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九月に入ると、朝晩はぐっとすごしやすくなりました。
もう太陽のことを気にして、あせって朝のパトロールをしなくてすむと思うと、レイヴンはほっとしました。
夏の頃より時間をかけてあちこち見回るため、レイヴンの帰宅はだんだん遅くなってゆきました。
もうすっかり太陽が顔を出したころ、会社や学校にむかう人々の頭上をすいすいと、自宅へむかうレイヴンの姿がありました。
いよいよ水色の屋根が近づくと、庭の芝生の上に、一羽のカラスがいるのが見えました。レイヴンにくらべると、かなり躰がちいさいようです。
レイヴンはそのカラスを気にするそぶりもなく、しずかに庭に降り立ちました。
「おかえりなさい、おそかったですね」
「ああ。今日はもう一本先の路地まで見てきたからな」
「それはそれは。おつかれさまでした」
おやおや。なんだかこの二羽のカラス、ずいぶんと仲が良いようです。
実はこのちいさなカラスは、あの日レイヴンが助けた、若いカラスだったのです。
レイヴンがこの町に住み着いているというウワサを聞いた若いカラスは、ひとことお礼が言いたいと、ずっと探していたのでした。
そんな彼女が――若いカラスはメスだったのです――この庭にはじめて姿を見せたのは、お盆休み初日にしては、すずしい夕方のことでした。
それから彼女は、ちょくちょくとこの庭にやってくるようになりました。
何度目かの訪問のときは、おじいさんも庭に出ていました。
彼女はあの日、おじいさんのことを見ていたので、レイヴンを助けてくれたおじいさんだとすぐにわかりました。
そのお礼のつもりで、カァ、と短く鳴いてみせます。
するとおじいさんはうれしそうに笑って、彼女を歓迎してくれました。
「やあ、いらっしゃい。レイヴンにこんなにかわいらしい友人がいたとはね」
そのときはじめて、彼女は命の恩鳥がレイヴンと呼ばれていることを知りました。
すてきな名前ね――とでも言うように、彼女はレイヴンの羽づくろいをはじめます。
いっぽうのレイヴンはというと、恥ずかしそうにそっぽをむいてはいるものの、されるがままにしています。
そんな二羽の仲むつまじいようすを見て、おじいさんは何かを感じ取ったようでした。
「うちの庭の木はりっぱだろう? こまかい枝がたくさんのびているから、葉っぱがぜんぶ落ちてしまっても、意外と風をとおさないんだ。二羽で寄りそってさえいれば、冬でもあたたかくすごせると思うがな」
とってもすてきな提案でした。
「そうそう、君にも名前をつけてやろう。小柄な君には……クロウなんていうのはどうかね。レイヴンにクロウ。うんうん、我ながら良い名だ」
そう言うとおじいさんは、満足そうに笑いました。
良い名をもらったな――と、今度はレイヴンがクロウに羽づくろいです。
クロウがすこしうつむいているように見えるのは、うれし恥ずかし……といった気持ちのあらわれでしょうか。
その日以来、水色屋根のお家と庭で、ひとりと二羽が暮らすようになりました。
しかし九月に入って、ひとつ変化がありました。
レイヴンは、そのことにいち早く気がついていました。
おじいさんの姿が見えないのです。
毎朝必ず、パトロールを終えて自宅にもどると、おじいさんが顔を出してくれました。そのときの朝のあいさつは、一度も欠かしたことのない、ふたりの大事な日課だったのです。
またおじいさんは、レイヴンが朝のパトロールに行っているあいだに、庭の大きなタライの水を替えることも日課としていました。
だからレイヴンは、パトロールから帰ってひととおりの用事をすませると、そのタライで水浴びをしてから木の上の自宅にもどるようにしていたのです。
おじいさんが毎朝きれいな水に替えてくれるので、レイヴンの羽根はいつ見てもツヤツヤと輝いていたものでした。
そのタライに入っている水も、いまはにごってしまい、タライの底にはコケが生えてしまっています。
そして、なんといっても、おみやげです。
レイヴンはパトロールをはじめてからというもの、欠かさずおじいさんにおみやげを持ちかえっています。それを探すために、帰宅がおそくなることもしばしばです。
そのおみやげがもう、おじいさんのサンダルの横に、十四個もならんでいます。
どうしたんだよ、じいさん。
レイヴンは心配でたまりません。
そんな彼をはげますように、クロウがづくろいをはじめました。




