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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

-日本昔風作り話-

-日本昔風作り話-「針絵師(はりえし)」

作者: 活動寫眞

一重珀千万、彼が幼い頃に命の恩人に付けられた名である。

そんな彼にいつしか罪を背負わせてしまった事は、彼にとって辛い旅の始まりでもある。

ある年の初秋の頃、一重珀千万ひとえはく せんばんという旅人の男が村に現れた。

彼は大層な大荷物を背中に背負い、布地で作った上着と寸足らずのもんぺに草履、

坊主頭という出で立ちだった。



村に着いてたまたま出くわした村長に

「おにぎり・・・おねがいします」と一言だけ言った。

村長は、彼との出会いも何かの縁であろう。

旅の話でも聞かせてくれるなら変わりにお食事と寝床を用意すると伝えた。

彼はにっこり微笑むと深くお辞儀をした。



村長の家に村民たちが彼を見にたくさんやって来た。

彼は決して話が上手くは無かったが、たどたどしい言葉使いながらも

旅で出会った人や出来事を語ってくれた。



いつしか村人もその話にのめり込むようになり

もっと聞かせて欲しいと村へ留まってもらう為に

家々を順に寝泊りして貰ったという。



ある村人が聞いた。

「その大っきな袋には、何が入ってなさるのか?」



すると彼は、袋から1本の大きな筒状のモノを取り出した。

広げて見ると、とても色鮮やかな皮細工であった。

どうやら獣の皮を剥ぎ取り、その自然の色や質感を活かし貼り絵なるものを

作っていた。そこには、とても綺麗な真っ赤な紅葉の山が描かれていた。



「こんな素晴らしいものは見たことが無い・・・」



村長ですら長年の経験や知識から知らぬ代物、

きっとこの人は大層な職人で大名や将軍家に献上する程の人なのではと思った。

彼の話には、自分の出生やどんな仕事をして来たかなどは一切無かった。

村長はきっと身分を隠しているのかも知れない、持て成しからお礼に拝見させて

頂けたのだろう。そう思い、村人にも無闇な検索などしないよう言い聞かせた。



彼が村に来て2週間ほどが経った頃、村にある事件が起こった。

それは、最近どこからとも無く現れた海賊が、海辺の岸壁に居座り、

商船や旅舟を襲っていた。そしてとうとうこの村へ影響が出だした。



海賊長

「村長さん!この村はこれから俺らが守ってやる!

 世の中は危ない事が多い。そこでだ、俺らは海を縄張りにしている

 御上も早々手を出せない。だが安定した仕事をこなすには海だけでなく

 山も治める必要がある。村から人手を出せ!あと酒もあるに越した事はない!」



村長は今でも十分、平和に暮らしている。

波風を立てる行為は止めてくれと頼んだ。

すると海賊長は、好意的な条件が呑めないのなら、

好き勝手にさせて貰うと言い出した。海賊たちは村の家々に入っては

食料や金目のもを物色し始めた。逆らう者には暴力で訴え、家々を襲って

「また来る」とだけ言い残して岸壁へ帰って行った。



村長はこの事を早くお上に書状すべく、村一番の足の速い男に書状を託した。

助けが来るまでにどれくらいの日数がかかるか分からない。

村長は彼に言った。



村長

「あなたはこの村から出た方が良い。これ以上は巻き込まれる前に早く!

 明日になればまたあいつらが来る!今のうちに急いでお逃げなされ!」



彼はしばらく目をつぶり考え始めた。

そしてゆっくりと口を開き語り出した・・・



自分は幼い頃に山賊に襲われ両親を失った。

身寄りの無い自分を育ててくれたのは、この袋の中の代物を作る事を教えてくれた

師であること。その師の最後にやり残した事を求めて旅を続けている。

もし許して頂けるのであれば、今回の件を自分に任せてはくれないか、と



勿論、村長はそんな危険なことはするべきでは無いと反対した。

しかし、彼は師の思いを遂げる為に協力して欲しいと頭を下げた。

村長は何もこれ以上、返す言葉は無かった。



ただ自分が必ず戻って来るので袋を預かって欲しいとだけ

言い残し彼は村から姿を消した。



寄せては返す波の音も、夕日が沈む頃には静寂を決め込む。

暫くすると海岸線に、ざくっ、ざくっと砂を踏みしめながら月光の下を歩く人影。

岸壁近くで今宵の見張り役を任されていた海賊の一人が気づき仲間へと合図する

海岸近くで合図を受けた二人組みが人影へと向かう。

しかし、人影に近寄った仲間の影は消え、歩く人影だけがこちらに向かっていた。



見張り役は何が起きたか分からなかった。

仲間が消えた事で直ぐに岸壁の砦内へと連絡を飛ばした。

寝ていた海賊たちは直ぐに起き手には得物を持ち警戒態勢となった。

岸壁と周辺の海は松明とかがり火で一気に燃えたように赤くなった。



海賊長がゆっくりと砦の奥から姿を現した。

人影を確認しながら目線を固定すると、部下に状況を聞いた。

幾つかの交渉相手の使者にしては態度がおかしい。

夜中に来る事をもだが、たった一人とは肝が座りすぎている。

なら夜襲としても、たった一人とは腕に自身があるのか、それとも・・・

海賊長は少し微笑んだ様に見えた。



今度は海賊長の合図で人影に複数人向かった。

だが答えは先程と同じ、向かう人影は消え、

歩く人影だけは近づいて来る。



海賊長は、岸壁付近の小船に待機している部下に指示を出した。

自らは砦内を通り抜け海岸へと降り立った。

その頃には人影は更に近づいて居た。小船も海岸に乗り上げかがり火だけを上げていた。



海賊長「こんな夜中に誰だ!」



-影-「ブツブツブツブツ・・・」



海賊長「なにをブツブツ言ってやがる!姿もはっきり見せやがれ!」



-影-「ブツブツブツブツ・・・」



海賊長「お前ら、一斉に取り囲んで襲って来い!」



海賊長の号令と共に、部下達が影を取り囲み一斉に襲い掛かる!

その瞬間、部下達の怒号も松明も消え、何事も無かったかの様に

静寂と月明かりに戻る海賊長は目の前で何が起こったのは理解できなかった。

ただ、部下の怒号だけが耳鳴りの様に残っている。人影は姿は見せなかったが

こちらに来る!



海賊長は部下を押しのけ必死に走った。

後ろでは背中に張り付くような部下たちの叫び声が一瞬しては直ぐに消え

そしてその繰り返し、次第にその声も直ぐにしなくなった。

それは部下が全員何かしら襲われて自分ひとりになってしまったと

感づくのにそうは時間はかからなかった。



海賊長「な、な、なんだ!なんなんだ!お前は!?」



-?-「ブツブツブツブツ・・・・」



海賊長はある事に気がついた。

最初は何を言っているのか聞き取る事の出来ない小声だと思っていた。

それは違った。死の淵まで追い込まれたからこそなのか、

気づけば洞窟の中だからなのか人影はずっと同じ事を言い続けている。



「オニギリ・・・欲しいんだなぁ!」




早朝、陽が上る少し前に村長と村の若い者と数人で岸壁付近へとやって来た。

そこには、洞穴へと一人の足跡だけが向かっているのが残されていた。

村長たちは恐る恐る、洞穴へと向かう。


何故か途中に落ちていた一本の松明を持ち照らしながら中へと進む。

中は湿気と何か生臭い空気が篭っていた。程なく歩き進むと洞穴を反対へと

抜け出てしまった。その先は大海原が広がっていて足跡も無かった。

それに海賊たちの姿も形も残っていない。これはどういうことなのか?

不思議に思った。そして彼の身を案じた。



村に帰り、そのことを告げると誰もが狐にでもつままれたような顔になった。

再び村人を連れて向かうも何も見つける事は出来なかった。

ただ海賊は海から来る者、何か事件があり出ているだけかも知れないと

村に戻り、警戒を怠らなかった。



近くの村からも人手を集めていたが3日間が経った。

海も山も人手を放ったが何も起こる気配は無かった。

村人達は安心していた。



村長は彼が帰らない事にやはり今回の件が関係している事

は誰にも言っていなかった。

そろそろ気になっていた預かった袋を開けることにした。

その中には数十本の筒があり広げてみる。



村長は驚いた!



最初に見た貼り絵には実は続きがあった。

残りの貼り絵を連ねると1つの絵をあらわしていた。

それは人が死んでもっとも底に存在するという奈落の底、地獄絵巻だった。



数日後、村一番の足の速い男が村へと帰ってきた。

しかし、村は閑散とし、人の気配は一切感じることは無かった。

もしかして、海賊に全員連れ去られてしまったのかと、

村のあちこちを探しまわった。誰も居ない。暫くすると、

書状を受け取った大名の部下たちが大勢村へとやって来た。

そして男に村人と海賊は?と訪ねたが何処にも居ないと告げた。



流石に手遅れだったと大名に報告するのも出世に響くと考えた隊長は

近隣一体をくまなく探すように部下に命令を出した。



部下は方々を探し回っている間、隊長と村人がいる目の前に彼が現れた。

村人は直ぐに彼だと気がついた。村はどうなったのか?海賊は?

しかし、彼は何も答えなかった。いや、答えれなかった。



千万「自分は一重珀千万と言うんだなぁ・・・」



隊長「お前はこの村に居たそうではないか?」



千万「じ、自分は、は、はじめてこの村に来たんだなぁ」



村人「そんな筈はないッ!10日前に俺の家にも泊まったじゃないかッ!?」



千万「知らないんだなぁ?」



隊長「本当にこの男なのか?」



村人「間違いありませんッ!背中にだって沢山の筒を持っています!」



隊長「では千万とやら、その袋を開けてくれないか?」



千万「い、いやなんだなぁ、知らない人には見せれない!」



隊長「うむ、だがそれでは疑いは晴れぬぞ?気が進まぬが、

   場合によっては何か盗んで無いか確認、海賊と関係があるかどうか

   厳しい問いをせねばならぬぞ?いいのか?」



千万「そ、そこ、まで言うなら見せるけど・・・し、知らないんだなぁ」



隊長「早く見せいッ!」



村人「!?」



袋からは1本の筒が出てきた。

広げて見ると、とても色鮮やかな日本の四季が描かれていた。



隊長「おお、なんと見事な作品だ。これはお前が盗んだのか?」



千万「じ、自分で作ったんだなぁ」



隊長「職人かぁ、これは大名に報告すると手柄になりそうだ・・・

   よし、その腕を活かす気はないかな?」



村人「お役人さま!?」



隊長「村のことは部下が探している、時期に情報が入るだろう。

   お前も疲れただろう。家で朗報を待つが良い!」



そういうと、彼を連れて役人は大名の下へと引き返してしまった。

村人も逆らえる訳もなく仕方なく自分の家へと帰った。



それから陽が上り、陽が沈み、それを何度か繰り返した頃、

村人が情報を求めて走り回っていると、旅人の男からある情報を得た。

最近、この辺の海でよく魚が獲れるので、あちこちから船が集まっていると

それを聞き、急いで海岸へと出ると、そこには沖に沢山の漁船が出ていた。

村人は遠くまで走っていたので気づかなかった。

こんなに海が船で賑わっていたとは・・・



すると、商船らしき船から荷物を降ろしている水夫たちが

商人と何やら揉めている様に見えたので近くに行って見る事にした。

水夫たちの話では、この海岸に来る前に“幽霊船”を見たという。

その事で船を降りると言い出したお陰で商人が積み荷を陸路にする苦肉の策を

講じていた最中であった。商人は“幽霊船”など信じていない。お金が大事、

積荷が大事であり、期日までに届けなければならなかった。



あと、海が漁船で賑わっているのは、魚が大量に獲れるらしい。

この時期は赤潮も無いのに不思議がっていたよ。

中には“幽霊船”と関係しているのでは?とか

天変地異の前触れなんて話も噂があった。



村人は“幽霊船”が気になり、情報を探し始めた。

これは意外と早くに結果が出た。海で漁をしている人たちにも見た者がいて

誰も乗っていない船が霧の中を走っていたとか、それも岸壁に向かって。

もし本物の船なら今頃は座礁している。“幽霊船”だからすり抜けた!

そんな話の中、すでにお役人の手で禁止になっていた岸壁が通れるようになっていた。



今なら岸壁の上から何か見えるかも知れないと海岸線の外から上に上り、

岸壁の上に立った。そこからは漁船も先程の商船も小さい粒程度に見えた。

何か手がかりにならないか、海賊船は見えないか、“幽霊船”は見えないか、



「“幽霊船”があった・・・ぞ!」



“幽霊船”の場所は分かった。しかし、行く方法がない。

上から飛び降りる訳にも行かず、船で行くには荒波の地帯を抜ける方法がない

紐で吊って降りるのが一番か・・・などと考えていると、

岸壁に金属の一部が見える。これは海賊たちが砦にしていた時に

何かに使っていたのか、金属の周りを土や砂をどけてみると、

そこには鉄鍋のようなもの。これを動かすと・・・穴だった!

狭いがどうにか通れる、足から這う様に進み

一刻は過ぎたか泥まみれになりながら空洞に着いた。



ここは海賊のねぐら?今にも戻って着そうな雰囲気の生活観が続いている。

外からは繋がる道はなかったのに何故、あんなところにあったのか

村人は分からなかったが、とりあえず上から見た場所へは近づけそうな予感。



それ以上は下へは向かえず、横を進む事にし、ありとあらゆる部屋を開けた。

勿論、誰も居ない。そんな事をやっている内に陽が傾き始めたようだ。

外からは分からない隙間は無数にあって、外から陽が入る仕組みになっていたとは

これからは基地に出来そうだと思った。その前に皆を探さないと意味が無い。



ついに外に出る道を発見した!

外に出ると岩の中をくり抜いたような岩場、満潮では沈んでしまうだろう。

そんな目の前に“幽霊船”があった。

一隻と言って良いほど近くで見ると大きな船であった。

陽が沈むまで時間が無いので急いで船から垂れていた紐を使って飛び乗った。



村人は絶句した。

甲板は赤いドロドロとしたものが飛び散り異臭を放つ

臭いが強い方向を見ると、本帆に巨大な人の顔が描かれている。

その大きさにも驚いたが、良く見ると帆に大量の針が刺されているのが分かり

1つ1つの材料は、恐らく人の皮を集めて貼り合わせている・・・

丁度、その事に気づいた時、その大きな顔を模した皮に夕日が刺し

“赤鬼”と化した。



分かった事は、どうやら海上で創作活動をした事で、要らない部位は海に捨てた。

魚の餌になれば人は見つからない。餌のお陰で漁場になったという訳だ。

調べた結果、海賊たちの人数だけでは足りそうにない。

やはり近場の村人も襲った可能性は高い! 村人は思った。

「きっとあの男の仕業に違いない。」



隣村の猟師は最後に一言いった。

「今回の事は驚いたが、おまえはどうするんだ?」


「おれは村に1度戻って、それぞれ弔ってやりたい!」


「そうか、気持ちは分かる。俺でもそうする!」


「おまえは?」


「魚が獲れるだけ獲ったら半分は自分達の食糧、

 もう半分は売って金に変えるかな」


「それは良いじゃないか」


「良くはない。こうでもしないと直ぐに内乱が起きてしまうかも!」


「どういうことだ?」


「何も知らないのか?最近、大名が若くして亡くなったんだよ!

 それで跡目争い!」


「大名が・・・病気か?」


「それが詳しくは知らされなんだが、城で働いていた者の噂があって

 この世のものとは思えない程に美しい着物が仕立てられてな

 それを姫さんの生まれた祝いに渡したら、姫様が突然の病に倒れたらしい。

 大名はそれから心が病んでしまい、ある日、城内でご乱心になられた!」


「えっ!?」


「12、3人を斬り殺してな、まだ大名の部下だけなら不問にも出来たかも知れん

 しかし、摂政の使者を巻き込んでしまったのでどうにもこうにも・・・

 お家取り潰しはされなんだが、姫様が自害。そこで奥方様と旧臣派が

 次に殿を決めるのに酷い事になっているらしい。火の粉が着そうなんで逃げる」


「そんなことに・・・


「早く国から出た方が良いよ!」


「ところである男を知らないか?」




ある地方の言伝えにはこんな話がある。

若者が山に薪を取りに行くと、そこには鬼達が酒盛りをしていた。

若者は鬼に気づかれ宴に参加する事になる。

鬼と意気投合した若者は、鬼にある“業”を教えて貰ったという。

しかし、鬼は酔っていた所為で本来とは違うものを教えてしまった。

鬼が若者を探し当てた頃には、その“業”を使った後だった。

若者は全身の皮膚が破れ、骨を砕き、体が膨張し、形を成したのは鬼の姿だった。



若者はその不安と恐怖から鬼たちに牙を向けた!そしてこの恨みが消えぬよう

鬼の皮を剥いで1針、1針に念を込めて貼りあわせた。

その男、一重珀鶴亀ひとえはくかくきと言い、千万の師である事は知るものは少ない。

一重珀鶴亀のやり残した事、それは罪の清算。

弟子としていつか業を背負わせた事に後悔をさせ、人に戻すのが彼の目的。

間違ってはいるが、それまでは人の皮を被った鬼であろうと・・

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