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 よし、今朝も、もんだいなし。

 

 大きな黒い鳥が、住宅地のすぐ上を、ぐるぐると円を描くように飛んでいます。

 冬の朝。やっと顔を見せはじめた太陽の、あたたかいオレンジ色の光をあびて、黒い羽根はきらきらと美しく輝いています。

 するといきなり、その黒く大きな鳥は、いきおいよく空に向かって飛びはじめました。

 雲ひとつない空を、ぐんぐんと一直線にのぼってゆきます。

 大きかったはずのその鳥は、あっという間に、青空に浮かぶちいさな点になってしまいました。

 

 おはようじいさん。今日もこの町は、平和な一日になりそうだぜ。

 

 

 天高く告げるあいさつで、毎朝の日課は終わりです。

 ぐんぐんのぼった空を、今度はすいすい降りてゆきます。

 冬の朝。つめたく澄んだ空気を楽しむように、ときどきつばさを広げる姿は、気流の波に乗っているようでした。

 

 らせん階段を下るように、ぐるぐると回りながら降りてくるカラス。

 いっときは空の点にしか見えなかったその躰は、近づけば近づくほど大きくなってゆきます。他のカラスにくらべると、ふたまわりくらいは大きいでしょうか。

 しかしこのカラスには、躰の大きさよりももっと、分かりやすい特徴がありました。

 向かって左。カラスにとっては右のつばさ。その羽根が一本、すっぽりと抜けているのです。

 まるで、子どもの前歯が抜けて、ぽっかりとすきまがあるのと同じように、そのカラスは羽根が抜けていました。

 

 羽根抜けカラスが、いよいよ住宅地の屋根の高さまでせまってきました。

 きれいな水色の屋根に降り立つと、そのまま羽づくろいをはじめる羽根抜けカラス。

 どうやらこの水色屋根のお家は、だれも人が住んでいない空き家のようです。


 庭には一本、とてもりっぱな木が生えています。

 

 羽根抜けカラスにも、ふたたびりっぱな羽根が生えてくるのでしょうか。

 

 

 


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