制圧する!』
ユテリの存在に気付いたJAXは即座に反応し、M4を構えるがユテリのウィンチェスターが若干早くメインカメラを撃ち抜いた。
JAXのAIがサブカメラに切り替える隙をついてウィンチェスターを後方に投げ捨て、スライディングで足元を抜け背後に回ると、素早く立ち上がり反転してJAXの背中を駆け上がる。
同時にポケットから取り出した小型の機械を後頭部のあたりに取り付け、肩を踏み台に跳び再び正面に。
落下しながらペイントガンを発射し、サブカメラを封じると彼女は素早く元の角に身を潜める。
準備は全て整った。
「さぁて、おねんねの時間だよ~」
JAXが異常を感知して矢鱈滅多に銃を放つが射線上にユテリは居ない、安全圏内にて悠々とアーム装着型PDAを操作する。
JAXに取り付けたのはハッキング用の送受信機だ、どちらも自作である事が彼女のメカニックとしての腕前を物語っている。
「ココをこうして……プロテクト解除っと!」
このような作業はユテリにとって朝飯前である。
あっさりとファイヤーウォールを越え、命令系統の制御プログラムを掌握することに成功、必死の抵抗も空しくJAXは沈黙した。
「無傷の勝利って私もなかなかじゃない?」
自画自賛しつつ、これを放って置くのは少し勿体無い気もしたが、マスター変更して味方にしても外に出す手段がないため、CPUのみ抜き取って奥の扉に向かう。
「電子ロックね。楽勝楽勝……はい開錠成功♪ な・に・が・あるかな~?」
扉を開け、部屋の中に入ったユテリは驚愕する。
部屋の中にあったのは白衣の白骨死体と眠るように壁にもたれている少女だった。
ここはこの二人の生活空間だったのだろうか、だとしたらJAXは何故この場所を守っていたのだろうか。
風化せずに原型を保っていた白骨死体は、扉を開けて中に入ったことで空気の流れが出来たため崩れてしまった。
少し申し訳ない気分になりながら周囲を見渡すが、とくに気になるものは見当たらない
この二人と机以外に本当に何もない部屋、なんの目的でここに閉じこもっていたのだろう。
まるで眠るように死体側の壁に寄りかかっている少女……。
ユテリはなんとなく少女が気になり、近づいて頭をそっと撫でる。
「っ!? 温かい? なんで?」
体温らしきものがある……死体が風化するほどの年月が経っているというのに、この少女はまさか生きているというのか? と戦慄するユテリ。
ほんの少し考え、もしやと思い立ち少女の首の後ろを見てみる。
「メンテナンスハッチ……中はジャック……やっぱりこの子、自動人形だ……ロットナンバーはA・L・C-00……ALC? もしかしてこの子アリス? しかも00って事はプロトタイプってこと? ……実在したんだ……」
自動人形TYPE-ALICE、腰まである金色の髪、現在は閉じているために確認はできないが蒼い目をしていて顔立ちはおとぎ話のお姫様のように整っている。
シリーズによっては25歳くらいまで居ると伝記には書かれていたが、この子の見た目年齢は16~18程。
四霊災禍前にある科学者が人間の幸せを願って創り、人々を豊かにしたという完全自律思考型成長プログラム搭載の自動人形。
第一次四霊災禍以降この数百年、一度たりとも発掘されたことが無かったために創作や幻と言われていた自動人形。
それが今、ユテリの目の前にある。
それも、試作機であるNO.00が。
もしこれを出すところに出せば一生遊んで暮らせるかもしれないお金が舞い込んでくるだろう。
こんな時代でもあるところにはあるのだ。
だが、ユテリはそうは思わなかった。否、この少女の人形の無垢な寝顔を見ていたらとてもそういう気にはなれなかった。
「ん? ……これは……」
一応ほかに何かあるか探していたユテリは机の中に仕掛けが施されているのに気が付いた。
二重底だ。
中には一冊の手記が入っていた。
パラパラと流してみて見たが、どうやらこの白衣の人物の日記のようである。
詳しく読むのは後にして、今はこの人形をどうするか検討する。
「……この子を世に出したらきっとバラバラにされて研究材料になるか、ロリコンな好事家にいい様に遊ばれるかも……」
想像しただけで悲しくなってくる。
マキナや機械兵士のような冷たさではなく、人間にしか見えない温かさをもったこの愛らしい少女の人形は自分が面倒を見よう、そして墓場まで持っていこう。
そうユテリは心に決めた。
――マキナブラキウム
四霊災禍によって滅びた日ノ本国の会社が開発した超小型エンジンを原動力にメリカ国が作成した油圧を利用して重たいものを運ぶための機械、使用者の筋力補助用装着タイプと危険領域作業用遠隔操作タイプがある。
――JAX-02
四霊災禍によって滅びたメリカ国のある会社が開発した軍事兵器。
全長2.5M、小サイズ故の量産が売り。
左腕部埋め込まれるように搭載されたブローニングM1919重機関銃JAXカスタムモデルは通常のM1919を上回る800~1000発/分という連射速度を持ち、右手にはM4カービンJAXカスタムモデルを携行している。
主に固定砲台として拠点防衛用の二足歩行兵器。ちなみに01よりも重装甲。