表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夕焼けとアイス

帰り道でふと、夕焼けが目に入る。

あの頃のことを思い出した。


***


期末テストの前日の放課後。

教室にいる人影はまばらだ。

窓の外を見ると、中庭に立っている一本の木がオレンジ色の光に照らされてそよ風に葉を揺らしているのが目に入ってきた。

「下校の時間です。生徒の皆さんは速やかに下校してください。」

静まり返った教室内に放送の音が響く。

それと同時に開いていたノートや問題集を閉じた。

片付けをしながら後ろを振り返る。

教室に残る人影の中に彼がいた。


彼も残っていた。


なんだかうれしくなる。

今日も一緒に帰れるだろうか。

そんな期待と緊張とが沸き上がってくる。


教室から出ると、彼と目があった。

「お疲れ。」

期末テストの勉強はほんとうに疲れるものである。

でも彼が笑顔でそう言ってくれると疲れよりも、頑張ってやってよかったと思えてくる。

正直に言えば教室に残ってあわよくば一緒に帰るためにやっているのだから不純な動機ではあるのだけれども…。

「そちらこそお疲れ様。明日から期末だねー。」

「そうだねー。ダルい。」

「ほんとそれ。しかも明日、日本史と世界史ってもう死んじゃう。」

「なぜその2科目を同じ日にしたのかなー。」

そんなとりとめもない会話をしていたら駐輪場に着いた。


ここでバイバイか、それとも一緒に…


鼓動が高鳴る。彼が先に自転車を動かした。

どうやら待ってくれている。


一緒に帰れる…!


心の中でガッツポーズをする。

「おまたせ。」

彼の元へ駆け寄る。


私は彼に片思いをしている。

いつから好きなのか、どこが好きなのかなんて分からないけれど、彼を見て心が温かくちょっぴり切なくなるこの現象はきっと恋と呼んでいいと思う。


とりとめもない会話の最中、彼が突然

「あ、ちょっとコンビニ寄るよ。」

と言うので

「一緒に行ってもいい?」

とい聞くと、

「いいよ。」

と言ってくれた。


彼は優しい。きっとだめとは言えないんだろう。意地悪く言えばきっと臆病なんだと思う。

そう思うのはなんだかその優しさに振り回されてしまっていることへの当てつけみたいなものなのかもしれない。

こんなに優しくしてもらっているのに、私はひどい奴だ。

優しいから断れないということを分かっていても尋ねてしまうし、いいよと言われればそれが好意でないと自分を諫めながらもうれしさを感じる。


結局その一言に期待するのだから私は馬鹿だ。


コンビニで彼はアイスを買った。

私もつられて買うことにした。

「奢ろうか?」という彼に「いいよ、自分で払う。」と言ったのは、彼の優しさに甘えすぎてはいけないと思うが故だろう。


二人でアイスを食べながら帰る。

とりとめもない会話がとてもしあわせで、

彼と一緒にいられることがしあわせで、

アイスは冷たいけれど心はとても温かくて、

でも夕焼けを見て、ちょっぴり泣きそうになる。


道の右側を自転車を押しながら歩く。

左を見ると彼の笑った横顔がある。


やっぱり幸せだ。


ふと、アイスを持った右手を見ると、

アイスはとろけてしまっていて、あたふたしながら頬張った。



家に帰りついた私は、アイスの棒をゴミ箱に投げ入れた。


カランという高い音がした。



***



そんな回想をしている今は、告白をした後の帰り道。


「友達だとしか思ったことなかった。」

とどこか遠くを見るような目で

決してこっちを見ることなく、

そう言われてしまった。

彼を家に呼んで遊んだ後に出掛けた、今や母校となった学校でだった。

振られてしまった。


分かっていた。


だから涙なんて出てこないし、寧ろ清々しくて

「それは付き合えないってことでいいんだよね。」

なんて言ったのはちょっとした私の意地悪。


「また遊びに行くね。」

最後に君はそういって自転車にまたがって帰っていった。

本当に優しくて臆病な人だと思った。


きっと彼には私の思いはあまりに重たかっただろう。


ごめんなさい。ありがとう。



これでこの恋は終わりを迎えた。

告白できて、よかったじゃないか。




ふとコンビニが目に入った。寄ることにした。

アイスを買う。


自転車を押し、アイスを食べながら歩く。

アイスは味気なかった…なんてことはなくて、寧ろ甘さが心地よい。

あの頃と同じ味がした。


アイスは相変わらず冷たくて、

でも夕焼けはなんだか温かかった。



左を見る。

自動車が通りすぎていった。


そりゃそうだ。


左側は車道だった。


この格好つけめ。

くすっと笑ってしまう。


アイスはとろける前にきれいに食べ終わった。



家に帰り着いて、

アイスの棒をゴミ箱に捨てた。



カラン、という小さな音がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ